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街
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「リチャード様、今日は家の用事がありますので三時間ほど失礼します」
「あぁ、夕食は間に合うか?」
「はい。大丈夫です」
急がなくてもいいぞと送り出してくれるリチャードにお辞儀をするとカインは王宮から馬車に乗り街へ向かった。
侍女達が美味しいと教えてくれたクッキー屋で可愛いクマのクッキーを購入し、箱には青いリボンをかけてもらった。
もちろんフィオナのためのクッキーだ。
次の店ではチョコレートを購入。
甘いミルクチョコとオレンジジャムの入ったチョコレートを選び、こちらのリボンはオレンジ色にしてもらった。
彼女のためにクッキーとチョコを選ぶ俺。
こんな日が自分に来るなんて!
素晴らしい!
彼女バンザイ!
「港広場に向かってください」
宰相の息子セドリックが自慢していた金平糖は港広場の前にある店だと言っていた。
絶対に罠だと思うけれど。
クッキーとチョコレートは潰れるといけないので馬車に置いておこう。
修復士の特権を利用し金木犀の小さな花を取り寄せると、馬車の中に甘い香りが広がった。
『どこに居ても必ず帰って来られるように』
金木犀はクライブ一族の守護花。
幼い頃からこの木の下で剣術や弓矢、舞まで練習した。
この匂いは嫌いじゃない。
金木犀の香りで心を落ち着かせながら、カインは馬車の中に愛用の服や靴、武器達も召喚した。
蜘蛛と本の虫。
両方いるとは厄介だ。
囚われた修復士達は片方にしか気づいていなかったのかもしれない。
どちらも隠れるのが上手い。
特に本の虫は目立たず見ているだけなので正体は掴みにくい。
予想では宰相の息子セドリックに蜘蛛が取り憑いている。
八回目のあの日セドリックが絡んできたのは、セドリックがフィオナを好きだからだ。
急に出てきた補佐官カインを邪魔だと思ったのだろう。
蜘蛛は大人しく巣で餌を待つタイプが多いが、素早い動きで追いかけ牙を使って捕獲するタイプもいる。
テリトリーに入った者をすぐに攻撃しにきたと考えれば、凶暴な蜘蛛がセドリックに付いていると考えても良いだろう。
その影に隠れた本の虫。
カインの予想では本の虫は騎士ルイージだ。
五回目でフィオナが宰相の娘に刺された時、近くに居たのは十人。
宰相の娘、騎士ハリウス、ワイズ、ルイージ、ガストー、アズレン、侍女エルメ、王女フィオナ、王子リチャード、自分。
この場には宰相の息子セドリックはいなかった。
八回目でフィオナがリチャードを庇いワイズに斬られた時は七人。
騎士ワイズ、ハリウス、ルイージ、侍女エルメ、王女フィオナ、王子リチャード、自分。
ここにも宰相の息子セドリックはいなかった。
十回目のルダー国についていったのは侍女エルメ、宰相の息子セドリック、そして騎士ルイージ。
いつも近くにいるが何も目立った動きをしない人物が一人だけ存在する。
騎士ルイージだ。
リーダーがワイズからハリウスに変わっても、ワイズが盗賊になりアズレンに変わっても、不自然なほど全く動きが変わらない人物。
目立たず、何もせず、だが必ずいつも事件の時には近くにいる。
蜘蛛と連携しているのかはわからないが、どこかで蜘蛛の動きを見ていることは間違いない。
今日、港広場にルイージは来るだろうか?
カインは革靴を脱ぎ、召喚したブーツに履き替えた。
仕立ての良い服も脱ぎ、修復士の服に着替える。
久しぶりの修復士姿だ。
この物語に入ってからどんなに話を早送りをしても三ヶ月は経っている。
イベントだけ体験してもこの物語は十一回目。
何度も繰り返すうちに三ヶ月もかかってしまった。
現実世界ではまだ数時間だろうけど。
身体は鈍らないように鍛えていたが、武器は久しぶりだ。
ただの公爵子息がたとえ練習でも王子リチャードの横で剣を振り回すわけにはいかない。
補佐官ではなく騎士にしておけば剣の練習もできたが、騎士では大災害や毒入りスープが防げない。
服に細かい武器をセットし、カインは深呼吸をした。
初めて使う武器も楽しみだ。
危なすぎて今まで使用できなかった武器ウルミも使ってみたい。
ウルミは、しなる刃をムチのように使用する攻撃力の高い刀剣。
家の庭で練習していたら、祖父に危ないからやめろと怒られた武器だ。
これは途中で召喚しよう。
相手の武器次第だがハルバードも召喚したい。
ハルバードは槍のように尖った穂先と斧のような形をした部分、そして鉤爪を持つ武器。
突く・切る・引っ掻く・叩くがこの武器一つでできる優れものだ。
少し重いが、せっかく初任給で買ったのだから一度は使ってみたい。
まもなく港広場に馬車が着く。
敵は何人いるだろうか?
宰相の息子セドリックが一人で来るとは思えない。
金木犀の香りを嗅ぎ、気持ちを落ち着かせる。
「久しぶりに暴れるか」
カインはペロッと舌なめずりをすると、お気に入りのソード・ブレイカーを左足に装着した。
ーーーーーー
補足)
◇ウルミ
長さ150cm程度の刀剣。しなる刃をムチのように使用する攻撃力の高い武器。
◇ハルバード
長さ3m、重さ3kgもある長柄武器。
槍のように尖った穂先、斧、鉤爪が組み合わされた接近戦用の武器。
◇ソード・ブレイカー
攻撃と防御を行う短剣。
聞き手以外の手に装着し攻撃を受け流したり、櫛状の部分で受け止めて相手の剣を折ったりする武器。
長さは25cm程度、重さは250g。
「あぁ、夕食は間に合うか?」
「はい。大丈夫です」
急がなくてもいいぞと送り出してくれるリチャードにお辞儀をするとカインは王宮から馬車に乗り街へ向かった。
侍女達が美味しいと教えてくれたクッキー屋で可愛いクマのクッキーを購入し、箱には青いリボンをかけてもらった。
もちろんフィオナのためのクッキーだ。
次の店ではチョコレートを購入。
甘いミルクチョコとオレンジジャムの入ったチョコレートを選び、こちらのリボンはオレンジ色にしてもらった。
彼女のためにクッキーとチョコを選ぶ俺。
こんな日が自分に来るなんて!
素晴らしい!
彼女バンザイ!
「港広場に向かってください」
宰相の息子セドリックが自慢していた金平糖は港広場の前にある店だと言っていた。
絶対に罠だと思うけれど。
クッキーとチョコレートは潰れるといけないので馬車に置いておこう。
修復士の特権を利用し金木犀の小さな花を取り寄せると、馬車の中に甘い香りが広がった。
『どこに居ても必ず帰って来られるように』
金木犀はクライブ一族の守護花。
幼い頃からこの木の下で剣術や弓矢、舞まで練習した。
この匂いは嫌いじゃない。
金木犀の香りで心を落ち着かせながら、カインは馬車の中に愛用の服や靴、武器達も召喚した。
蜘蛛と本の虫。
両方いるとは厄介だ。
囚われた修復士達は片方にしか気づいていなかったのかもしれない。
どちらも隠れるのが上手い。
特に本の虫は目立たず見ているだけなので正体は掴みにくい。
予想では宰相の息子セドリックに蜘蛛が取り憑いている。
八回目のあの日セドリックが絡んできたのは、セドリックがフィオナを好きだからだ。
急に出てきた補佐官カインを邪魔だと思ったのだろう。
蜘蛛は大人しく巣で餌を待つタイプが多いが、素早い動きで追いかけ牙を使って捕獲するタイプもいる。
テリトリーに入った者をすぐに攻撃しにきたと考えれば、凶暴な蜘蛛がセドリックに付いていると考えても良いだろう。
その影に隠れた本の虫。
カインの予想では本の虫は騎士ルイージだ。
五回目でフィオナが宰相の娘に刺された時、近くに居たのは十人。
宰相の娘、騎士ハリウス、ワイズ、ルイージ、ガストー、アズレン、侍女エルメ、王女フィオナ、王子リチャード、自分。
この場には宰相の息子セドリックはいなかった。
八回目でフィオナがリチャードを庇いワイズに斬られた時は七人。
騎士ワイズ、ハリウス、ルイージ、侍女エルメ、王女フィオナ、王子リチャード、自分。
ここにも宰相の息子セドリックはいなかった。
十回目のルダー国についていったのは侍女エルメ、宰相の息子セドリック、そして騎士ルイージ。
いつも近くにいるが何も目立った動きをしない人物が一人だけ存在する。
騎士ルイージだ。
リーダーがワイズからハリウスに変わっても、ワイズが盗賊になりアズレンに変わっても、不自然なほど全く動きが変わらない人物。
目立たず、何もせず、だが必ずいつも事件の時には近くにいる。
蜘蛛と連携しているのかはわからないが、どこかで蜘蛛の動きを見ていることは間違いない。
今日、港広場にルイージは来るだろうか?
カインは革靴を脱ぎ、召喚したブーツに履き替えた。
仕立ての良い服も脱ぎ、修復士の服に着替える。
久しぶりの修復士姿だ。
この物語に入ってからどんなに話を早送りをしても三ヶ月は経っている。
イベントだけ体験してもこの物語は十一回目。
何度も繰り返すうちに三ヶ月もかかってしまった。
現実世界ではまだ数時間だろうけど。
身体は鈍らないように鍛えていたが、武器は久しぶりだ。
ただの公爵子息がたとえ練習でも王子リチャードの横で剣を振り回すわけにはいかない。
補佐官ではなく騎士にしておけば剣の練習もできたが、騎士では大災害や毒入りスープが防げない。
服に細かい武器をセットし、カインは深呼吸をした。
初めて使う武器も楽しみだ。
危なすぎて今まで使用できなかった武器ウルミも使ってみたい。
ウルミは、しなる刃をムチのように使用する攻撃力の高い刀剣。
家の庭で練習していたら、祖父に危ないからやめろと怒られた武器だ。
これは途中で召喚しよう。
相手の武器次第だがハルバードも召喚したい。
ハルバードは槍のように尖った穂先と斧のような形をした部分、そして鉤爪を持つ武器。
突く・切る・引っ掻く・叩くがこの武器一つでできる優れものだ。
少し重いが、せっかく初任給で買ったのだから一度は使ってみたい。
まもなく港広場に馬車が着く。
敵は何人いるだろうか?
宰相の息子セドリックが一人で来るとは思えない。
金木犀の香りを嗅ぎ、気持ちを落ち着かせる。
「久しぶりに暴れるか」
カインはペロッと舌なめずりをすると、お気に入りのソード・ブレイカーを左足に装着した。
ーーーーーー
補足)
◇ウルミ
長さ150cm程度の刀剣。しなる刃をムチのように使用する攻撃力の高い武器。
◇ハルバード
長さ3m、重さ3kgもある長柄武器。
槍のように尖った穂先、斧、鉤爪が組み合わされた接近戦用の武器。
◇ソード・ブレイカー
攻撃と防御を行う短剣。
聞き手以外の手に装着し攻撃を受け流したり、櫛状の部分で受け止めて相手の剣を折ったりする武器。
長さは25cm程度、重さは250g。
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