フツリアイな相合傘

月ヶ瀬 杏

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Extra.今日が雨なら

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「あれー? 佐尾?」

 そのうちのふたりは同じ中学出身で、俺の知り合いだった。

 ひとりは一緒のバスケ部だったやつで、もうひとりは中3で同じクラスになって、当時割と仲が良かったやつだ。

「こんなとこで何やってんの?」

 一緒にいた友達3人はオーダーをするために先に歩いて行って、顔見知りのふたりが俺に近づいてくる。

 そばにいた西條さんが、俺を気にしながらほんの少しそばを離れる。

 不自然な距離をとる彼女を気にかけながら、なんとなく嫌な予感がした。

 そういえば、ふたりのうち、中3のときに同じクラスだったほう。こいつの名前は富谷とみやって言って。俺らのクラスの前を西條さんとその友達が通るたびに、「あの黒髪の子、結構可愛い」って騒いでた。

 そもそも、俺が高校2年になって、西條さんの名前と彼女が同じ中学だってことを認識できていたきっかけは富谷だったりする。

 正直言って、西條さんは中学時代からそんなに目立つ子じゃなかった。

 だけど、中3のときは友達の付き添いみたいな感じで俺たちの教室に来ていることがよくあった。

 富谷があんまり「可愛い」って騒ぐから、西條さんが教室で友達を待っているときに、俺もさりげなく彼女を見てみたりしていた。

 その当時は西條さんに特別な感情を抱いたりはしなかったけど、長く伸ばした綺麗な黒髪からときおり覗き見える横顔が、確かに可愛いなとは思っていた。

 結局、富谷は騒いでるだけで西條さんに特別なアプローチはしてなかったし、卒業する頃には後輩の子に告白されて付き合っていた。

 だから、今さら西條さんを見てどうこうってこともないだろうし。告白してきた後輩と付き合ったくらいだから、そもそもそんなに執着だってなかったはず。

 そう思ったのに、無意識のうちに俺の防衛本能が働いていた。

 気付くと、俺は富谷から見えづらいように西條さんのことを背中の後ろに隠していて。その不自然な動きが富谷たちに不審感を与えたらしい。

「あれ? もしかして、後ろにいるのって佐尾の彼女?」

 そう訊いてきたのは元部活仲間。

 富谷のほうは、面白半分に笑いながら俺の後ろに回り込む。そうして「あ!」と驚嘆の声をあげた。

「もしかして、西條さん?」

 中学を卒業してもう1年半は経ってるし、富谷は西條さんに気付かないかもしれない。そうであるよう願ったけれど、富谷は俺の後ろに隠れた西條さんにちゃんと気付いた。

「俺、同じ中学だった富谷。覚えてる?」

 ハイテンションで馴れ馴れしく話しかける富谷に、西條さんが困ったような顔で小さく頷く。

 覚えてるんだ? その事実に、なんだか複雑な気持ちになる。

「西條さん。なんで佐尾と一緒にいんの? 知り合いだったっけ?」
「あ、えっと……。今同じ高校で、同じクラスで……」

 富谷が食い気味に西條さんに話しかける。そんな富谷の態度にも、控えめながらもポツポツと富谷の質問に答えている西條さんにもイラついた。

「なんで西條さんと仲良くなったこと教えてくれなかったんだよ、佐尾」

 苛立ちを隠しきれずに無言で顔をしかめていると、富谷が俺の肩を軽く叩いた。

「なんでいちいちお前に教えないといけないんだよ」

 つい、いつもより低い声が出て、そんな自分に驚く。

 中学生活3年間の付き合いで俺のことを知ってるバスケ部の友達も、俺の声のトーンに驚いて、目を瞬いていた。

 だけど、西條さんを前に舞い上がっているらしい富谷だけは、いつもと違う俺の様子には気付かない。

「だって、俺も西條さんと仲良くなりてーもん。俺、中学のときからずっと、西條さんのこと可愛いなーと思ってたんだよね」

 富谷が笑顔を振りまきながら、西條さんに告白紛いなことを言い始める。

「いや、お前。彼女は?」
「そんなの、もう1年以上前に別れてるって。西條さん、よかったら連絡先とか訊いていい?」

 富谷があっけらかんと笑って、デニムのポケットからスマホを取り出そうとするから、俺も本当に気が気じゃなくなってきた。

「俺ら、これから用事あるから」

 完全に困惑顔の西條さんの手を慌ててつかむと、富谷が驚いたように瞬きをした。

「何? 佐尾と西條さん、マジに付き合ってんの?」
「だったら、何?」
「いや。これまでの女の趣味と全然違うじゃん」

 西條さんの前で余計なこと言いやがって。

 悪気はないことはわかっているけど、富谷の言葉に思わず舌打ちしたくなる。

 富谷の言葉を西條さんがどう受け止めただろうか。それを考えたら、手を繋ぐ彼女の顔をすぐに見ることができなかった。

「とにかく、俺らはもう行くから」

 その場にいることに耐えかねて、西條さんの手だけはつかんだまま富谷たちに背を向ける。

 ハンバーガー屋を出ると、俺は西條さんを振り返ることもせずに、彼女の手をグイグイと引っ張って歩いた。

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