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3.雨上がりの放課後
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しおりを挟む小さく首を捻っていると、佐尾くんが僅かに眉間を寄せて、難しそうな表情を浮かべた。
「タイミングよく下駄箱の前で出会ったから声かけてみたんだけど。雨が降ってない日は誘ったらダメだった?」
問い返されて、答えに困った。
雨の日以外に佐尾くんに声をかけられるなんて。こんなシチュエーションは初めてで、どうするのが正解なのかわからない。というより、佐尾くんのほうこそ、私以外に一緒に帰る相手がいるんじゃないかな。
「佐尾くんは、他の誰かと約束してないの?」
反応を窺うように尋ね返すと、佐尾くんが歯を覗かせながら嬉しそうに笑った。
「してないから、西條さんに声かけたんだけど。一緒に帰ろうよ」
「う、ん?」
語尾上がりにそう言って首を傾げたのが、どうやら了解のサインだと思われたらしい。
「行こ」
佐尾くんが元気にそう言って、にこっと笑いかけてくる。
本当にいいのかな。
佐尾くんの笑顔に戸惑いながら、少し遅れて彼の背中を追いかける。数歩後ろを歩きながら、私は「一緒に帰ろう」と彼に誘われたことが不思議で仕方なかった。
雨の日ならともかく、晴れた日に私と一緒に帰ったって、彼には何のメリットもないはずなのに。
「佐尾ー、帰んの?」
佐尾くんの背中を付かず離れずの微妙な距離で追いかけていると、校門を抜けるまでにたくさんの同級生たちに話しかけられた。もちろん、私ではなくて佐尾くんが、だ。
「あ、佐尾くんだ。バイバーイ」
「バイバーイ」
四方八方から聞こえてくる声には、女の子のものもいくつか混じっている。そのすべてに平等に反応して笑顔で手を振り返している佐尾くんを後ろ姿は、売れっ子の芸能人みたいだ。佐尾くんがモテるのは知ってるけど、想像以上だ。
テレビの向こう側にいるアイドルでも眺めているような。どこか俯瞰的に彼の背中を見つめながら、私なんかが一緒に帰ってていいのかな……と心配になる。
いや。心配しなくても、誰も私と佐尾くんが一緒に帰ってるなんて思わないか。せいぜい、地味な女が佐尾くんの近くを歩いてるなーと思われているくらいだろう。
我ながら、自虐的だな。
自嘲の笑みを浮かべながら歩いていると、校門を出たところで佐尾くんが私を振り返った。
「西條さん、どうしてさっきから俺の後ろ歩いてんの?」
「え? な、なんとなく……」
そうしておいたほうがいいと思って。困って口籠ると、佐尾くんが不満気に顔をしかめた。
「もうちょっと前においでよ。じゃないと、しゃべりにくい」
「あ、うん」
しゃべるって、何を……?
そんなことを思いながら、遠慮がちに一歩前に出る。それでも、私と佐尾くんの間には、まだ不自然な距離があった。
「もうちょっと」
「え。あ、はい」
手招きされてもう半歩前に出ると、まだ不服そうな顔のままの佐尾くんに、再度手招きされる。
2歩と半分前に出てたところで、ようやく佐尾くんと横並びになる。それでも、佐尾くんと私の間には人がふたりが入れそうなくらいの微妙な距離があった。
私を見つめてじーっと考えたのちに、佐尾くんが肩をすくめながら苦笑いする。
「んー、せめてこれくらい? これでも遠いけど……」
ひとりごとみたいにそう言うと、佐尾くんが私と歩調を合わせて歩き始めた。
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