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5.優しい雨予報
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しおりを挟む「あれ、これもうほとんど完成?」
園部くんの隣に座って待っていると、ジャガイモの皮を剥き終えた佐尾くんが私たちに近付いてきた。
園部くんが切ったきゅうりと調味料を加えて混ぜるだけの状態にしてあるボウルの中身を覗き込んで、佐尾くんが驚嘆の声をあげる。
「俺らが3人がかりでジャガイモと人参の皮剥いてる間に、西條さんがこれ全部やったんだ?」
佐尾くんが私に話しかけていることに気付いた清水さんが、ジャガイモを切ろうとしていた手を止めてこっちをじっと見てきた。
何もしていないのに、清水さんの冷たい眼差しが私に警告をするように責めてくる。
「私ひとりでやったわけじゃないよ。園部くんもきゅうり切ってくれてるし」
清水さんに聞こえるように大きな声で言い訳していると、ようやくきゅうりを切り終えた園部くんが隣から身を乗り出してきた。
「いや、俺なんて全然役に立ってないよ。とりあえずできたけど、分厚さバラバラだし」
園部くんが自分の切ったきゅうりと私が切ったきゅうりをひとつずつ摘み上げて佐尾くんの目の前に差し出す。
「見て、この差。これ以外にもお吸い物の出汁とって下準備してくれてたりして。すげぇ手際いいんだよ」
園部くんに言われて、佐尾くんがコンロの上の鍋を覗きにいく。
園部くんがきゅうりを切っている間に出汁は既に取り終えていて、火も止めてある。それを見ながら、佐尾くんが小さくつぶやくのが聞こえた。
「ほんとだ、いつのまに」
清水さんは、そんな佐尾くんの動向を視線で追っている。その無言の視線が怖かった。
「西條さん、このあとどうすればいいか教えて」
佐尾くんの動きと清水さんの視線を気にしていると、切ったきゅうりをボウルに入れ終えた園部くんが話しかけてきた。それと同じタイミングで、清水さんが佐尾くんに声をかける。
「佐尾、サボってないで玉ねぎの皮剥いて」
「あー、わかった」
顔をあげた佐尾くんが、清水さんの隣へと戻って指示どおりに玉ねぎをつかむ。
清水さんのトゲのある言い方に一瞬ドキッとしたけれど、彼女は佐尾くんさえそばに戻ればそれでいいらしい。満足そうな笑みを浮かべて作業を再開させたあと、清水さんは私のほうを見なかった。
そのことにほっとすると、ボウルを持って待ってくれている園部くんに視線を向ける。
「あとは調味料をいれて、あえるだけだよ」
私の言葉に園部くんが頷く。
私は園部くんに酢の物の仕上げを任せると、シンクに溜まった洗い物を片付けることにした。
使い終えたボウルやザルなどを洗いながら、ふと佐尾くんに視線を向ける。
玉ねぎの皮を剥いている佐尾くんは、また清水さんと笹井さんの間に挟まれていた。
私にはよくわからない話で盛り上がっている彼らは、とても楽しそうだ。
洗剤の泡がついた調理器具を水で流していると、佐尾くんが包丁を握って皮を剥いた玉ねぎを切り始める。
サク、サクととても軽快とは言えないテンポで玉ねぎを切り始めた佐尾くんだったけど、半分くらい切り終えたところで包丁を置いた。
「あ、なんか目がいてぇ」
「玉ねぎって切ると目が痛くなるじゃん。だから佐尾にお願いしたんだよ」
「は? それ早く言えよ」
不満げに目を擦る佐尾くんを見て、清水さんがからかいつつも、愛おしげに笑う。
「あ、擦ったらよけい痛い」
「えー、大丈夫?」
「佐尾くん、手洗ってくれば?」
トラブルが起きても、佐尾くんを囲む清水さんや笹井さんは賑やかだ。
「あー、いてぇ。今、マジでムリ」
そう言って目を擦りながら、佐尾くんが私が洗い物をしているシンクに近付いてくる。
それまで佐尾くんを見つめて笑っていた清水さんは、私がそこにいることに気付くと急に表情を強張らせた。無言で敵意剥き出しの視線を投げかけられて、手についた洗剤の泡すら流すのもままならないままに、シンクから慌てて飛び退く。
洗い物が途中なことが気がかりだったけど、清水さんの冷たい眼差しを向けられては、シンクのそばを退くしかない。
佐尾くんが水道を使い終えるのをシンクの後ろのほうで待っていたら、手と目を軽く洗い終えた彼がゆっくりと私を振り向いた。
清水さんの視線が怖いから、私のことはスルーして欲しい。泡のついた手を握り合わせて必死に願ったけれど、私と目が合った佐尾くんは、それが自然なことのように、にこりと笑いかけてきた。
「西條さん、玉ねぎ切るの替わって」
「え?」
「西條さんだったら料理上手いから、俺みたいに目痛くなったりしないでしょ?」
「いや、でも私、洗い物の途中だし……」
「そっちは俺が替わる」
「でも……」
「大丈夫。俺、絶対に洗い物のほうが得意だし」
そんな急に、替わるなんて言われても……。清水さんの冷たい視線が怖いし。清水さんと笹井さんのそばにいって一緒に料理するなんて、とんでもない話だ。
佐尾くんからの提案を渋っていると、私たちふたりが話していることに我慢できなくなったのか、清水さんが自ら近付いてきた。
「佐尾、手洗ったら早く戻ってきて続きやってよ」
清水さんがそう言って、強引に佐尾くんの腕をつかむ。だけど佐尾くんは、清水さんの手を笑顔であっさりと解いた。
「玉ねぎ切るのは西條さんに任せようと思って」
「は? どうして?」
佐尾くんの一言で、清水さんの顔色が変わった。
「西條さん料理うまいから」
「は?」
「中学のとき、家庭科部だったらしいよ」
「だから?」
佐尾くんに問い返しながら、清水さんがジッと私を睨む。
「玉ねぎだって、俺なんかより西條さんに切られたがってる。ていうか、もう玉ねぎ切りたくない。俺、洗い物するから、西條さんは泡落として玉ねぎね」
佐尾くんは私に手を洗わせると、半ば強引に背中を押して、切りかけの玉ねぎが置いてあるまな板の前に立たせた。清水さんは面白くなさそうな顔をしていたけれど、最終的には佐尾くんに押し切られ、私が玉ねぎを切るハメになってしまった。
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