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グレイシュブルー
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ぼんやりしている立っている蒼月を引っ張って改札を抜けると、エスカレーターのほうに向かって走っていく大晴、涼晴、あやめの後を追う。エスカレーターの左側を必死に駆け上がっていると、電車がホームに入ってくる音が聞こえてきてちょっと焦った。
急ごうとして、エスカレーターを降りる直前で足がもつれて躓く。
「陽咲っ……」
その瞬間、後ろから焦ってわたしを呼ぶ声がして、転びそうになったところを蒼月に助けられた。そのまま、蒼月がわたしを後ろから抱えられるようにしてエスカレーターから降りる。
ふたりして転ばないようにするための、咄嗟の判断だったのだろう。わかっているのに、蒼月がわたしから離れたあとも、まだ胸がドキドキした。
「ありがとう……」
振り向いてお礼を言うと、「急ごう」と蒼月がわたしを促す。わたしを追い越して大晴たちのところに走る蒼月の態度は、さっきまでと変わらずそっけない。
わたしだけ、ひとりでドキドキしてバカみたい。
わたしがみんなのところに追いついたところで、ちょうど停車した電車のドアが開く。
朝早いから、車内は空いている。蒼月の横を追い抜いて電車に乗り込んだわたしは、あやめと一緒に並んで席に座った。
わたし達の向かい側の席に、大晴が涼晴と蒼月と一緒に並んで座る。席に座ると、蒼月は斜め掛けカバンからスマホを取り出して、しばらくそれをじっと見つめていた。
画面の上に置いた指をゆっくりと動かす蒼月の眉間に徐々にシワが寄っていく。指でメガネの鼻のあたりを押さえながらスマホを睨む蒼月は、険しい顔をしていた。
蒼月をいったい何を見て――。いや、読んでいるんだろう。
気になって見ていると、大晴が蒼月の腕を軽くつっつく。大晴が笑いながら話しかけると、振り向いた蒼月の表情が少しやわらいだ。
おろして膝に乗せていたリュックから薄いノートのようなものを取り出した大晴が、それを蒼月に渡す。大晴がコンビニのコピーサービスで作って、わたしたち全員に配ってくれた映画の台本だ。
大晴に渡された台本の表紙のタイトルを眺めてから、蒼月が台本を開く。読むのは初めてではないはずなのに、蒼月はやけに真剣な目をして台本を読み始めた。
ときどき顔をあげたかと思うと、隣に座る大晴に話しかけて、また台本に視線を落とす。
その様子を見つめてると、
「陽咲?」
あやめがわたしの顔を横から覗き込むように見てきた。
「どうかした?」
「べつに、なんでもない。早起きだったから、ちょっとぼーっとしてた」
「そうだよね。わたしも少し眠い……。次の乗り換えまで寝てようか」
「そうだね」
口元に手をあててあくびしたあやめが、目を閉じる。睡眠モードに入ってしまったあやめの隣で、わたしは向かい側の席に座る蒼月のことをぼんやりと見ていた。
急ごうとして、エスカレーターを降りる直前で足がもつれて躓く。
「陽咲っ……」
その瞬間、後ろから焦ってわたしを呼ぶ声がして、転びそうになったところを蒼月に助けられた。そのまま、蒼月がわたしを後ろから抱えられるようにしてエスカレーターから降りる。
ふたりして転ばないようにするための、咄嗟の判断だったのだろう。わかっているのに、蒼月がわたしから離れたあとも、まだ胸がドキドキした。
「ありがとう……」
振り向いてお礼を言うと、「急ごう」と蒼月がわたしを促す。わたしを追い越して大晴たちのところに走る蒼月の態度は、さっきまでと変わらずそっけない。
わたしだけ、ひとりでドキドキしてバカみたい。
わたしがみんなのところに追いついたところで、ちょうど停車した電車のドアが開く。
朝早いから、車内は空いている。蒼月の横を追い抜いて電車に乗り込んだわたしは、あやめと一緒に並んで席に座った。
わたし達の向かい側の席に、大晴が涼晴と蒼月と一緒に並んで座る。席に座ると、蒼月は斜め掛けカバンからスマホを取り出して、しばらくそれをじっと見つめていた。
画面の上に置いた指をゆっくりと動かす蒼月の眉間に徐々にシワが寄っていく。指でメガネの鼻のあたりを押さえながらスマホを睨む蒼月は、険しい顔をしていた。
蒼月をいったい何を見て――。いや、読んでいるんだろう。
気になって見ていると、大晴が蒼月の腕を軽くつっつく。大晴が笑いながら話しかけると、振り向いた蒼月の表情が少しやわらいだ。
おろして膝に乗せていたリュックから薄いノートのようなものを取り出した大晴が、それを蒼月に渡す。大晴がコンビニのコピーサービスで作って、わたしたち全員に配ってくれた映画の台本だ。
大晴に渡された台本の表紙のタイトルを眺めてから、蒼月が台本を開く。読むのは初めてではないはずなのに、蒼月はやけに真剣な目をして台本を読み始めた。
ときどき顔をあげたかと思うと、隣に座る大晴に話しかけて、また台本に視線を落とす。
その様子を見つめてると、
「陽咲?」
あやめがわたしの顔を横から覗き込むように見てきた。
「どうかした?」
「べつに、なんでもない。早起きだったから、ちょっとぼーっとしてた」
「そうだよね。わたしも少し眠い……。次の乗り換えまで寝てようか」
「そうだね」
口元に手をあててあくびしたあやめが、目を閉じる。睡眠モードに入ってしまったあやめの隣で、わたしは向かい側の席に座る蒼月のことをぼんやりと見ていた。
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