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7.波乱の花火大会
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◇◇◇
花火大会の会場になっている河川敷は、電車を降りて、駅から歩いて十分くらいの距離にあった。
花火大会のために交通整備されて一方通行になっている遊歩道を、人の流れにのってみんなで進んでいく。
会場の入口を抜けてさらに進むと、河川敷の少し開けた場所にたくさんの屋台が並んでいた。
ソースの匂いとか、砂糖の甘い匂いとか。歩くたびに美味しそうな匂いが漂ってきて食欲をそそられる。
食べ物の屋台意外にも、射的とかゲームの屋台もあるみたいでなんだか楽しそうだ。
屋台が見え出してから、みんなの意識はほとんどそっちに持っていかれてしまって、自然と会話が減っていった。
「ねぇねぇ、まだちょっと時間あるし遊んでいこうよ」
ついに岸本さんが、立ち並ぶ屋台を見回しながら近くにいた石塚くんのTシャツを引っ張った。
「俺も腹減った。愛莉、なんか奢れよ」
「は? 普通逆でしょ」
岸本さんと石塚くんがふたりで言い合いながら、屋台に引き寄せられるように私たちから離れていく。
「愛莉ー、先に場所取らなくていいの?」
少しずつ距離が遠くなる岸本さんたちを村田さんが心配そうに呼び止めたけど、人が多くてザワザワしているからふたりとも気付かない。
「どうしよう?」
「俺は別に頑張って広い場所取らなくても、空いてる隙間にちょっと座れればいいけど?」
困ったように首を傾げる村田さんに、槙野くんが答える。
「俺もそれでいいよ」
「竜馬たちとはあとで連絡取り合えばいいし、俺らも屋台見る?」
「そうしよ。腹減った」
星野くんと槙野くんがそう言って屋台のほうに歩き出したから、私と村田さんもそれに従うことにした。
「何食う?」
「焼きそば?」
「唐揚げもうまそう」
四人で相談しながら、屋台の前をうろうろと歩き回る。
どれも美味しそうだけど、食べたいなーと思うものはみんな同じみたいで。私たちが食べたいものを売っている屋台は、どこも長蛇の列だった。
「とりあえず、ここだと焼きそばとお好み焼き両方買えそうだから並んでみる?」
悩んだ末に、みんなで焼きそばとお好み焼きの屋台の最後尾に並ぶ。だけど、列はなかなか前に進まなかった。
村田さんたちは並びながらのんびりとおしゃべりしていたけれど、私はなかなか進まない列に全員で並んでいるこの状況が、ものすごく非効率なことに思えてきた。せっかく人手があるんだから、二手に分かれたほうが買い物もスムーズだ。
「ねぇ、私、あっちの唐揚げとポテトの列に並んで買って来るよ」
「え、いいの? 友ちゃん」
「うん、そのほうが効率いいし。買えたら連絡する」
私はひとりで列から抜けると、速足で唐揚げの屋台のほうに向かった。
唐揚げの屋台の前も、焼きそば屋と同じように長蛇の列ができている。あっちも買えるまでにだいぶ時間がかかりそうだ。
下駄を履いていることを忘れて、スニーカーを履いている時と同じ感覚で歩いていたら、下駄の前の部分が地面から少し飛び出した石に引っかかった。
前に躓きかけてヒヤリとしたとき、後ろから腕をつかまれて引っ張られる。
「大丈夫か?」
ドキッとして振り向くと、星野くんが困ったような顔をして立っていた。
びっくりしたのと、転びそうになったところを見られて恥ずかしいのとで、つかまれた腕を慌てて振り払う。
「あ、うん。ごめん。どうしたの?」
声を上擦らせる私に、星野くんが微妙そうに苦笑いした。
「いや、深谷が他のとこに並ぶなら俺も一緒に行こうかなって」
「そ、そうなんだ。でも私、ひとりで買ってこれるよ」
声を上擦らせながら空笑いすると、星野くんがまた微妙そうな顔をする。
「あぁ、でも、買ったものを持つのを手伝うやつがいたほうがいいだろ。そうしたら、智ちゃんのとこに残るのは俺じゃなくて憲だし」
「あぁ。そ、そっか。そうだよね」
せっかくの花火大会だし、星野くんが気を利かせたってことなのかもしれない。村田さんと槙野くんだって、せっかくの花火大会なんだから、ちょっとくらいふたりきりになりたいよね。
石塚くんと岸本さんもふたりでどっか行っちゃったし。あのふたりは付き合ってるわけではないみたいだけど、いつも仲が良さそうだ。
なんとなく岸本さんが石塚くんのことが好きそうな気配はしてたけど、案外両想いなのかな。
だとしたら……、男子メンバーで余る星野くんは、必然的に私と一緒にいなきゃいけなくなる。
せめて岸本さんみたいに美人だったり、村田さんみたいに性格が優しくて笑顔で癒せたりできれば、一緒にいる星野くんを楽しませてあげられるのだろうけど。残念ながら、私には特別秀でているところがない。
それに、星野くんは私にいい印象を持っていないみたいだから、そんな相手とどんな話をすればいいのかもわからない。
あまり馴れ馴れしく話しかけたら、余計に嫌われそうだ。
仕方ない状況とはいえ、星野くんも私とふたりでいるのは嫌だろうな。そう思うと、なんだか申し訳なかった。
「深谷?」
自信をなくして立ち止まっていると、星野くんに呼びかけられた。
「どうした?」
「え?」
「腹減りすぎて動けないとか?」
顔を上げた私を見て、星野くんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「そんなわけないでしょ」
人が自信なくして落ち込んでるのに。顔を赤くして否定したら、星野くんがクスリと笑った。
「なんだ、元気じゃん」
「え?」
星野くんの声がやけに優しく響いたような気がして、胸がざわめく。
もしかして、私が落ち込んでることに気付いてた……?
まさかとは思うけれど、星野くんの言葉に少しだけ期待してしまう。
花火大会の会場になっている河川敷は、電車を降りて、駅から歩いて十分くらいの距離にあった。
花火大会のために交通整備されて一方通行になっている遊歩道を、人の流れにのってみんなで進んでいく。
会場の入口を抜けてさらに進むと、河川敷の少し開けた場所にたくさんの屋台が並んでいた。
ソースの匂いとか、砂糖の甘い匂いとか。歩くたびに美味しそうな匂いが漂ってきて食欲をそそられる。
食べ物の屋台意外にも、射的とかゲームの屋台もあるみたいでなんだか楽しそうだ。
屋台が見え出してから、みんなの意識はほとんどそっちに持っていかれてしまって、自然と会話が減っていった。
「ねぇねぇ、まだちょっと時間あるし遊んでいこうよ」
ついに岸本さんが、立ち並ぶ屋台を見回しながら近くにいた石塚くんのTシャツを引っ張った。
「俺も腹減った。愛莉、なんか奢れよ」
「は? 普通逆でしょ」
岸本さんと石塚くんがふたりで言い合いながら、屋台に引き寄せられるように私たちから離れていく。
「愛莉ー、先に場所取らなくていいの?」
少しずつ距離が遠くなる岸本さんたちを村田さんが心配そうに呼び止めたけど、人が多くてザワザワしているからふたりとも気付かない。
「どうしよう?」
「俺は別に頑張って広い場所取らなくても、空いてる隙間にちょっと座れればいいけど?」
困ったように首を傾げる村田さんに、槙野くんが答える。
「俺もそれでいいよ」
「竜馬たちとはあとで連絡取り合えばいいし、俺らも屋台見る?」
「そうしよ。腹減った」
星野くんと槙野くんがそう言って屋台のほうに歩き出したから、私と村田さんもそれに従うことにした。
「何食う?」
「焼きそば?」
「唐揚げもうまそう」
四人で相談しながら、屋台の前をうろうろと歩き回る。
どれも美味しそうだけど、食べたいなーと思うものはみんな同じみたいで。私たちが食べたいものを売っている屋台は、どこも長蛇の列だった。
「とりあえず、ここだと焼きそばとお好み焼き両方買えそうだから並んでみる?」
悩んだ末に、みんなで焼きそばとお好み焼きの屋台の最後尾に並ぶ。だけど、列はなかなか前に進まなかった。
村田さんたちは並びながらのんびりとおしゃべりしていたけれど、私はなかなか進まない列に全員で並んでいるこの状況が、ものすごく非効率なことに思えてきた。せっかく人手があるんだから、二手に分かれたほうが買い物もスムーズだ。
「ねぇ、私、あっちの唐揚げとポテトの列に並んで買って来るよ」
「え、いいの? 友ちゃん」
「うん、そのほうが効率いいし。買えたら連絡する」
私はひとりで列から抜けると、速足で唐揚げの屋台のほうに向かった。
唐揚げの屋台の前も、焼きそば屋と同じように長蛇の列ができている。あっちも買えるまでにだいぶ時間がかかりそうだ。
下駄を履いていることを忘れて、スニーカーを履いている時と同じ感覚で歩いていたら、下駄の前の部分が地面から少し飛び出した石に引っかかった。
前に躓きかけてヒヤリとしたとき、後ろから腕をつかまれて引っ張られる。
「大丈夫か?」
ドキッとして振り向くと、星野くんが困ったような顔をして立っていた。
びっくりしたのと、転びそうになったところを見られて恥ずかしいのとで、つかまれた腕を慌てて振り払う。
「あ、うん。ごめん。どうしたの?」
声を上擦らせる私に、星野くんが微妙そうに苦笑いした。
「いや、深谷が他のとこに並ぶなら俺も一緒に行こうかなって」
「そ、そうなんだ。でも私、ひとりで買ってこれるよ」
声を上擦らせながら空笑いすると、星野くんがまた微妙そうな顔をする。
「あぁ、でも、買ったものを持つのを手伝うやつがいたほうがいいだろ。そうしたら、智ちゃんのとこに残るのは俺じゃなくて憲だし」
「あぁ。そ、そっか。そうだよね」
せっかくの花火大会だし、星野くんが気を利かせたってことなのかもしれない。村田さんと槙野くんだって、せっかくの花火大会なんだから、ちょっとくらいふたりきりになりたいよね。
石塚くんと岸本さんもふたりでどっか行っちゃったし。あのふたりは付き合ってるわけではないみたいだけど、いつも仲が良さそうだ。
なんとなく岸本さんが石塚くんのことが好きそうな気配はしてたけど、案外両想いなのかな。
だとしたら……、男子メンバーで余る星野くんは、必然的に私と一緒にいなきゃいけなくなる。
せめて岸本さんみたいに美人だったり、村田さんみたいに性格が優しくて笑顔で癒せたりできれば、一緒にいる星野くんを楽しませてあげられるのだろうけど。残念ながら、私には特別秀でているところがない。
それに、星野くんは私にいい印象を持っていないみたいだから、そんな相手とどんな話をすればいいのかもわからない。
あまり馴れ馴れしく話しかけたら、余計に嫌われそうだ。
仕方ない状況とはいえ、星野くんも私とふたりでいるのは嫌だろうな。そう思うと、なんだか申し訳なかった。
「深谷?」
自信をなくして立ち止まっていると、星野くんに呼びかけられた。
「どうした?」
「え?」
「腹減りすぎて動けないとか?」
顔を上げた私を見て、星野くんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「そんなわけないでしょ」
人が自信なくして落ち込んでるのに。顔を赤くして否定したら、星野くんがクスリと笑った。
「なんだ、元気じゃん」
「え?」
星野くんの声がやけに優しく響いたような気がして、胸がざわめく。
もしかして、私が落ち込んでることに気付いてた……?
まさかとは思うけれど、星野くんの言葉に少しだけ期待してしまう。
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