140 / 173
8章
139話 確かに
しおりを挟む
♦
琳太郎が意識を失ってから2週間が経過した。晴柊は毎日病院と屋敷を往復する生活をしていた。最初は家事どころか食事すらまともに取れなかったが、周囲の側近たちのサポートもあり十分以前のように自分で生活することが可能になるほどには回復していた。
しかし毎日病室に足を運んでも、琳太郎の目が覚めることは無かった。微動だにせず眠る琳太郎を晴柊はマッサージしながらそっと見守る。いつ目を覚ましてもいいように、献身的にサポートをしていた。
朝支度を終え、今日も早速九条の病院へと向かおうとする晴柊に、付き添いの榊が声を掛ける。
「ハルちゃん。そんなに毎日通わなくたっていいんだよ。組長のお世話は俺達だってやれるしさ。たまにはハルちゃんも息抜きだって――」
「琳太郎の傍にいることが、一番の息抜きだから。」
晴柊はそう微笑んで答える。例え意識は無くても、呼吸をしている。心臓が動いている。僅かな彼の生を目で、肌で、感じることが今の晴柊にとって一番の安心材料であった。
最近はまるで無理するように装う晴柊に、全員が気付いている。榊は晴柊を乗せた車を走らせながら行く末を案じていた。
♦
「天童~。」
「トラ。もう交代の時間か。」
晴柊とトラが見張り役をしていた天童の元へと現れる。ふと晴柊が病室を除くと、琳太郎の眠るベッドの傍に昨日までは無かった花と籠に入った豪勢な果物があった。
「誰か来たの?」
晴柊が天童に不思議そうに聞く。この状況で面会を許されているのは組の中でも限られている。晴柊が首を傾げて来客を珍しがる。
「ああ、それが……八城が来たんだよ。どこから噂を聞きつけたのかわからんが、花だけ置いてすぐ帰ってった。」
「そっか……」
あれから、八城と琳太郎は本当に少しずつではあるが、お互い探り探り歩み寄っている様だった。彼らの親同士にいざこざがあったにしろ、子供である彼らがいがみ合う理由は無い。八城も、理解し始めたのであろう。月に1度小包を寄こしては大量の高級スイーツやら晴柊と琳太郎宛ての服やらを送り付けてきている。
そんな1歩を晴柊は嬉しく思っていた。そんな矢先の出来事であっただけに、晴柊はさらに悔しくなる。
病室に入りベッドの傍の椅子に腰かけた。
「空弧、来たんだってね。連絡くらい寄こしてくれたっていいじゃん。」
晴柊が琳太郎に声を掛ける。勿論、返答はない。琳太郎の手をそっと握り、胸元に耳を当て、心拍を聞く。晴柊の病室に来てからのルーティーンだった。
「……もう少しで1か月が経つよ。」
怖い。毎日が怖くて仕方が無い。明日起きたときに、もし琳太郎の心臓が止まっていたら。これから一生目を覚まさなかったら。晴柊の頭には嫌なことばかりが巡る。時々、ストレスから片頭痛が起こるようにもなった。まさか自分が痛み止めと睡眠薬にお世話になるだなんて、と、我ながら思うのであった。
「寂しい。琳太郎はここにいるのに。」
不思議と涙は出てこない。その代わり、日に日に生気が吸い取られていくような感覚に陥る。生きる意味が見出せないことがこんなに辛いだなんて。
♦
「ハルちゃん、ハルちゃん。身体痛くしちゃうよ。」
晴柊の身体を揺さぶり起こす榊。晴柊は昨晩の寝不足が原因で寝落ちしていたようだった。腰を折るようにして琳太郎の手を握ったまま眠っていた晴柊の姿勢を心配し榊が起こしてくれたようだった。
「そろそろ帰ろっか。」
気付けばここに来て4時間ほどが経過していたらしい。晴柊は目を擦り身体を起こすと、ゆっくり頷いた。また明日来るのだから、と、名残惜しさを感じている自分の心に鞭を打つ。
「うん、帰ろう。」
晴柊がきゅっともう一度琳太郎の手を握り、その手を離そうとしたときだった。
ピクリ
琳太郎の手が反応を示したかのように動く。
「琳太郎……?」
晴柊がその違和感に気が付き、琳太郎の顔の方に視線をやる。ゆっくりと、瞼が上がっていく。
「組長…!?」
榊も食い入るようにしてその様子を見ていた。
「琳太郎、琳太郎!聞こえるか!?」
晴柊が焦ったように琳太郎に声を掛ける。榊は九条を呼んでくると病室を飛び出た。少しずつ目を開き、まだ状況が掴めていないような琳太郎に、晴柊は必死に呼びかける。
「……はるひ……」
晴柊の目からボロボロと大粒の涙が零れた。僅かに開いた愛おしい人の口から、掠れた声で、それでも確かに呼ばれる自分の名前。
生きている。
確かに、生きている。
「頑張ったね、琳太郎…………ずっと待ってたよ。」
晴柊が琳太郎の顔の上で泣いている。琳太郎はまだぼんやりした意識のなかで、涙を流し続けている晴柊をしっかり認識していた。晴柊の涙が、自分の頬に落ちる感覚が分かる。なんだか良くわからないが、泣きながらもただただ安心した子供の様に笑っている晴柊の表情を見て、心から安堵している自分がいた。
琳太郎が意識を失ってから2週間が経過した。晴柊は毎日病院と屋敷を往復する生活をしていた。最初は家事どころか食事すらまともに取れなかったが、周囲の側近たちのサポートもあり十分以前のように自分で生活することが可能になるほどには回復していた。
しかし毎日病室に足を運んでも、琳太郎の目が覚めることは無かった。微動だにせず眠る琳太郎を晴柊はマッサージしながらそっと見守る。いつ目を覚ましてもいいように、献身的にサポートをしていた。
朝支度を終え、今日も早速九条の病院へと向かおうとする晴柊に、付き添いの榊が声を掛ける。
「ハルちゃん。そんなに毎日通わなくたっていいんだよ。組長のお世話は俺達だってやれるしさ。たまにはハルちゃんも息抜きだって――」
「琳太郎の傍にいることが、一番の息抜きだから。」
晴柊はそう微笑んで答える。例え意識は無くても、呼吸をしている。心臓が動いている。僅かな彼の生を目で、肌で、感じることが今の晴柊にとって一番の安心材料であった。
最近はまるで無理するように装う晴柊に、全員が気付いている。榊は晴柊を乗せた車を走らせながら行く末を案じていた。
♦
「天童~。」
「トラ。もう交代の時間か。」
晴柊とトラが見張り役をしていた天童の元へと現れる。ふと晴柊が病室を除くと、琳太郎の眠るベッドの傍に昨日までは無かった花と籠に入った豪勢な果物があった。
「誰か来たの?」
晴柊が天童に不思議そうに聞く。この状況で面会を許されているのは組の中でも限られている。晴柊が首を傾げて来客を珍しがる。
「ああ、それが……八城が来たんだよ。どこから噂を聞きつけたのかわからんが、花だけ置いてすぐ帰ってった。」
「そっか……」
あれから、八城と琳太郎は本当に少しずつではあるが、お互い探り探り歩み寄っている様だった。彼らの親同士にいざこざがあったにしろ、子供である彼らがいがみ合う理由は無い。八城も、理解し始めたのであろう。月に1度小包を寄こしては大量の高級スイーツやら晴柊と琳太郎宛ての服やらを送り付けてきている。
そんな1歩を晴柊は嬉しく思っていた。そんな矢先の出来事であっただけに、晴柊はさらに悔しくなる。
病室に入りベッドの傍の椅子に腰かけた。
「空弧、来たんだってね。連絡くらい寄こしてくれたっていいじゃん。」
晴柊が琳太郎に声を掛ける。勿論、返答はない。琳太郎の手をそっと握り、胸元に耳を当て、心拍を聞く。晴柊の病室に来てからのルーティーンだった。
「……もう少しで1か月が経つよ。」
怖い。毎日が怖くて仕方が無い。明日起きたときに、もし琳太郎の心臓が止まっていたら。これから一生目を覚まさなかったら。晴柊の頭には嫌なことばかりが巡る。時々、ストレスから片頭痛が起こるようにもなった。まさか自分が痛み止めと睡眠薬にお世話になるだなんて、と、我ながら思うのであった。
「寂しい。琳太郎はここにいるのに。」
不思議と涙は出てこない。その代わり、日に日に生気が吸い取られていくような感覚に陥る。生きる意味が見出せないことがこんなに辛いだなんて。
♦
「ハルちゃん、ハルちゃん。身体痛くしちゃうよ。」
晴柊の身体を揺さぶり起こす榊。晴柊は昨晩の寝不足が原因で寝落ちしていたようだった。腰を折るようにして琳太郎の手を握ったまま眠っていた晴柊の姿勢を心配し榊が起こしてくれたようだった。
「そろそろ帰ろっか。」
気付けばここに来て4時間ほどが経過していたらしい。晴柊は目を擦り身体を起こすと、ゆっくり頷いた。また明日来るのだから、と、名残惜しさを感じている自分の心に鞭を打つ。
「うん、帰ろう。」
晴柊がきゅっともう一度琳太郎の手を握り、その手を離そうとしたときだった。
ピクリ
琳太郎の手が反応を示したかのように動く。
「琳太郎……?」
晴柊がその違和感に気が付き、琳太郎の顔の方に視線をやる。ゆっくりと、瞼が上がっていく。
「組長…!?」
榊も食い入るようにしてその様子を見ていた。
「琳太郎、琳太郎!聞こえるか!?」
晴柊が焦ったように琳太郎に声を掛ける。榊は九条を呼んでくると病室を飛び出た。少しずつ目を開き、まだ状況が掴めていないような琳太郎に、晴柊は必死に呼びかける。
「……はるひ……」
晴柊の目からボロボロと大粒の涙が零れた。僅かに開いた愛おしい人の口から、掠れた声で、それでも確かに呼ばれる自分の名前。
生きている。
確かに、生きている。
「頑張ったね、琳太郎…………ずっと待ってたよ。」
晴柊が琳太郎の顔の上で泣いている。琳太郎はまだぼんやりした意識のなかで、涙を流し続けている晴柊をしっかり認識していた。晴柊の涙が、自分の頬に落ちる感覚が分かる。なんだか良くわからないが、泣きながらもただただ安心した子供の様に笑っている晴柊の表情を見て、心から安堵している自分がいた。
31
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
掃除中に、公爵様に襲われました。
天災
BL
掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。
すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。
泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。
すると、その「何者か」は公爵であったのだ。
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる