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グレイシュブルー
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しおりを挟むみんなのところに戻ろうとすると、反対側の男子トイレから出てきた蒼月と鉢合わせた。
さっきまで着ていた微妙なデザインのTシャツを、白のTシャツに着替えてズボンも綺麗めなものに履き替えている。
「蒼月も大晴にダメ出しされたの?」
爽やかな印象になった蒼月に声をかけると、彼がちょっと気まずそうに目を伏せた。
「ダメ出しっていうか、朝、ゆっくり準備してる時間がなくて……。出かける前に、大晴に言われてあわてて詰め込んだ」
よく見ると、蒼月は片方の肩に大晴のリュックをひっかけている。自分のリュックに荷物を用意する余裕もなかったってことだろうか。
「寝坊? めずらしいね」
「まあ、そんな感じ……」
何をするにも楽観的な大晴とは反対に、蒼月は小さい頃から心配性だった。だから、五分どころか十分前行動なんてあたりまえだったし、忘れ物をしているところもあまり見たことがない。そんな蒼月が、みんなで出かける約束をしていた日に朝寝坊なんて、ほんとうにめずらしい。
「最近、勉強忙しいの? 寝不足で起きられなかったとか」
特進科の蒼月は、学校の夏期講習と並行して塾にも行っている。まだ高二とはいえ、特進科の生徒達は普通科よりも大学受験に向けて早めに動き出すと聞くし……。お兄さんみたいに現役での医学部合格を狙うなら、寝る間も惜しんで勉強しないといけないのかもしれない。
ほんとうは、大晴の『映画制作』に付き合っている暇なんてないんじゃないかな。
心配になって訊ねると、蒼月がメガネを指で押し上げながら恥ずかしそうに笑った。
「いや、最近、勉強はそこまで……。ほんとうに、シンプルに起きられなかったんだ」
「ふーん、蒼月でもそういうことあるんだね」
「そりゃ、あるよ」
質問に受け答えする蒼月の態度が思ったよりもやわらかくて、少しほっとした。
駅で会ったときの態度がそっけなかったのは、寝起きで頭が回っていなかっただけかもしれない。わたしも、それでたまにうまく人に対応できないときがある。
今日は一日中一緒にいるから、ずっと素っ気ない態度をとられたらつらいなと思っていたけど……。この感じなら、大丈夫そうだ。
「それなら、今日もよろしく。いつもと違って周りに人が多い中での撮影ってちょっと恥ずかしいけど……。ラストシーン、セリフ間違えないように頑張るね」
にこっと笑いかけると、蒼月もそれに応えるように口角を引き上げた。
「僕も、なるべく間違えないように気をつける。電車の中でずっと台本を読んでたけど、全部覚えられてるかどうかはあやしい……。今回のシーンは、きっと映画の中で一番大事な場面なんだよね」
自信なさそうに眉をハの字に下げた蒼月が弱気な発言をするのが、わたしには意外だった。
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