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オメガバース

運命の番(5)

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「はぁ~。」

「でっかいため息だなぁ。悩み事?俺になんでも言ってみなよ。」

「え~。あっくんには絶対わからないもん……」

「何そのひねくれた感じ~。やだやだ!」


生駒が晴柊の頭をわしゃわしゃと撫でる。コンビニアルバイトの同僚である生駒は、晴柊の唯一の友人であった。彼には唯一自分がΩだと言うことを打ち明けている。客足少ない深夜帯のコンビニで2人、品出しをしていた。今日は当日欠勤が出て晴柊は深夜まで出勤をしていたのだった。


晴柊は発情期が収まりいつものように琳太郎との生活が再スタートしていた。あれから特に変わったことは無いが、琳太郎のこまめな体調チェックは相変わらず。晴柊は以前よりも琳太郎を拒否しなくなっていた、というより、段々と受け入れ始めている自分がいることに自分自身が追い付いていなかった。


「そういえば、最近引っ越したんだって?でも急になんで?」


そんな話していなかったじゃないか、と、不思議そうに晴柊に聞く生駒。


「ああ、うん……まあ、ルームシェア的な?」

「……ふーん。彼女?」

「ま、まさか!男だよ男!」


晴柊がまるで照れたような反応をする。生駒は秘かに晴柊に思いを寄せている。しかし、生駒自身はβであるため、中々晴柊にその想いを伝えかねていた。βの自分では、Ωの晴柊を守れない。生駒のなかでどこか引け目を感じ、覚悟が足りてないでいた。


「でも、尚更誰と?晴柊、友達いないじゃん。」

「なっ……!そんなストレートでっ……まぁ、そうなんだけど……」

「それに、Ωの晴柊が誰かと一緒に住むなんて……もしかして、相手はαなの?」

「っ……。」


生駒が真剣な目で晴柊に問いかける。本当のことを言うべきだろうか。いやでも、相手がヤクザのαだと知れれば生駒に余計な心配をかけるかもしれない。晴柊がどう答えようかと困っているとき、タイミングよくお客さんから「レジお願いします」と、声を掛けられる。


「あ、あぁ、すみません!今行きます!」


晴柊は逃げるようにその場を去りレジ作業へと向かった。事情を知っている生駒ならこの状況がおかしいことくらい見抜かれるに決まっていた。晴柊は口を滑らせたかなと思いつつも、変に意識して隠し事をするまでのことか?と頭をぐるぐると巡らせていた。


深夜2時。晴柊の退勤時。生駒は朝までのシフトのため、晴柊が先に帰ることになる。あの会話以来何となく2人にぎこちない空気があった。


「お疲れ、晴柊。」

「うん、お先に失礼します。またね。」


晴柊がいつものように笑顔を浮かべ生駒に手を振ると裏口から外に出た。生駒は晴柊が心配だった。自分の嫉妬心や焦燥感といったものはある。しかし、何より晴柊の身の心配が強まり、やはりしっかり聞いておきたいと裏口を開け後を追おうとした。


生駒が晴柊の名を呼ぼうとしたとき、彼の目の前に高級車が一台止まる。降りてきたのは背が高く端正な顔立ちをした大人の男だった。晴柊は少し驚いた表情をしたものの、すぐに彼にエスコートされ助手席に乗り込んだ。


ふと、男と生駒の視線が合う。晴柊は生駒がいることに気が付いてはいない。男は数秒生駒を見ると、何も言わずそのまま運転席へと乗り込んだ。


あれが、晴柊の同棲相手?どんな人なのかは知らないけれど、それが問題なのである。晴柊のことは全てわかった気でいた、わかっていたかった、生駒のなかで心に蟠りが起き始める。


「びっくりした。迎えなんて良かったのに。」

「こんな夜遅くに一人で帰らせるわけにいかないだろ。」

「別に、初めてじゃないよ。少し前まで当たり前だったし……。」

「前のような目には合わせたくない。」


晴柊は今日のシフトが変更にになったことを連絡していた。まさか迎えにきていたとは思わず、驚いていた。自分の身を心配し迎えに来てくれる琳太郎は最早恋人ムーブである。晴柊の心臓がまた、きゅんと跳ねる。キュンって何だよ、と、一人悶々と葛藤していた。


ちらりと、運転する隣の琳太郎に視線をやった。


「お前が俺の番になればこんなに心配になることもないんだろうけどな。フェロモンを巻き散らすことも無くなるんだから。」


Ωはαと番関係になると、フリーのαを誘うフェロモンがぴたっと収まる。そういう意味でも琳太郎は早く自分の手中に収めてしまいたいという欲があった。


「なっ……」


晴柊の顔が真っ赤になる。この男はまるで告白同然に番という言葉を口にする。番宣言は、告白よりプロポーズに近い。それほど重いのだ。それをいとも容易く……


「まぁ、お前が俺の番になったとしても不安は絶えないか。危なっかしいしな、お前。」

「そんなことないよ……」

「どうだか。」


琳太郎の頭の隅にはあのレイプ未遂事件と、それとは別に先ほどの生駒の存在もあった。あの青年は晴柊にとっての脅威ではないものの、自分にとっては脅威な存在となり得る、と、琳太郎は持ち前の勘の鋭さで感じていた。一瞬で生駒を恋敵判定したのである。


「あ、あの……」

「なんだ?」


車が赤信号で一時停止する。晴柊がもじもじと手を動かしながら、意を決したように隣の琳太郎を見た。


「迎えきてくれて…あ、ありがとう……」


晴柊が少し照れくさそうにお礼を言う。2度助けてくれたときのお礼もままならずでいたことを、晴柊は少し悔いていた。今日こうして自分を心配してわざわざ迎えに来てくれたこと、晴柊は今度こそ、という思いでお礼を伝えた。


「どういたしまして。」


琳太郎があまりにも自然に笑って見せた。こんな顔もできるのか、と、晴柊は少し見惚れる。しかし直ぐに信号が青に変わり車が動き出すと、ハッとし晴柊はすぐに前を向いた。ヒートが来たわけでもないのに、心臓がうるさい。晴柊の感情が確かに、ゆっくりと揺らいでいく。
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