上 下
13 / 19

9 休日の早朝

しおりを挟む



『僕、獣人国に帰らなきゃいけないんだって』
『え、帰っちゃうの?』
『うん。もう、あまりここにはいられないんだって』

耐え切れなくなった涙がポロポロと落ちる。

『やだよ、行かないで』

幼い私はどうしようもない駄々をこねる。

『ごめんね、でも絶対に君に会いにくるよ』
『会いに…?』
『うん。そしたら、結婚しよ』
『結婚?』
『そう、パパとママみたいになるんだ』
『じゃあ、ずっと一緒に居られる?』
『うん!』




今日は久しぶりに昔の夢を見た。
何も知らずに約束をしてしまった、私の番との幼い頃の記憶。
結局、その後私の番と会う事は無かった。私は、周りに獣人がいないし思い人は今でも初恋を引きずり続けてる人間だから、番関連であまり困った事はない。というか、番があるせいで恋愛一つ出来ない。どうせ、好きな人ができても結ばれる事は出来ないのだから。

今日も母への手紙をポストに投函しに行く。

そう。あれからも色々と他にないか考えてみたが、結局クリスティーナが断罪されるのを今更阻止するのは難しいだろうという結論に行き着いた。
王子が断罪をこの時にするという事は、バックに王が着く見込みがあるからに違いない。でなければ、自分の王位継承権が消えるだけだ。
どのみち、断罪を阻止した所でクリスティーナがこんな国で幸せになれる事は無いだろうし。

私の考えには、まず裏の王子の協力が必要なのだが…

「どうにかして裏の王子と会えないか…」
「僕がどうしたんだい?」
「わっ!!」

急に後ろから声をかけられてびっくりする。
振り向くと、裏の王子がニコニコしながらいた。

「裏の王子ですか。驚かさないで下さい」
「ごめん、そんなに驚くと思ってなくて」
「こんな時間にどうしたんですか?めっちゃ早朝なんですけど」

今日は学校が休みの日の早朝5時だ。

「いやぁ、偶々体を使えれてね~って、君そういえばかなり雰囲気が変わるんだね」
「そうですか?」
「流石に分かるよ。もう一人の僕は分からずに君をナンパしてたけど」

そうか、今日は学校じゃないからバレッタと普通の靴を履いているんだ。裏の王子は分かったみたいでよかった。

「でも、この前の時私の事を男だと言いましたよね?」
「いや、分かってたよ!ただ、もう一人の僕が君の事を勘違いしていたのを知っていたからそういうフリをしただけで…ちょっと一瞬分からなかったけど…」

いや、結局男だと思ったんかい。別に良いけど、全然気にして無いから良いけど。

その後、とりあえず私のポスト投函までついて来てもらってから近くの公園のベンチに座った。

「あー、クリスティーナに僕の事言った?」
「言いましたよ。かなり困惑してました」
「そりゃそうだよねー」

うんうんと頷く。
正直、めっちゃ話しやすいな、この王子。

「そういえば、丁度聞きたいことがあったんです。裏の王子が表の王子を操作する事は出来ないんですか?」
「ん~、難しいなぁ。でも、出来なくはないよ。言うと、僕がもう一人の僕に話かけて誘導する事が出来るんだよね」
「表の王子は今の王子に干渉出来ないんですよね」
「そうそう。元の体の持ち主が僕だからか、僕が主導権を握っている時は彼は寝ているらしいんだよね。だから、今の事もこの前の事も彼は覚えていない」

何ともご都合主義だ。こちらとしてはラッキーだな。

「なら良いですね。実はお願いしたいのですが、断罪を避けたとしてもクリスティーナは幸せになれないと思うんです。私もウメも、クリスティーナには幸せになって欲しく思っているんです。私達を案じるよりも。」
「そうだね。僕が言うのも何だが、幸せになって欲しいよ、彼女には特に」

王子の顔はとても悲しそうに歪んでいた。
確かに、今までクリスティーナがもう一人の自分に酷い事をされているのを自分ではどうしようもできなかったのだろう。表の王子が裏の王子の言う事を聞くとは思えない。

「それなら早いですね。実は…クリスティーナの断罪内容を変えて欲しいんです」

でも、あいつが話を聞かないとも限らない。




王子と別れて、寮に帰る。

「今日はやけに霧が濃いな」

そういえば、昨日誰かが明日は濃霧だと言っていた気がする。
突然、体がブルっと震える。
獣人の実体験からすると、身の毛がよだつ時は何かしら良くないものを感覚が感じ取った時だ。

「まさか…いや、そうだ!!」

急いで身構える。まだ、朝6時、人は殆どいない。
こんな日は確かに好都合だ。

ー獣人の捕獲には

そう思った瞬間、後ろから手で口をおさえられてしまった。


「ごめんな、嬢ちゃん」

そう言う声を聞いたのを最後に意識を手放した。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!

すな子
恋愛
 ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。  現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!  それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。  ───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの? ******** できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。 また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。 ☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

処理中です...