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5 定番ですが、主人公は王子様

(1)造物主は、また時の神クロノスに叱られる

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 ここは遥か彼方の天空――造物主(作者)の住むところ。

「ほかの造物主さんたちを助けるために、がんばるつもりだったのになあ」

 造物主がため息をつくと、時の神クロノスがいつものように突然現れた。

「一年近くも物語を止めおって」

「うわあクロノスさん、またまたお説教? 私も生活ってもんがあるんで……」

「違うじゃろ? お前、別の物語を作っておっただろうが」

「現代恋愛を書きたくなったんだよ。現代なら、当時ワイングラスあったっけ? とか調べなくていいし」

「相変わらずなめた態度じゃな。で、その現代恋愛とやらは楽に書けたのか?」

「うう、現代なのに調べもの大変だった。でもそれだけじゃないよ。イケメンと美少女のイチャイチャを書きたくなったんだよ」

「ファンタジーとてイチャイチャ書けるじゃろうに」

「だからパリスとヘクトルをイチャイチャさせたのに、クロノスさん、イチャイチャ禁止にしたじゃん」

「ばかもん! わしは、途中でジャンルを変更するな、最初から真面目にBLに取り組め、と言ったんじゃ」

「だからさあ、こっちの話休んだの許して」

「ま、ほかの物語を作るためなら許してやらんでもないが、それだけじゃないよな、お前……何しておった?」

 時の神の追求に、造物主はあっさり白状する。

「別の世界が危機に陥ってたから、勇者になって救いに行ってた」

「行ったのは『ハイラル』という世界で、助けたのは『ゼルダ』という姫君じゃな」

「さすがクロノスさん! 日本のバカ売れしたゲーム知ってるんだ。『ゼルダの伝説』メチャクチャ面白かったよ」

「お前、姫君ほっとらかして、料理のレシピや図鑑を埋めるんだ~と、張り切ってたな?」

「い、いや、あれ、そーいうゲームだし……でも、ちゃんと姫様助けたよ!」

「……冒険の途中、勇者が寄り道して修行するのはセオリーじゃからな。お前がハイラルの冒険で経験値を積んだなら良しとしよう」

「でしょ!? 私、がんばるよ」

 クロノスから異世界への旅が認められ、造物主は満面の笑みを浮かべる。

「それでお前は、ハイラルの冒険から何を学んだのじゃ?」

「魔物を見つけたら遠回り、ヤバいイベントの前はセーブ、詰んだら即ロード」

 時の神は目を吊り上げた。

「ばっかもん! 姑息な技ばかり覚えおって! せっかく洞窟を探検しても、怪物から逃げ回ってばかりでは、経験を積めないじゃろうが!」

「私、平和主義だから戦い嫌いなんだよ」

「そうやって逃げ回り、ハイラルのような物語は書けるようになったのか」

 造物主の満面の笑みは、一瞬でフリーズした。

「できるわけねーだろ! あれは超一流企業が、莫大な資金と時間をつぎ込んだガチの大作だよ!」

 ヘラヘラしていた造物主が逆ギレした。

「情けないのう。才はなくとも、志はいくらでも学べるじゃろうに」

 クロノスは首を傾け、目を閉じた。

「いや、期待しても仕方ない。話を戻そう。お前、ため息をついてたな。ほかの造物主を助けたいと」

「そう! 世界を作りだしたのに、途中で止めちゃう造物主さん、多いじゃない? なんとかしたかったんだ」

「助けるというのは力のある者がすることぞ。お前にその力はあるのか?」

「あははは~、私はなりたてホヤホヤの造物主だから、どーして途中で世界作り中断するのかわからなかったんだよ」

「で、ほかの造物主を助ける世界を作ったはずなのに、お前自身は一年近く、世界創造を中断したと?」

「にゃはははは~、すごーく反省してます!」

「年月重ねてわかっただろ? 造物主の苦しみが」

「わかりましたわかりました! 大作ゲーム出ればそっちをやりたくなるし、煮詰まれば違う世界を作りたくなるってことが」

「ほかの造物主はもっと深い悩みを抱え、無念のうちに世界創造を諦めるのじゃが。老いた親を看て、幼子を育て、身を立てるために学ぶ……ゲームにハマり世界創造に飽きるとは、めでたいことよの」

「私もずーっと放置して、気になってたんだよ。今度こそ、世界を完成させるから!」

「よし、それなら何がなんでも世界を完成させることじゃな」

 と、クロノスは腕を振り上げた。
 空間にあまたの文字が浮かび上がり、列をなした。


●ヒポクラテスとパリスは、王の病を治すため、王宮から呼び出される。

●パリスはヘルミオネという踊り子を連れて故郷に帰り結婚する。

●パリス、ヘクトル、1500年後から来たトリファントスは、大活躍。

さらに未来人トリファントスは、以下のように語った。

●パリスとヘクトルは兄弟。

●パリスは女に惑わされ戦争を引き起こす。

●ヘクトルの武勇は未来に伝わっているが、彼の未来は明るくなさそうだ。


「これらをどうまとめるんじゃ?」

「忘れてた。最初の話なんて単なるサンプルで、深い意味なくギリシャ風の名前入れただけだし~」

 しかし造物主はニヤリと笑って、親指を突き立てた。

「でもね、時代は進歩したんだよ! 今じゃAIチャットが小説を書いてくれる!」

「わしは、お前が書こうが、エーアイチャットとやらが書こうが、構わぬがの」

 人間が書こうかAIが書こうがどうでもいい、と言われると造物主としては寂しくなる。ともあれ『本当に』AIチャットに続きを書いてもらった。

「・・・・・・だめだ! AIのクセに、紀元前七世紀に初めて登場した船を、紀元前十二世紀のトロイアに平気で出しやがる! 間違い指摘したら話やめようだって!」

「さようか。では、そろそろわしは行くからな」

「待って~! まだ行かないで~」

 造物主は時の神に縋りつくが、容赦なく神から手を振り払われた。

「エーアイとやらに助けてもらうのも構わんじゃろ。が、忘れるんではないぞ」

 肩をがっくりとした造物主に、クロノスは指を突きつけた。

「一年近く放り出した物語を、なぜ始めた? お前はどんな世界を作りたいんじゃ?」

「ちょ、ちょっと待って。そんな国語の宿題みたいなこと言わないで……あーあ、クロノスさん消えちゃった」

 造物主は肩を落としたまま、放り出していた世界の創造に着手した。
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