フツリアイな相合傘

月ヶ瀬 杏

文字の大きさ
上 下
12 / 37
3.雨上がりの放課後

しおりを挟む

 小さく首を捻っていると、佐尾くんが僅かに眉間を寄せて、難しそうな表情を浮かべた。

「タイミングよく下駄箱の前で出会ったから声かけてみたんだけど。雨が降ってない日は誘ったらダメだった?」

 問い返されて、答えに困った。

 雨の日以外に佐尾くんに声をかけられるなんて。こんなシチュエーションは初めてで、どうするのが正解なのかわからない。というより、佐尾くんのほうこそ、私以外に一緒に帰る相手がいるんじゃないかな。

「佐尾くんは、他の誰かと約束してないの?」

 反応を窺うように尋ね返すと、佐尾くんが歯を覗かせながら嬉しそうに笑った。

「してないから、西條さんに声かけたんだけど。一緒に帰ろうよ」
「う、ん?」

 語尾上がりにそう言って首を傾げたのが、どうやら了解のサインだと思われたらしい。

「行こ」

 佐尾くんが元気にそう言って、にこっと笑いかけてくる。

 本当にいいのかな。

 佐尾くんの笑顔に戸惑いながら、少し遅れて彼の背中を追いかける。数歩後ろを歩きながら、私は「一緒に帰ろう」と彼に誘われたことが不思議で仕方なかった。

 雨の日ならともかく、晴れた日に私と一緒に帰ったって、彼には何のメリットもないはずなのに。

「佐尾ー、帰んの?」

 佐尾くんの背中を付かず離れずの微妙な距離で追いかけていると、校門を抜けるまでにたくさんの同級生たちに話しかけられた。もちろん、私ではなくて佐尾くんが、だ。

「あ、佐尾くんだ。バイバーイ」
「バイバーイ」

 四方八方から聞こえてくる声には、女の子のものもいくつか混じっている。そのすべてに平等に反応して笑顔で手を振り返している佐尾くんを後ろ姿は、売れっ子の芸能人みたいだ。佐尾くんがモテるのは知ってるけど、想像以上だ。


 テレビの向こう側にいるアイドルでも眺めているような。どこか俯瞰的に彼の背中を見つめながら、私なんかが一緒に帰ってていいのかな……と心配になる。

 いや。心配しなくても、誰も私と佐尾くんが一緒に帰ってるなんて思わないか。せいぜい、地味な女が佐尾くんの近くを歩いてるなーと思われているくらいだろう。

 我ながら、自虐的だな。

 自嘲の笑みを浮かべながら歩いていると、校門を出たところで佐尾くんが私を振り返った。

「西條さん、どうしてさっきから俺の後ろ歩いてんの?」
「え? な、なんとなく……」

 そうしておいたほうがいいと思って。困って口籠ると、佐尾くんが不満気に顔をしかめた。

「もうちょっと前においでよ。じゃないと、しゃべりにくい」
「あ、うん」

 しゃべるって、何を……?

 そんなことを思いながら、遠慮がちに一歩前に出る。それでも、私と佐尾くんの間には、まだ不自然な距離があった。

「もうちょっと」
「え。あ、はい」

 手招きされてもう半歩前に出ると、まだ不服そうな顔のままの佐尾くんに、再度手招きされる。

 2歩と半分前に出てたところで、ようやく佐尾くんと横並びになる。それでも、佐尾くんと私の間には人がふたりが入れそうなくらいの微妙な距離があった。

 私を見つめてじーっと考えたのちに、佐尾くんが肩をすくめながら苦笑いする。

「んー、せめてこれくらい? これでも遠いけど……」

 ひとりごとみたいにそう言うと、佐尾くんが私と歩調を合わせて歩き始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青春ヒロイズム

月ヶ瀬 杏
青春
私立進学校から地元の近くの高校に2年生の新学期から編入してきた友は、小学校の同級生で初恋相手の星野くんと再会する。 ワケありで編入してきた友は、新しい学校やクラスメートに馴染むつもりはなかったけれど、星野くんだけには特別な気持ちを持っていた。 だけど星野くんは友のことを「覚えていない」うえに、態度も冷たい。星野くんへの気持ちは消してしまおうと思う友だったけれど。

君だけのアオイロ

月ヶ瀬 杏
青春
時瀬蒼生は、少し派手な見た目のせいで子どもの頃からずっと悪目立ちしてきた。 テストでカンニングを疑われて担任の美術教師に呼び出された蒼生は、反省文を書く代わりにクラスメートの榊柚乃の人物画のモデルをさせられる。 とっつきにくい柚乃のことを敬遠していた蒼生だが、実際に話してみると彼女は思ったより友好的で。だけど、少し不思議なところがあった。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

からふるに彩れ

らら
青春
この世界や人に対して全く無関心な、主人公(私)は嫌々高校に入学する。 そこで、出会ったのは明るくてみんなに愛されるイケメン、藤田翔夜。 彼との出会いがきっかけでどんどんと、主人公の周りが変わっていくが… 藤田翔夜にはある秘密があった…。 少女漫画の主人公みたいに純粋で、天然とかじゃなくて、隠し事ばっかで腹黒な私でも恋をしてもいいんですか? ────これは1人の人生を変えた青春の物語──── ※恋愛系初めてなので、物語の進行が遅いかもしれませんが、頑張ります!宜しくお願いします!

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...