上 下
14 / 48
乳児編

転生したら、王都で襲われた

しおりを挟む
 生まれてから四年が過ぎた。

 あれ以来、直接襲われる事は無くなったが、食事に毒を盛られる事は何度かあった。ネズミを殺せないくらいの遅効性毒だ。
 クリフが『殿下、毒味用のネズミが日に日に弱っています。どうか、どうか、御慈悲を…』と半べそで懇願してきた事をきっかけに事件が発覚したが、当然、犯人は見つかっていない。

 しかし、毎日育てていたとはいえ、ネズミに感情移入するなんてクリフらしいと言えばクリフらしいが、『騎士としてどうなの?』と思ったのでサッズ直伝の感電したみたいに痺れる槍をお見舞いしてやった。
 クリフは、もんどりうって床を転がりながらも『殿下…どうぞ…ミルちゃんに御慈悲を…』というので、ネズミの『ミルちゃん?』は城外に解放してやった。

 その後もクリフが『悪意の犠牲になるのはミルちゃんだけで十分です、殿下…』と、うるさいので毒味役を失ってしまった。だが、実はクリフの言う通り、本当は毒味の必要がない。
 侍女達が提供する食事なんて最初から信用していないので一切手をつけず、サッズが持って来た食べ物でどうにかしのいでいるのだ。だが…

「はぁ…暖かい食べ物が食べたいな…」

 欲望に負けた俺は、今、王都にある住居区画の空き家にいる。

 この日の為に、夜中こっそり王城を抜け出して目ぼしい空き家を見繕っていたのだ。そして、次元魔法を使って転移してきた。

 王都散策、楽しみだな。
 冒険者ギルドとかあるのかな?
 エルフとか居たらどうしよ。
 
 妄想が膨らみ、これからは始まる冒険に胸がワクワクしてきた。

「おい! なんだ、お前!」

 急に呼び掛けられて、思わず振り向く。

 部屋の入り口には、小学校低学年くらいの男の子が仁王立ちして俺を睨んでいた。お金持ちの子なのだろうか。そこそこ上等な服を着ているが、何故か、かなり汚れている。
 その後ろには、いかにもスラムの子供といった感じの汚い服を着た男の子が二人居て、お金持ちの子供を真似して俺を睨んできた。

 えーと。
 なんだろう。
 何で怒ってるの?

 秘密基地に知らない子供が居るから怒っちゃったのかな?
 俺、子供の頃から病院で暮らしてたから、そういうの分からないんだよね。
 とりあえず、謝っておくか。

「勝手に入って、すまな…」
「うっさい!」

 俺の謝罪に金持ちの子供が割って入ってきた。

 なんなんだよ。
 謝りたいだけなのに。
 イラッとしたが、精神年齢は大人な俺だ。
 それでも一言謝ってあげよう。
 

「すまな…」
「うるさいって言ってるだろ! バカなの?」

「すま…」
「だまれゴミ!」

「す…」
「ああ。もう、いい。もう、何もしゃべるな…」

 少年達は床に落ちていた角材やレンガなどを手にすると、俺にジリジリと近寄る。

「奪われる気持ちを知れ、貴族がぁああああ!」

 お金持ちの子供が顔を真っ赤にさせて、角材を振り上げた。

 あー。
 うん。
 えーと。

 どうしよう。
 なんか、事情あるっぽいな。
 慣れない喧嘩を無理に吹っ掛けている感じ。

 クソ爺に、いや、失礼。
 槍神と呼ばれるサッズに毎日泣かされている俺からしたら、この程度の攻撃なんて、お遊戯みたいなものだ。だから、三人でかかって来ようが余裕だからいいんだけどさ。
 
 さて、どうしよう。
 今日は王都散策を目一杯楽しむ予定なんだよね。
 余計な面倒ごとに巻き込まれたくない。
 このまま避け続けて、チビッ子たちが、疲れたら出ていくか。実力差が分かれば諦めるだろう。

 などと考えていたら、子供達の息があがり、攻撃も止んだ。
 そして、『なんか、ごめんね』と言いながら部屋を出ようとしたら、金持ちの少年が恨み節を呟きながら呼び止めた。

「クソッ。俺達から奪ったあげくに、話も聞かないのか…死ね、悪魔め…」

 うん。
 僕は大人だ、そして、王族だ。
 こうした少年の間違った言動をたしなめるのも、王家の者の振る舞いと言えるだろう。
 僕は微笑むと、少年に優しく語りかけた。
 
「しばいたろか、このガキぃいいい!」

 大阪弁で血管が切れるほど怒鳴ってしまったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト
ファンタジー
不本意ながら聖女を務めていたアリエッタは、国王の勅命を受けて勇者と共に魔界に乗り込んだ。 そして対面した討伐対象である魔王は――とても可愛い幼子だった。 え?あの可愛い少年を倒せとおっしゃる? 無理無理!私には無理! 人間界では常人離れした力を利用され、搾取され続けてきたアリエッタは、魔王討伐の暁には国を出ることを考えていた。 え?じゃあ魔界に残っても一緒じゃない? 可愛い魔王様のお世話をして毎日幸せな日々を送るなんて最高では? というわけで、あっさり勇者一行を人間界に転移魔法で送り返し、厳重な結界を張ったアリエッタは、なんやかんやあって晴れて魔王ルイスの教育係を拝命する。 魔界を統べる王たるべく日々勉学に励み、幼いながらに威厳を保とうと頑張るルイスを愛でに愛でつつ、彼の家臣らと共にのんびり平和な魔界ライフを満喫するアリエッタ。 だがしかし、魔王は魔界の王。 人間とは比べ物にならない早さで成長し、成人を迎えるルイス。 徐々に少年から男の人へと成長するルイスに戸惑い、翻弄されつつも側で支え続けるアリエッタ。 確かな信頼関係を築きながらも変わりゆく二人の関係。 あれ、いつの間にか溺愛していたルイスから、溺愛され始めている…? ちょっと待って!この溺愛は想定外なのですが…! ぐんぐん成長するルイスに翻弄されたり、諦めの悪い勇者がアリエッタを取り戻すべく魔界に乗り込もうとしてきたり、アリエッタのウキウキ魔界生活は前途多難! ◇ほのぼの魔界生活となっております。 ◇創造神:作者によるファンタジー作品です。 ◇アリエッタの頭の中は割とうるさいです。一緒に騒いでください。 ◇小説家になろう様でも公開中 ◇第16回ファンタジー小説大賞で32位でした!ありがとうございました!

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

へたまろ
ファンタジー
ここは、とある恋愛ゲームの舞台……かもしれない場所。 主人公は、まったく情報を持たない前世の知識を持っただけの女性。 王子様との婚約、学園での青春、多くの苦難の末に……婚約破棄されて修道院に送られる女の子に転生したただの女性。 修道院に送られる途中で闇に屠られる、可哀そうな……やってたことを考えればさほど可哀そうでも……いや、罰が重すぎる程度の悪役令嬢に転生。 しかし、この女性はそういった予備知識を全く持ってなかった。 だから、そんな筋書きは全く関係なし。 レベルもスキルも魔法もある世界に転生したからにはやることは、一つ! やれば結果が数字や能力で確実に出せる世界。 そんな世界に生まれ変わったら? レベル上げ、やらいでか! 持って生まれたスキル? 全言語理解と、鑑定のみですが? 三種の神器? 初心者パック? 肝心の、空間収納が無いなんて……無いなら、努力でどうにかしてやろうじゃないか! そう、その女性は恋愛ゲームより、王道派ファンタジー。 転生恋愛小説よりも、やりこみチートラノベの愛読者だった! 子供達大好き、みんな友達精神で周りを巻き込むお転婆お嬢様がここに爆誕。 この国の王子の婚約者で、悪役令嬢……らしい? かもしれない? 周囲の反応をよそに、今日もお嬢様は好き勝手やらかす。 周囲を混乱を巻き起こすお嬢様は、平穏無事に王妃になれるのか! 死亡フラグを回避できるのか! そんなの関係ない! 私は、私の道を行く! 王子に恋しない悪役令嬢は、可愛いものを愛でつつやりたいことをする。 コメディエンヌな彼女の、生涯を綴った物語です。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

処理中です...