狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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7章

111話 *隠し事

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考えるな。全ては、琳太郎のため。自分が黙って抱かれれば、全てうまくいく。晴柊はその一心で、狭い来る憎悪を必死に抑える。八城の手が晴柊の露になった肌を這う。


「見た目通り、肌触りが良いんですね。ああ、声は抑えなくていいですよ。ここは防音だし、人も滅多に通らない。」


要らないアドバイスをしてくる八城に、晴柊はぎゅっと目を瞑って耐える。視界からの情報をシャットアウトすることで、現実逃避をした。今触っているのは琳太郎だ。怖がるな、嫌がるな。すぐに終わるから。晴柊の身体に嫌な汗が滲み始める。


八城の指が、晴柊の乳首を掠めた。


「っ、………」

「ここが弱いんですか?女の子みたいですね。」

「う、るさい、黙って、ぁ……っ…!」


八城が歯向かい始めた晴柊の乳首をぎゅっと強く摘まむ。晴柊は僅かに声を漏らした。


そもそもなぜ、八城はこんな提案をしてきたのか。自分を一目気に入ったからなのか?いや、そうには思えない。八城は晴柊のことを好いているようになどまるで見えない。だとしたら、目的は?晴柊が頭を巡らせていた。


「考え事ですか?随分余裕ですね。まあ確かに、あまり長引かせて不審がられてバレても面白くないですし。」

「ぅ、ぁ……ん、…!!」


八城は晴柊の唯一身にまとっていた下着を取り払い、きゅっと握り込んだ。優しく、ねっとりとした刺激が晴柊を襲う。いっそのこと琳太郎以外には感じない身体になればいいのに。誰の手の中でも喘ぐ自分のことが、嫌いになりそうだった。


ぎゅっと目を瞑りまるで耐えるような晴柊を見て、八城は徐に使い切りローションを取り出し晴柊の秘所めがけて垂らす。その冷たさに身体がびくりと跳ね、晴柊は行き場のない手で自分の目を覆う。ナカに、ずぷりと2本の指が入った。


「いきなり2本も咥えこむなんて、随分躾けられているじゃないですか。」


悔しい気持ちが勝り、晴柊はひたすらに八城の発言を無視する。2本の指が、掻き分けるようにナカを奥へ奥へと進んでいく。中間まで差し掛かった時、何かを探るように動き始めるその仕草に、晴柊は肌を粟立たせる。


一か所。晴柊のスイッチとなってしまう場所。八城はそこを的確に1度、擦り上げる。


「ん゛っ……!!や、っ……あ、あん、ん…!!」


味を占めたように、指がソコをめがけて動く。擦り、挟み、ノックする。


「はは、なんだかんだフル勃起。身体は素直ですねえ。普通は萎えたりするものじゃないですか?やっぱりあなたは、男に抱かれる素質があるみたいですよ。」

「ぁあ゛っ~~!!ち、がぅ……ん、んっ…!!」


晴柊の足が暴れるようにして動こうとするのを、足首を掴み八城は意図もたやすく防ぐ。右足が開くようにして持ち上げられ、晴柊は
成す術もなく快感を受け取った。


「随分気持ちよさそうですよ。指なんかじゃ足りないんでしょう。何が欲しいか、言ってみてくれないと。」


くすくすと馬鹿にしたような笑い。晴柊は頑なに口を閉じた。今にでも殴り掛かりたい。けれど、そうすればすべてが水の泡になる。今更琳太郎以外に抱かれて泣く様な、そんな純真無垢さは持ち合わせていないだろう。耐えろ、耐えろ。晴柊は必死に自分に言い聞かせる。


「はぁ…頑固だなぁ。まあ、楽しみは後に残しておきましょう。ほら、これ、入れてあげますよ。いい加減顔を見せて少しは私も楽しませてください。」


八城は晴柊の秘所に自分の膨れ上がったモノをズボン越しにごりごりと押し付けた。犯して欲情する変態め、と晴柊は心の中で悪態をつく。ジップ音が微かに聞こえ、熱くなったモノが直接、晴柊の入り口にキスをするように当てがわれる。


「ま、待って…!!…ゴム、しろ……残ってたら、バレるから…」


晴柊は身体を起こし八城の腕をぎゅっと掴む。処理ぐらい自分でできる。ゴムをして欲しい理由は後付けだと八城は見抜いていた。望まないやつの肉棒を受け入れる罪悪感をゴムで和らげようとでもいうのか。健気な少年の葛藤に無理やり突っ込んでやりたくなったが、まだ楽しみは始まったばかりだと、グッと欲望を抑えた。


八城は大人しくコンドームを装着すると、晴柊の身体をうつ伏せにさせ、尻を差し出させる。


「ほら、着けましたよ。それに、これなら顔も見られない。存分に気持ちよくなって良いんですよ。」


八城は晴柊の背中に身体を合わせるようにすると、耳元に唇を当て囁く。琳太郎よりも高く、甘い声が、晴柊の脳に響く。ああ、本当に犯されてしまう。晴柊が息を飲んだ時、八城のモノが晴柊を勢いよく貫いた。


「ひ、ぃ˝っ……!!ぁ…あ、……ぅ˝、っ…!!」


八城の身体が離れたと思えば、腰を掴まれガンガンと腰を振られる。ナカでローションが混ざり合っていく音が少しずつ大きくなっていく。ソファに爪を立て、晴柊は甘美な声を漏らした。顔を見られていないことだけが唯一の救いであった。


「へえ、タトゥー入れてるんですか。オシャレ…というよりは、拘束具みたいなものですか。お熱いことで。」


八城の片手が晴柊の項に伸びる。薊の花をなぞる様な動きに、晴柊はナカをキュンっと締まらせた。意識してしまう、大好きなあの人を。


「はは、本当に君の身体はわかりやすい。そのうち、その罪悪感も快感としてしまうんじゃないですか?」

「ん゛っ~~~!!ああ゛、ぁ、ん…うる、さぃ、ひっ、ん…変態っ…!!」

「どの口が言っているんだか。」


八城は奥深くに自分のモノを射し込むと、晴柊のモノをぎゅぅっと強めに握った。そして敏感な先端をこねくり回すようにくちゅくちゅと責め立てる。だらしない先走りがソファにぽたりと垂れた。


「ああ、イってしまいそうですか?精子が上がってきてるんでしょう?ほら、はしたなくイッてみせて。恋人以外のちんぽ突っ込まれて、イッてしまいなさい。」

「ぁ、んん、とめ、てぇ、ぁっ、う、んああああ゛っ!!!」


八城が晴柊の尻をパシンと叩く。きゅっと筋肉が硬直すれば、自然とナカも締まる。容赦ない陰茎への刺激も加わり晴柊は、ぱたたっと射精した。情けない。晴柊はビクつく自分の身体に鞭を打つように、自分の拳をぎゅっと握った。


「尻を下げないで。自分だけイッて満足するなんて許しませんよ。彼の力になりたいのでしょう?金も無ければ地位も名誉も無い。そんな君が唯一できることはこの身体を使うことくらいでしょう?ほら、頑張って。」


八城は晴柊の尻を何度も叩いた。じんわりとした痛みの後に、優しく触れられれば、嫌でもナカが喜ぶように引き締まる。八城の言葉は晴柊の精神を追い込んでいく。いつも琳太郎に守られてばかり。所詮俺にできることは、これくらい。ああ、頑張らないと。今度は、俺が琳太郎を守ろう。


「…良いね。やっと自分の立場がわかったかな?もっと可愛いところを見せて、晴柊君。」


八城は激しくストロークを続け、腰を両手で掴むと、そのまま奥に差し込んだタイミングでコンドーム越しに精液を吐き出した。



その晩、晴柊は自分でも予想以上に冷静でいられていることに、驚いていた。側近含め誰にも知られてはいけない。その強い思いが為せる業であった。


晴柊は1人、風呂場で身体を洗っていた。いつもより、入念に。八城の痕跡を消し去らなければ。大丈夫、跡も残っていない。晴柊は鏡で身体を確認し、風呂を上がった。


「うわ、びっくりしたぁ。」


そこには琳太郎が立っていた。


「仕事は終わったのか?」

「これから少し出る。」

「そっか。気を付けてな。」


脱衣所まで顔を出してこれから出かけることを伝える律儀さに、晴柊は琳太郎に愛おしい気持ちが溢れた。晴柊がわしゃわしゃと髪の毛をタオルで拭いていると、琳太郎はまだ身体を拭ききれていない晴柊を抱き寄せた。


「わ、琳太郎っ…濡れちゃうって…」

「今日も何もなかったか?」

「勿論。沢山オシャレな服着せてもらったよ。凄いなぁ、プロって。」


ああ、落ち着く。琳太郎の規則正しい心音が、晴柊に届く。身体が温かい。風呂上がりだからじゃない、琳太郎の温もりだ。


全て言ってしまいたい。でも、言えるわけがない。足手まといになるのはもうごめんだ。


「すぐ帰る。」

「うん、仕事頑張ってきて。」

「キスは?」

「ふふ、はいはい。」


晴柊は背伸びし、顔を上げると琳太郎の唇に自分の唇を合わせた。琳太郎の腕が、晴柊の腰を支える。甘く、優しい口づけ。今の晴柊にとっては、泣いてしまいそうなほど沁みるキスだった。
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