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3.雨上がりの放課後
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しおりを挟む雨の日のように傘というバリアで周囲から顔を隠せないせいか、佐尾くんと一緒に歩いているだけで妙に緊張してしまう。佐尾くんがいる側がそわそわして、落ち着かなくて仕方がない。
人がふたり入れるくらいの距離を空けているとはいえ、横並びになって歩く私たちは、周囲からも一緒に帰っているように見えるだろう。そのことを意識すると、心音が速くなった。
「西條さんて、部活とかしてないの?」
ドキドキしながら歩いていると、佐尾くんが唐突に話しかけてきた。
「部活、は……そうだね。高校に入ってからはやってない」
「てことは、中学のときは何かしてた?」
「一応。地味なやつだけど」
「地味? 部活に地味とか派手とかある?」
足元に転がる小さな石ころを蹴飛ばしながら、佐尾くんがケラケラと笑う。
足元を見て笑う佐尾くんの横顔を盗み見ながら、何がそんなに可笑しいのだろうと不思議に思った。
「だって、週3しか活動してなかったし。室内だし」
ぼそりと言うと、佐尾くんはますます可笑しそうにケラケラと笑う。
「室内だったら地味なの? じゃぁ、俺の中学のときの部活も地味なほうだ」
「何言ってるの。バスケ部は体育館でって意味では室内だけど、私の入ってた部活とは格違いだよ。うちの中学でも人気の部活だったでしょ」
肩をすくめながらそう言うと、佐尾くんが私を振り向いて大きく瞬きをした。
「西條さん、俺が中学のときバスケ部だったって知ってるんだ?」
「うん、まぁ……」
佐尾くんに意外に思われるのが不思議なくらい、私は彼が中学時代にバスケ部だったことをあたりまえみたいに知っていた。
友達が佐尾くんを好きだったということもあるけれど、一度も話したことのない私なんかの耳にも自然と噂が入ってくるくらい、彼は学年の男子の中でも目立つ存在だったのだ。
それに、私が通っていた中学のバスケ部は地区内でも強いほうで、どんな大会でもだいたいベスト8内に残っていた。朝礼で表彰されるバスケ部のメンバーの中に、佐尾くんの姿を見かけた記憶だってある。
「中学の同級生で、佐尾くんがバスケ部だったってことを知らない人はいないと思うよ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ。佐尾くん、有名だったもん」
何気なくそう言うと、佐尾くんが恥ずかしそうに私から目を逸らして、手のひらで顔を扇ぐ。
「こないだから西條さんが言う、有名って何? ていうか、西條さんは何部だったの?」
「家庭科部」
人数が少なくて目立たない部活だったから、もしかしたら佐尾くんは存在を知らないかもしれない。小さな声で答えたら、佐尾くんが隣でぱっと勢いよく顔を上げた。
「そういえばあった。家庭科部」
「だから言ったでしょ。地味だって」
私が入っていた部活は、大半の生徒たちから「そういえばあった」くらいにしか認識されていない小規模だったのだ。佐尾くんから返ってきた反応が予想通りすぎて、つい苦笑いが漏れる。
「いや、家庭科部があるのはふつーに知ってたよ。中学の調理室の場所って一階の角だったよね? 部活の帰りにそばを通ったらいい匂いがするときあって、何作ってんだろーっていつも思ってた」
「気を遣わなくていいよ。実際、部員は常に5人前後で、家庭科の先生と一緒にまったりやってた部活だから」
「でも、ちゃんとやってた部活じゃん。そのときに西條さんと知り合いだったら、絶対食いに行ったのに」
どこまで本気なのかはわからないけど、佐尾くんが悔しそうな顔をするから、なんだか可笑しかった。
「じゃぁ、西條さんは料理上手いんだ?」
下を向いてこっそり笑っていると、佐尾くんが興味深そうに問いかけてくる。
「作るのがちょっと好きなだけ。別に上手くはないよ。クッキーやケーキを焦がさず焼ける程度だし」
「へぇ。俺にしてみたら、クッキーやケーキを焼けるってことがまずすごいけど」
家庭科部でしていた活動なんて、全然大したことではなかったのに。佐尾くんがやたらと褒めてくれるから気恥ずかしい。
「私は運動部には向いてないから。私なんかより、佐尾くんのほうずっとすごいでしょ?」
「いや、俺は別に……」
「でも、バスケ部でもいつもスタメンだったんだよね?」
そう言うと、佐尾くんが驚いたように目を見開いて、それから恥ずかしそうに顔を逸らした。
「一応は。ていうか、よく知ってるね、西條さん」
小さな声でつぶやく佐尾くんの頬が、ほんのり火照っているように見える。
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