狂い咲く花、散る木犀

伊藤納豆

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3章 幸せの形は人それぞれ

39話 *言葉

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晴柊はリビングでテレビを見ていた。今日の当番である篠ケ谷の携帯が震える。そこには遊馬から一通のショートメッセージが届いていた。


遊馬自信もよく状況が掴めていないらしいが、琳太郎がただならぬ形相をしているらしい。琳太郎が取り乱すことなど、原因は目の前のコイツしかないだろうなと、篠ケ谷はソファに座る晴柊を見た。


拍子抜けするほど、晴柊はいつも通りの様子である。予定では琳太郎は長引いた仕事の後真っ直ぐこっちによる手筈だったが、事務所に引き返して何やら調べ物を始めたらしい。遊馬によると、このマンションの工事をしている建設会社について調べ始めたとか。


「おい。お前、何かしたか。」

「え?何かって?」


隠し事をしていると言うよりは、本当に思い当たる節がなさそうな晴柊に、きっと晴柊が無自覚に琳太郎の機嫌を損ねることをしたのだろうと篠ケ谷は名推理した。


また面倒なことになりそうだと、篠ケ谷は悟る。いつものちょっとゆそっとの嫉妬とは訳が違いそうだ。


そして直ぐに遊馬から続けて連絡が来る。どうやら琳太郎が今からこちらに向かってくるらしかった。


琳太郎をマンションに届けたら、篠ケ谷は遊馬と一緒に事務所に戻れと言う指示らしく、支度を始める。篠ケ谷は嫌な予感ばかりが頭に浮かんでいた。



少しして、琳太郎が帰ってきた。篠ケ谷は何も言わず、事前に伝えられていた指示通り、部屋を後にした。いつもは交代するように代わりの登板が入ってくるはずなのに、今日は琳太郎だけなことに、晴柊は不思議に思った。


「おかえりなさい、仕事大変だったんだって……っ!?!?!?」


晴柊がいつもの様に琳太郎に喋りかけようとソファから立ちあがろうとした時だった。琳太郎の大きな手が、晴柊の口元を容赦なく掴み、そのままソファに押し倒した。晴柊は突然の出来事に驚くが、口元を抑えられているせいで声が出ない。琳太郎の手が僅かに晴柊の鼻も塞いでいるため、呼吸がし辛くなり、すぐに苦しさが晴柊を襲う。


バタバタと足を動かし抵抗しようとする晴柊の鳩尾を、琳太郎が一発殴る。



「っ!?!?……ぷはっ…う、え˝っ……」


琳太郎の手が離れたと同時に、晴柊の口から嗚咽が漏れた。久々の暴力だった。晴柊は何が起きているのか、どうして琳太郎がこんなに怒っているのかがわからず、ただ怯えることしかできなかった。


「来い。」


ずっと黙りっぱなしだった琳太郎が声を出す。そのまま晴柊の首輪を繋ぐ鎖を引っ張る様にして、晴柊を無理やり寝室まで連れて行った。


「ま、って…何で怒って…!」



晴柊は抵抗しようとするも力で敵うはずもなく、半ば引き摺られるようにして運ばれた。今度は首輪で首が締め付けられ、気道を押さえつけられる。ベッドに投げ捨てられるようにして放られる。琳太郎は晴柊にとって分かりやすい人間だった。実際はそうではないのだが、晴柊相手になるとどうも余裕がなくなる。



「ちょっと話をっ…!!」



晴柊が何か言おうとすると、琳太郎がまた晴柊の口を強く抑えた。琳太郎は晴柊の口から聞くのを拒むように喋らせまいとしてくる。琳太郎は何も言わないままどこからか出したガムテープで晴柊の口を塞ぐと、そのまま手首をぐるぐると巻いて固定した。いつも拘束やら玩具やらを使うことはあっても、琳太郎は口を塞ぐことはしなかった。そして、こんなに乱暴に拘束することも。


これでは、まるで最初の頃のようである。あれは抱かれるというより「犯される」ようなものだった。


「ん゛~~~!!」


琳太郎はいつもしつこいくらいする愛撫をせず、ローションも慣らしもないまま晴柊のナカに自分のものを無理やり入れた。晴柊が痛みで声を上げようとするが塞がれているためぐぐもった声が鳴る。


「暴れるな。まだ何のことかわかっていないって顔だな。」


晴柊の身体が強張る。琳太郎のモノをいきなり飲み込むのは、いくら慣れた身体になったといっても無理がある。晴柊の入り口は、初めてしたときと同じように裂け、血を流し始めていた。その血をローション代わりにするかのように、琳太郎が腰を揺さぶり始める。


晴柊を殴ったことは、琳太郎の加虐心を煽るのには十分であった。そんな自分にも嫌気がさすというように琳太郎は余計苛立たせていた。自分はこんなに腐った人間だと否応なしに理解させられる。それと同じように引き摺り下ろしたが、いくら絶望させても抱き続けても甘やかしても、晴柊の全てを手に入れることはできない。最近の琳太郎は焦りを滲ませていた。そして今日、外の人間と晴柊が自分に内緒で接触しているのを見て、今まで繋ぎ止めていたものが途切れた。琳太郎は今まで気付かないように誤魔化してきた現実を突きつけられている様で冷静ではいられないでいた。


「晴柊。俺はな、お前が篠ケ谷や遊馬とどんんだけ話してても懐かれてもいい。あいつらは俺の部下であり同朋だ。でもな
、どこの馬の骨かもわからない外の世界のやつとなると話が違う。今度はあの作業員を誑かして逃げようとしたのか?」



ずっと沈黙を貫いていた琳太郎が口を開いた。晴柊は何でそのことを知っているのだという表情だ。冷や汗が止まらなかった。あの青年と接触したことはうまく隠していたはずなのに、どうして、といった顔をする晴柊に琳太郎は薄く笑い顔を近づけた。晴柊は口を塞がれているせいで訳を話すことができないため、琳太郎はその晴柊の焦る表情が「図星を突いたから」と勘違いし解釈した。悪循環が生まれていく。


「お前は暢気だよな。俺がこの家中の監視カメラでお前を見ているなんて考えもしなかったか?甘いんだよ。――西野啓(にしのけい)。あの男も、お前の目の前で脳天貫かれて死んだあの組員と同じ目に合わせるか?」


「ぅ˝っ……ん、ん…!!!」


晴柊が首を必死に横に振る。それだけはやめてくれ、と目で訴えた。あの時のことを思い出したのか晴柊の身体が震えはじめる。そんなにあの男を守りたいのか、こんなことになるならもう他人の目に触れないところに繋ぎ止めておくべきだった、と琳太郎の感情が暴走する。


琳太郎はもうあの青年のことを調べ上げていた。これが裏社会を生きる男の恐ろしさだと、晴柊は痛感した。篠ケ谷たちと普段から接していく中で忘れかけていた事実だった。


琳太郎は痛がる晴柊をよそに奥に自分のものを抜き差しする。いつものように自分の下で可愛く啼く晴柊はそこにはいなかった。どんなに自分のものにしようとしても、まるで晴柊がすり抜けたかのようにつかめなかった。その虚無感を埋めるように、琳太郎は晴柊のナカに密着し続けた。


俺を拒むな、晴柊。


その時、窓の外がコンコンと鳴る。誰かがノックしたようだ。こんな高層階で外にいる人物など、工事の作業員以外ありえない。そして、住人にアプローチを図ろうなどという常識外れなことをすることも、本来ならありえない。しかし、今の状況は違った。確実に、あのカーテンの閉まり切った向こう側にはあの青年がいる。琳太郎も晴柊も、それを確信していた。


「っ……ん、˝っ…はぁっ……ま、て…琳太郎、話を、聞いてっ…!!」

「黙れ。お前の話なんて聞きたくない。」



琳太郎が勢いよく晴柊の口からガムテープを剥がした痛みで声を漏らすが、それまで抑えられていた大量の息が取り込まれたことで晴柊は息絶え絶えになりながら必死に琳太郎に全て話そうとした。自分の、隠そうという判断を後悔した。すべてバレることだったのなら、自分の口から正直に言うべきだった。晴柊はそう思ったが、最早琳太郎は聞く耳を持たなかった。


晴柊の手をまた口で抑えつけると、琳太郎は晴柊を無理やり抱き上げ窓際まで連れていくと、カーテン越しに窓に手を付かせる。僅かにカーテンが揺れる。外の青年は、室内に人がいる気配を感じ取った。晴柊に違いない、カーテンを開けてくれ、と言うように窓をもう一度叩いた。


「お前がとんだメス犬だってこと、コイツに見てもらうか、晴柊。お前は人に見られるのが好きだろう。」


「ぅ、うっ……!!!」


晴柊がやめてと必死に身体を動かし首を振るが、琳太郎はそれを許さない。力と体格の差が、晴柊を更に拘束していた。晴柊は、彼を巻き込んではいけないと思った行動が、結果的に彼を巻き込んでしまっていたことに後悔していた。あの時の恐怖と同じだった。自分が殺されるよりも何よりも、自分のせいで相手が死ぬことの怖さを晴柊は既に知っている。


こんな状況でも他人を心配するような晴柊を琳太郎は見透かしていた。晴柊のお人好し具合が本当に愛おしくて心底大嫌いだと思った。


そんなにこの見ず知らずの男が良いのか。


いや、違う。晴柊はそうではないと、琳太郎は薄々気付いていはいる。しかし琳太郎にはそう胸を張って言えるほどの自信が無かった。自分のものにしようと手段を択ばないで突き進んできた男の末路であった。本当はこんな晴柊の姿を誰にも見せたくはない。けれど、その気持ちよりも自分のものだと主張したいという感情が琳太郎を支配した。


晴柊は、今自分の痴態を見られるかもしれないという恐怖ではなく、青年をこの世界に引きずり込んでしまうという恐怖でいっぱいだった。あの時の組員のように、自分のせいで殺されてしまうかもしれない。


お互いがそれぞれ、違う焦りと恐怖で支配されていた。部屋は電気も付けずに遮光カーテンで外の光を遮断されているため真っ暗だった。


すると、琳太郎がカーテンに手を掛ける。そのまま音を立てカーテンを開けた。丁度、人一人分の身体が見えるくらいだった。窓の外にいたのは、やはり青年だった。晴柊は早くどこかに行ってくれ、関わらないでくれ、と言うようにその青年を見た。視線が交わる。琳太郎が一纏めにされた晴柊の手首を、口を塞いでいない方の手で窓に押し付けるようにして固定した。晴柊のはだけたシャツと、汗ばんだ肌、潤んだ涙がよく見ずとも情事中だということを青年に理解させた。


しかし、そんな晴柊をゆっくりと見る余裕はなかった。晴柊の背後で、琳太郎の鋭く冷たい目が青年を刺していた。


コイツは俺のものだ。近寄れば殺す。


言葉で直接伝えずとも、窓越しの殺気とその視線は琳太郎が「堅気」とは程遠い存在であると理解させるのには十分であった。青年の怯んだ表情を見ると、琳太郎はそのままカーテンをまた閉め、晴柊をベッドに放った。そして口から手を離し、無理やり入れ込んだ自分のモノをナカから抜く。晴柊の血が白いシーツに滲む。


晴柊は過呼吸気味になりながら、泣きじゃくっていた。


「ごめんなさいっ…ごめんなさい…お願いだから…あの人を殺さないであげて…俺が全部悪いからっ…」


晴柊には最早弁解する気力がなかった。ただ、自分の命乞いでもなければ、自分の痴態を見られたことへの悲しみでもなく、見ず知らずのあの青年を巻き込んでしまったというような悲痛な言葉が漏れ出ていた。


あの時とまるで一緒だ。晴柊は最初から何も変わっていない。そして、俺も。


琳太郎は泣きじゃくる晴柊の首にそっと両手を置いた。
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