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24.彼女の弟(Side亮祐)
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百合と付き合い出してしばらくが経った頃、ふと思い出したように百合が言った。
「あの、もし良かったら弟に会ってくれませんか?弟がぜひ亮祐さんに会いたいって言ってて」
(弟って‥‥俺が彼氏と勘違いしたあの男か)
ぼんやりと姿を思い出す。
あの時は百合の男を見る親しげな表情に意識が向いていて、あまりはっきりと男の方は見ていなかった。
確か見目の良い若い男だったような記憶がある。
仲が良い姉弟だと言っていたから、姉の百合のことが心配なのかもしれないなと思った。
「いいよ、会おうか?」
「良かった。弟が喜びます。日程を調整してまた声かけますね」
「分かった」
百合のことをよく知る弟なら、俺が知らない百合の話も聞けるかもしれないなと俺は微かに期待する。
付き合いを会社では秘密にしているからこそ、百合の身近な人に彼氏として会うのは初めてのことだった。
それから程なくして日程が決まり、週末に百合の弟と食事をすることとなった。
予約しておいた都内のホテル内に入っているダイニングバーに百合と一緒に向かうと、先に百合の弟は席に着いていた。
俺たちを視界に入れると、腰を上げて笑顔で迎えてくれる。
「はじめまして!並木蒼太と申します。姉がいつもお世話になってます」
「はじめまして、大塚亮祐です」
双方が挨拶をすると軽く握手を交わす。
百合の弟の蒼太くんは、百合にどことなく似た可愛いらしい顔立ちの甘いマスクをした青年だった。
身にまとう雰囲気は百合とは全然違い、明るくハツラツとしていて、それでいて飄々とした掴みどころがないような感じに見受けられた。
百合の2歳下だと言うが、同い年か年上に見えなくもない。
(姉ぶりたいって言ってたから、そう言うと百合は拗ねるかもしれないな)
それを想像すると、拗ねる百合が可愛くて少し頬が緩んだ。
「いや~、今日は大塚さんに会えて嬉しいです!ずっと姉ちゃんに会わせてくれって言ってたんですよ」
「2人は仲が良いんだってね?俺は兄弟がいないから羨ましいよ」
「そうですね、子供の頃から喧嘩らしい喧嘩もしてないですね。よく周りからは仲が良いってのは言われます。ね、姉ちゃん?」
「うん。私は周りの女の子から蒼太を紹介してって仲介を頼まれることばっかりだったけどね」
百合が笑いを含んだ声で蒼太くんを見て言う。
誰かをからかう百合なんて新鮮だった。
「それって逆もそうなんじゃない?蒼太くんも百合を紹介してって仲介頼まれることが多かったでしょう?」
俺は蒼太くんに問いかけたのだが、百合がそこに口を挟む。
「そんなことあるわけないじゃないですか!私は今まで一度だって蒼太からそんなの言われたことないですよ?」
「へぇ‥‥」
それは意外なことのように俺は感じた。
百合ならば同世代の男からも引くて数多だろうし、弟である蒼太くんにそういったお願いが殺到しそうなもんだけど。
蒼太くんはその話に特に何も反応せず、さらりと話を切り替えた。
「うちの姉、大塚さんにご迷惑かけてませんか?ちょっと素直じゃないというか、変に頑固なところがあるし」
「ちょっと、蒼太‥‥!」
「ははっ。それは分かるな。逃げ道を塞がないと素直になってくれないところはあるかもね」
「やっぱり。姉ちゃんそういうとこ治した方がいいって」
「‥‥それはそう思って努力してる」
百合はちょっと拗ねたようにそっぽを向いた。
(蒼太くんと話す時の百合はいつもより子供っぽくなるな)
そのあとも蒼太くんが明るく色々な話題を持ち出してくれるので会話は弾み、食事とお酒も進んだ。
「すみません、私ちょっとお手洗いに行ってきます」
頬をほんのり赤くした百合が席を立つ。
足取りはしっかりしているので、まだ酔っぱらってはいないのだろう。
百合が席を外すと、蒼太くんと俺の2人きりになった。
蒼太くんはそれを待っていたかのように、百合がいなくなるや否や話しかけてきた。
「姉ちゃんがいない間にお伝えしておきたいことがあって。大塚さんは、姉ちゃんの過去の恋愛って何か聞いてたりします?」
「いつも”本当に俺のこと好き?”って彼氏に言われて振られる話は前に聞いたけど?」
「そうですか。実は姉ちゃんって大塚さんと付き合う前は、ぶっちゃけ”来る者拒まず、去る者追わず”みたいな感じだったんですよ。だから男も途切れずいるみたいな感じで」
「じゃあ俺と出会った時はたまたま彼氏が途切れたタイミングだったってこと?」
「そうです。だから今後もしかしたら誰かからそういう姉ちゃんの過去の話を大塚さんが耳にするかもしれません。ただ誤解して欲しくなくって」
「というと?」
「今までは確かにそんな感じで、姉ちゃんはなんとなく男と付き合ってたと思うんです。でも大塚さんに関してはそうじゃない。かなり真剣ですし、決してなんとなく付き合ったわけではないです。なので、誰かから変なことを聞いても誤解して欲しくないんです」
蒼太くんに真剣な眼差しで見られて、そう訴えかけられた。
彼はこれまでかなり身近で百合の恋愛を見守ってきたのだろう。
それが言葉の端々で伺えた。
「そうなんだ、わかった。百合がなんとなく俺と付き合ったとは思ってないから大丈夫。それに過去のことは知らなかったけど、仮に誰かから聞いても蒼太くんの言葉を信じるよ」
「ありがとうございます!姉ちゃんは本当に素直じゃないところがあるから、大塚さんにちゃんと想いが伝わってんのか心配だったんですよ。それに色々と無自覚で鈍感なんで」
「あぁ、それはすごく分かるな。あと無防備だしね」
「本当、その通りですよ~!」
そのあとは百合が戻ってくるまで、いかに百合が無自覚で無防備で鈍感なのかで盛り上がった。
戻ってきた百合は話を弾ませる俺たちを見て嬉しそうに目を細める。
その会話の内容がまさか自分の隙だらけの言動についてだとは全く思っていないようだった。
「あの、もし良かったら弟に会ってくれませんか?弟がぜひ亮祐さんに会いたいって言ってて」
(弟って‥‥俺が彼氏と勘違いしたあの男か)
ぼんやりと姿を思い出す。
あの時は百合の男を見る親しげな表情に意識が向いていて、あまりはっきりと男の方は見ていなかった。
確か見目の良い若い男だったような記憶がある。
仲が良い姉弟だと言っていたから、姉の百合のことが心配なのかもしれないなと思った。
「いいよ、会おうか?」
「良かった。弟が喜びます。日程を調整してまた声かけますね」
「分かった」
百合のことをよく知る弟なら、俺が知らない百合の話も聞けるかもしれないなと俺は微かに期待する。
付き合いを会社では秘密にしているからこそ、百合の身近な人に彼氏として会うのは初めてのことだった。
それから程なくして日程が決まり、週末に百合の弟と食事をすることとなった。
予約しておいた都内のホテル内に入っているダイニングバーに百合と一緒に向かうと、先に百合の弟は席に着いていた。
俺たちを視界に入れると、腰を上げて笑顔で迎えてくれる。
「はじめまして!並木蒼太と申します。姉がいつもお世話になってます」
「はじめまして、大塚亮祐です」
双方が挨拶をすると軽く握手を交わす。
百合の弟の蒼太くんは、百合にどことなく似た可愛いらしい顔立ちの甘いマスクをした青年だった。
身にまとう雰囲気は百合とは全然違い、明るくハツラツとしていて、それでいて飄々とした掴みどころがないような感じに見受けられた。
百合の2歳下だと言うが、同い年か年上に見えなくもない。
(姉ぶりたいって言ってたから、そう言うと百合は拗ねるかもしれないな)
それを想像すると、拗ねる百合が可愛くて少し頬が緩んだ。
「いや~、今日は大塚さんに会えて嬉しいです!ずっと姉ちゃんに会わせてくれって言ってたんですよ」
「2人は仲が良いんだってね?俺は兄弟がいないから羨ましいよ」
「そうですね、子供の頃から喧嘩らしい喧嘩もしてないですね。よく周りからは仲が良いってのは言われます。ね、姉ちゃん?」
「うん。私は周りの女の子から蒼太を紹介してって仲介を頼まれることばっかりだったけどね」
百合が笑いを含んだ声で蒼太くんを見て言う。
誰かをからかう百合なんて新鮮だった。
「それって逆もそうなんじゃない?蒼太くんも百合を紹介してって仲介頼まれることが多かったでしょう?」
俺は蒼太くんに問いかけたのだが、百合がそこに口を挟む。
「そんなことあるわけないじゃないですか!私は今まで一度だって蒼太からそんなの言われたことないですよ?」
「へぇ‥‥」
それは意外なことのように俺は感じた。
百合ならば同世代の男からも引くて数多だろうし、弟である蒼太くんにそういったお願いが殺到しそうなもんだけど。
蒼太くんはその話に特に何も反応せず、さらりと話を切り替えた。
「うちの姉、大塚さんにご迷惑かけてませんか?ちょっと素直じゃないというか、変に頑固なところがあるし」
「ちょっと、蒼太‥‥!」
「ははっ。それは分かるな。逃げ道を塞がないと素直になってくれないところはあるかもね」
「やっぱり。姉ちゃんそういうとこ治した方がいいって」
「‥‥それはそう思って努力してる」
百合はちょっと拗ねたようにそっぽを向いた。
(蒼太くんと話す時の百合はいつもより子供っぽくなるな)
そのあとも蒼太くんが明るく色々な話題を持ち出してくれるので会話は弾み、食事とお酒も進んだ。
「すみません、私ちょっとお手洗いに行ってきます」
頬をほんのり赤くした百合が席を立つ。
足取りはしっかりしているので、まだ酔っぱらってはいないのだろう。
百合が席を外すと、蒼太くんと俺の2人きりになった。
蒼太くんはそれを待っていたかのように、百合がいなくなるや否や話しかけてきた。
「姉ちゃんがいない間にお伝えしておきたいことがあって。大塚さんは、姉ちゃんの過去の恋愛って何か聞いてたりします?」
「いつも”本当に俺のこと好き?”って彼氏に言われて振られる話は前に聞いたけど?」
「そうですか。実は姉ちゃんって大塚さんと付き合う前は、ぶっちゃけ”来る者拒まず、去る者追わず”みたいな感じだったんですよ。だから男も途切れずいるみたいな感じで」
「じゃあ俺と出会った時はたまたま彼氏が途切れたタイミングだったってこと?」
「そうです。だから今後もしかしたら誰かからそういう姉ちゃんの過去の話を大塚さんが耳にするかもしれません。ただ誤解して欲しくなくって」
「というと?」
「今までは確かにそんな感じで、姉ちゃんはなんとなく男と付き合ってたと思うんです。でも大塚さんに関してはそうじゃない。かなり真剣ですし、決してなんとなく付き合ったわけではないです。なので、誰かから変なことを聞いても誤解して欲しくないんです」
蒼太くんに真剣な眼差しで見られて、そう訴えかけられた。
彼はこれまでかなり身近で百合の恋愛を見守ってきたのだろう。
それが言葉の端々で伺えた。
「そうなんだ、わかった。百合がなんとなく俺と付き合ったとは思ってないから大丈夫。それに過去のことは知らなかったけど、仮に誰かから聞いても蒼太くんの言葉を信じるよ」
「ありがとうございます!姉ちゃんは本当に素直じゃないところがあるから、大塚さんにちゃんと想いが伝わってんのか心配だったんですよ。それに色々と無自覚で鈍感なんで」
「あぁ、それはすごく分かるな。あと無防備だしね」
「本当、その通りですよ~!」
そのあとは百合が戻ってくるまで、いかに百合が無自覚で無防備で鈍感なのかで盛り上がった。
戻ってきた百合は話を弾ませる俺たちを見て嬉しそうに目を細める。
その会話の内容がまさか自分の隙だらけの言動についてだとは全く思っていないようだった。
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