狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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141話 香水の役割

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月が上がり一際静かな空気が明楼会の屋敷を包んでいた。そんな夜中の2時、琳太郎は日下部の送迎で屋敷へと帰宅した。夜中の外仕事は久々だった琳太郎は篠ケ谷の送迎で屋敷に戻ると、すぐに風呂場へと直行した。高級感漂うジャケットを廊下に脱ぎ捨てるようにして脱衣所へと向かう琳太郎の後ろ姿を見ていた篠ケ谷は、今日は一段と機嫌が悪いと琳太郎が脱ぎ捨てた血生臭いジャケットを拾い上げた。


久々のヨゴレ仕事。取り立て、裏切者の始末、ケジメ…この世界にはあまりにも闇深い。しかし、琳太郎は今や組長という存在だ。そういった血の気多い前線からは引き、経営に専念するポジションではある。しかし、今日の様に致し方なく参加することもあるのだった。


琳太郎がここまで機嫌を損ねていた理由は、晴柊とのデートをおじゃんにされたからだった。今日は晴柊と一緒に外へ夕食を食べる約束をしていたらしい。そのディナーが急遽末端の後始末で中止になったことに琳太郎は苛立ちを隠せないでいた。いつもより手荒な方法で好き勝手する琳太郎を止める人は勿論おらず、篠ケ谷含む部下はその後処理も相まってクタクタであった。


琳太郎は頭からシャワーを浴びる。まるで先刻まで起こっていたことを全て洗い流すかのように。そうでもしないと、綺麗な晴柊を汚してしまいそうな感覚になるのだ。シャワーから上がるなり、琳太郎は少しキツめに香水を浴びた。


スウェットだけ履き、晴柊が眠っているであろう寝室へと向かう。大分落ち着きを取り戻してはいるが、やはり晴柊とのデートを邪魔されたことを大分根に持っている琳太郎。


そっと扉を開ける。この屋敷で唯一洋風に近い扉を開けると、そこには大きなベッドがある。その真ん中には、一人布団を上下にさせながら気持ちよさそうな寝息を立てて眠る晴柊がいた。


その姿を見るなりさっきまでの苛立ちが少しずつ消えていく。晴柊を起こさないようにそっと、ベッドに乗る。晴柊も今日の琳太郎とのディナーを随分楽しみにしていた姿を見ていただけに、琳太郎はより一層今日の急なスケジュール変更は気に障っていたのだった。


琳太郎はじっと晴柊を見つめていると、健やかに眠る姿に思わず触れたくなる。先ほどシャワーを浴びて洗い流したものの、汚い仕事をしてきた自分がこの綺麗で美しい天使に触れていいのだろうか。


晴柊に触れようとする琳太郎の手が思わず宙で止まる。


真っ白いものは、より一層ヨゴレを際立たせるのだ。


琳太郎はそっと手を降ろし、書斎で仕事でもしようかと思ったとき、晴柊が気配を感じ取ったのかゆっくりと瞼を上げる。


「りんたろう……?おかえり~……」


晴柊が目をこすりながら、身体を琳太郎の方に向ける。


「すまない、起こした。」

「ううん、……」


晴柊はまだどことなく眠たそうである。ぼーっとした視線で、それでも琳太郎と会話がしたいとでもいうように閉じかける目を必死に開こうと抗っている様だった。


「今日はすまなかった。お前も楽しみにしていたのに。」

「大丈夫だよ。ご飯はほら、またいつでも行けるし。」


柔らかく微笑んで見せる晴柊。琳太郎は思わずそっと、身体を重ねるようにして寄せる。晴柊の鼻に、いつもよりもキツイ香水の匂いが霞む。この香水の意味を、晴柊は知っている。直接琳太郎から聞いたわけではない。しかし、わかるのだ。こういう日の夜の琳太郎はどこか苦しそうで、悲しい目をするから。


どこか自分に触れるのを戸惑っているような琳太郎に、晴柊はそっと手を手繰り寄せる。琳太郎の肩を掴みながら、自らの上半身を起こし身体を触れさせる。


「おかえりなさい。一緒に寝よう?」


風呂上がりで少し温かい琳太郎の肌が心地よかった。晴柊はそのまま琳太郎は布団のなかに引きずり込むように、抱きしめたまま寝転がる。琳太郎は晴柊の腕の中で抱きしめられながら、肌障りの良いシーツに包まれた布団を被せられる。


「晴柊。」

「ん~?」


どことなくまだ眠そうな晴柊に琳太郎は小さく呟くようにして名前を呼ぶ。


「もう寝るのか?」

「………え~………」


晴柊はしばし考えた後すぐにその琳太郎の質問の真意を読み取り、照れ隠しをするようにそっぽを向く。意識したからか脳が活性化し一瞬で目が覚める。眠たいから嫌、という気持ちよりも大きい、琳太郎と同じ気持ち。それがバレてしまうのが恥ずかしいのだった。


「大丈夫そうだな。」


琳太郎はそう言うと晴柊の服の上から腰のラインをなぞる様にして手を滑らせ、もう片方の手で晴柊の後頭部を掴むとそのまま自分の唇めがけて引き寄せる。2人の唇が重なり、そのまま少しずつ角度を変えながら、啄むようにキスをした。


「ん、ぅっ……」


晴柊の身体が少しずつ疼き始める。最早先ほどまでの眠気はどこへ行ったのか。今は一身に琳太郎を求め始めている。


これもまた、琳太郎から直接言われたことではなかったが、こういう夜の琳太郎は決まって少し手荒く晴柊を抱く。血が騒いでいるのか、アドレナリンが出て興奮しているのか、真偽は不明だが、丁寧にじわじわと責められるというよりは、まるで獣じみたセックスをするのだった。


晴柊自身それが嫌だと思ったことは無い。手を上げられるわけではないし、寧ろ、琳太郎が本当にしたいことをしてくれていることが嬉しいのだ。


「は、ぁっ………ん、んっ……」

「さっきまで眠たそうだったのに、もう欲情しきった目してる。」


晴柊の乳首を服の上からゆっくり擦る。晴柊の身体がピクリと反応する。言い返すでもなく、晴柊は足をもじもじとさせながら恥ずかしそうに快感を受け入れる準備をしていた。


「何度もセックスしてるのに、未だに処女みたいな反応するよな。」

「な、なれないよっ……好きな人に、こんな姿、見られてるんだぞっ……」

「こんな姿って?男なのに乳首触られて感じてるところ?」

「ぁ、っ……!う、うるさいっ……!!」


晴柊が顔を赤く染めながら揶揄うような琳太郎をキッと睨む。琳太郎の指が晴柊の乳首を摘まむように強く挟んだことで、布の摩擦も相まり甘い声が漏れる。
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