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3 旅の仲間と出会ったが……
(2)風の谷のお方とは別人です
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仕方なしにパリスは、自身を引きずる男に訪ねた。
「ねえ、お兄さん、何て呼んだらいいんですかあ?」
「俺? ああ、俺はヘクトルだ。お前みたいな男は好かんが、旅の間はよろしくな」
マッチョは、引きずる男を立たせ、力強く手を握った。
ここに来て、ようやくパリスの冒険が始まった。
なお、ここの「ナウシカ」は、超有名な風の谷のナウシカとは全然関係ない。青い衣とか虫オタクとか、一切関係ない。実はナウシカ、古代ギリシャ叙事詩「オデュッセイア」に出てくる姫さまだったりする。
ということで、マッチョとチャラ男は、風の谷じゃないナウシカの恋の病を治すため、旅に出ることとなった。
「ねえ、ヘクトル。もしかして、ナウシカってヘクトルの彼女?」
パリスは、これまでの経緯から予想される結論の正誤の確認を求める。
「はあ!? んなわけねーだろ! あいつは戦友だ、俺のタイプじゃない」
「やっぱり好きなんだね。タイプじゃない戦友に恋するパターンって、すごーく多いんだよ」
「あああ、お前も、うぜーな。何でもかんでも色恋にするんじゃねーよ、大体、俺には妻と子どもがいるんだ!」
そういってヘクトルは、首の鎖につけたカメオを取り出し、パリスに見せつけた。
「こいつだ。美人だろ? かわいいだろ?」
楕円に象られた宝石に彫刻された二つの横顔。散々診療所でチャラいことをしてきたパリスも納得の美女が、赤子に向かって微笑んでいる。
「奥さんかあ。僕はまだいいや」
だって結婚したらチャラいことできない。
「お前、女と遊んでたいんだろ? 気に入らねーな。ま、ガキにはわからねーよ。本気で一人の女に惚れたら、他の女なんかどーでもよくなる」
ヘクトルは、パリスの背中をバンと叩いた。
なお、カメオは古代ギリシャで盛んになり、神の姿を彫りお守りにしたらしい。家族の顔を彫ったかわからないが、なんちゃってファンタジーだから許してほしい。
その夜、ヘクトルの言うところの戦友、ナウシカのいる宿に着いた。
「よお、ナウシカ。お前が惚れた男、連れてきたぞ」
一階の酒場に、ヘクトルに勝るとも劣らない青衣のマッチョな女子がいた。風の谷のあの方とは別人だから、突っ込まないこと。
顔は中々可愛らしいし、ルッキズムはよろしくないが、ヘクトルのカメオの美女と比べると、彼が「タイプじゃない、戦友だ」と言うのは、わからないでもない。
「お前かパリス!」
そのナウシカが、優男に向かって突進して、軽々と持ち上げ投げ飛ばした。パリスは今日、二回も投げられた。
「や、やだな~、ナウシカさ~ん。僕、あなたに会いたくて、先生の診療所を辞めてここまで来たのに~」
「嘘つくな! どーせお前、チャラいことしてクビになったんだろ!」
「ね、ねえ、ナウシカさん、自分が倒すのは強い者だけ、って言ってたじゃない~。僕、あなたのそういうところ、好きなのにひどいなあ」
パリスはひっくり返ったまま、仁王立ち……違う、軍神アテナのように立つナウシカに懇願する。
「お前のどこが弱いんだ! あたしも『かわいい』なんて言われたことないからうっかり騙されたが、お前、あたしだけじゃないだろ! 『かわいい』って言ったの」
「かわいいものにかわいいって言っちゃダメ?」
「八十歳のリュシストラテ婆さんにも言っただろ!」
「……だ、ダメ? かわいいって思ったから……」
「婆さん、お前に百ドラクマも貢いだらしいな」
「いや……診療所で薬を手に入れるのが大変って言ったら、お金で薬草取りを雇えばいいって……」
ナウシカは、ひっくり返っているパリスのわき腹を小突いた。
「ヘクトル、止めるな」
先ほどから黙りこくっていた男は大きく頷く。
翌朝、パリスの顔は膨れ上がり、イケメンの面影はなかった。
「ナウシカ、お前、故郷に戻るのか?」
ヘクトルが、パリスの首根っこを掴んだままの戦友に尋ねる。
「ああ、我が家のアリさんたちとキリギリス君が仲良くしているか心配だ。ま、コイツにはアテナの裁きを下してやった。この町に用はない」
ナウシカは、ボコボコになった元イケメンの身を、投げるように男へ押しつけた。
フラフラのパリスは、思わずヘクトルの肩にしがみ付く。
「おい! やめろ! 男に抱き着かれても嬉しくねーよ!」
「ズ、ズミマゼン……い、痛いんでズ……」
勇者ナウシカは、二人の男に手を振る。
「ヘクトル、達者でな! パリス! 見境なく誰にでもチャラいことするんじゃないぞ」
青い衣の勇者が去り、マッチョとヘタレが残される。
「俺は、これからラリサの町へ行く。お前は?」
「こ、こんなボコボコにされたままじゃ、先生の元には帰れません」
「……旅の邪魔するんじゃねーよ……ラリサへは、森を抜けるのが近道だ。武器が必要か……」
「あ、はい……それより痛いです……」
「わーったよ。薬屋にも行くぞ」
ヘクトルとパリスは、市場に入った。
武器屋でヘクトルは両刃の剣を、パリスは弓矢を購入、資金はヘクトルが出した。武器屋の親父には、壁ドンも顎クイも効き目がなく「気持ち悪いから、とっとと出てけ!」と叱られる。いつものイケメンではなくボコボコ顔だったからだろう。
なお、市場は古代ギリシャにあったと思われるが、武器屋があったのか(筆者には)わからない。また古代ギリシャでは、刀狩りが行われたそうだ。つまり一般人も武器を持っていたということなので、現代日本人よりは簡単に武器が手に入った……かもしれない。
さて薬や食料を買い求め、旅の準備を済ませ、宿に泊まる。
ナウシカにボコボコにされたパリスは、ヘクトルの手当てを受けていた。
「お前さあ、医者の弟子なんだろ? 自分で怪我ぐらい治せないのか?」
パリスの細い腕に包帯を巻き付けながら、ヘクトルはこぼす。
「はあ、ぼ、僕は、薬の調達専門だったし……」
「調達も、女たちに『壁ドン』でやらせてたしな……ったくスキルゼロかよ。しょーもねー奴、仲間にしちまったな」
背中をバシンと叩かれた。
何とも頼りなくスキルゼロのパリスは、ヘクトルに散々叱られる。
が、森に入った途端、パリスは「あ……これ、田舎の森と同じだ」と、目覚めた。得意の弓で兎を次々と仕留める。パリスの地形属性は森らしく、スキルが発動したようだ。
何匹ものウサギを手にするパリスに、ヘクトルは目を丸くする。
「お前、すげーな! ただのチャラ男じゃないんだな」
また、背中を力強く叩かれた。が、これまでのしかめ面とは違い、満面の笑み。
「へへ、ま、まーね」
思ってもみない笑顔に、パリスの胸が高鳴る。顔を赤らめそっぽを向いた。今までに生じたことのない感情の芽生えに、彼は戸惑うばかりだった。
……え? なに? 嫌な予感? はい、これまでは前振りです。国民の英雄ナウシカ様を前振りに使ってごめんなさい。今回、そういう展開です。あ、レーティングはちゃんと守ります。あくまでもプラトニックです。
この先読むかどうかは……お任せしますが、付き合ってくださると嬉しいです、はい。
「ねえ、お兄さん、何て呼んだらいいんですかあ?」
「俺? ああ、俺はヘクトルだ。お前みたいな男は好かんが、旅の間はよろしくな」
マッチョは、引きずる男を立たせ、力強く手を握った。
ここに来て、ようやくパリスの冒険が始まった。
なお、ここの「ナウシカ」は、超有名な風の谷のナウシカとは全然関係ない。青い衣とか虫オタクとか、一切関係ない。実はナウシカ、古代ギリシャ叙事詩「オデュッセイア」に出てくる姫さまだったりする。
ということで、マッチョとチャラ男は、風の谷じゃないナウシカの恋の病を治すため、旅に出ることとなった。
「ねえ、ヘクトル。もしかして、ナウシカってヘクトルの彼女?」
パリスは、これまでの経緯から予想される結論の正誤の確認を求める。
「はあ!? んなわけねーだろ! あいつは戦友だ、俺のタイプじゃない」
「やっぱり好きなんだね。タイプじゃない戦友に恋するパターンって、すごーく多いんだよ」
「あああ、お前も、うぜーな。何でもかんでも色恋にするんじゃねーよ、大体、俺には妻と子どもがいるんだ!」
そういってヘクトルは、首の鎖につけたカメオを取り出し、パリスに見せつけた。
「こいつだ。美人だろ? かわいいだろ?」
楕円に象られた宝石に彫刻された二つの横顔。散々診療所でチャラいことをしてきたパリスも納得の美女が、赤子に向かって微笑んでいる。
「奥さんかあ。僕はまだいいや」
だって結婚したらチャラいことできない。
「お前、女と遊んでたいんだろ? 気に入らねーな。ま、ガキにはわからねーよ。本気で一人の女に惚れたら、他の女なんかどーでもよくなる」
ヘクトルは、パリスの背中をバンと叩いた。
なお、カメオは古代ギリシャで盛んになり、神の姿を彫りお守りにしたらしい。家族の顔を彫ったかわからないが、なんちゃってファンタジーだから許してほしい。
その夜、ヘクトルの言うところの戦友、ナウシカのいる宿に着いた。
「よお、ナウシカ。お前が惚れた男、連れてきたぞ」
一階の酒場に、ヘクトルに勝るとも劣らない青衣のマッチョな女子がいた。風の谷のあの方とは別人だから、突っ込まないこと。
顔は中々可愛らしいし、ルッキズムはよろしくないが、ヘクトルのカメオの美女と比べると、彼が「タイプじゃない、戦友だ」と言うのは、わからないでもない。
「お前かパリス!」
そのナウシカが、優男に向かって突進して、軽々と持ち上げ投げ飛ばした。パリスは今日、二回も投げられた。
「や、やだな~、ナウシカさ~ん。僕、あなたに会いたくて、先生の診療所を辞めてここまで来たのに~」
「嘘つくな! どーせお前、チャラいことしてクビになったんだろ!」
「ね、ねえ、ナウシカさん、自分が倒すのは強い者だけ、って言ってたじゃない~。僕、あなたのそういうところ、好きなのにひどいなあ」
パリスはひっくり返ったまま、仁王立ち……違う、軍神アテナのように立つナウシカに懇願する。
「お前のどこが弱いんだ! あたしも『かわいい』なんて言われたことないからうっかり騙されたが、お前、あたしだけじゃないだろ! 『かわいい』って言ったの」
「かわいいものにかわいいって言っちゃダメ?」
「八十歳のリュシストラテ婆さんにも言っただろ!」
「……だ、ダメ? かわいいって思ったから……」
「婆さん、お前に百ドラクマも貢いだらしいな」
「いや……診療所で薬を手に入れるのが大変って言ったら、お金で薬草取りを雇えばいいって……」
ナウシカは、ひっくり返っているパリスのわき腹を小突いた。
「ヘクトル、止めるな」
先ほどから黙りこくっていた男は大きく頷く。
翌朝、パリスの顔は膨れ上がり、イケメンの面影はなかった。
「ナウシカ、お前、故郷に戻るのか?」
ヘクトルが、パリスの首根っこを掴んだままの戦友に尋ねる。
「ああ、我が家のアリさんたちとキリギリス君が仲良くしているか心配だ。ま、コイツにはアテナの裁きを下してやった。この町に用はない」
ナウシカは、ボコボコになった元イケメンの身を、投げるように男へ押しつけた。
フラフラのパリスは、思わずヘクトルの肩にしがみ付く。
「おい! やめろ! 男に抱き着かれても嬉しくねーよ!」
「ズ、ズミマゼン……い、痛いんでズ……」
勇者ナウシカは、二人の男に手を振る。
「ヘクトル、達者でな! パリス! 見境なく誰にでもチャラいことするんじゃないぞ」
青い衣の勇者が去り、マッチョとヘタレが残される。
「俺は、これからラリサの町へ行く。お前は?」
「こ、こんなボコボコにされたままじゃ、先生の元には帰れません」
「……旅の邪魔するんじゃねーよ……ラリサへは、森を抜けるのが近道だ。武器が必要か……」
「あ、はい……それより痛いです……」
「わーったよ。薬屋にも行くぞ」
ヘクトルとパリスは、市場に入った。
武器屋でヘクトルは両刃の剣を、パリスは弓矢を購入、資金はヘクトルが出した。武器屋の親父には、壁ドンも顎クイも効き目がなく「気持ち悪いから、とっとと出てけ!」と叱られる。いつものイケメンではなくボコボコ顔だったからだろう。
なお、市場は古代ギリシャにあったと思われるが、武器屋があったのか(筆者には)わからない。また古代ギリシャでは、刀狩りが行われたそうだ。つまり一般人も武器を持っていたということなので、現代日本人よりは簡単に武器が手に入った……かもしれない。
さて薬や食料を買い求め、旅の準備を済ませ、宿に泊まる。
ナウシカにボコボコにされたパリスは、ヘクトルの手当てを受けていた。
「お前さあ、医者の弟子なんだろ? 自分で怪我ぐらい治せないのか?」
パリスの細い腕に包帯を巻き付けながら、ヘクトルはこぼす。
「はあ、ぼ、僕は、薬の調達専門だったし……」
「調達も、女たちに『壁ドン』でやらせてたしな……ったくスキルゼロかよ。しょーもねー奴、仲間にしちまったな」
背中をバシンと叩かれた。
何とも頼りなくスキルゼロのパリスは、ヘクトルに散々叱られる。
が、森に入った途端、パリスは「あ……これ、田舎の森と同じだ」と、目覚めた。得意の弓で兎を次々と仕留める。パリスの地形属性は森らしく、スキルが発動したようだ。
何匹ものウサギを手にするパリスに、ヘクトルは目を丸くする。
「お前、すげーな! ただのチャラ男じゃないんだな」
また、背中を力強く叩かれた。が、これまでのしかめ面とは違い、満面の笑み。
「へへ、ま、まーね」
思ってもみない笑顔に、パリスの胸が高鳴る。顔を赤らめそっぽを向いた。今までに生じたことのない感情の芽生えに、彼は戸惑うばかりだった。
……え? なに? 嫌な予感? はい、これまでは前振りです。国民の英雄ナウシカ様を前振りに使ってごめんなさい。今回、そういう展開です。あ、レーティングはちゃんと守ります。あくまでもプラトニックです。
この先読むかどうかは……お任せしますが、付き合ってくださると嬉しいです、はい。
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