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スパークル
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しおりを挟む「蒼月」
近付いて行って声をかけると、蒼月が無表情で振り向く。
ああ。今日は、少しそっけない日なのかな。
わたしは蒼月と昔みたいに仲良くなりたいという気持ちを少しも諦めきれていなくて、だから、蒼月の態度がそっけない日は気分が沈む。
きっと蒼月は、大晴からわたしのことを無理やり押し付けられて迎えに来てくれたんだろう。夜とは言え、夏の七時はようやく日が沈んだところで真っ暗ではない。二丁目公園なら歩いて十分もかからないから、わたしひとりでも歩いて行けたのに。
「ごめんね、待たせちゃって」
「全然待ってないよ。空見てたし」
蒼月がそう言って、空を仰ぐ。つられるようにして見上げると、まだ若干夕焼けの色が残る空に、細くて白い三日月が浮かんでいた。
昔から、蒼月には夜の月が似合う。大晴が、眩しくて暑くて、たまに鬱陶しい夏の太陽だとしたら、蒼月は、静かな夜を照らす月。
「夏って、なかなか暗くならないよね」
わたしがつぶやくと、「そうだね」と蒼月が返してくる。
「夏の大三角ってどれだっけ?」
「八時くらいになれば東の空に上がってくるから、わかりやすく見えるのは九時くらいかな」
空を見上げたわたしに、蒼月が教えてくれる。顔を合わせた瞬間は、今日はそっけない日なのかなと思ったけど、わたしの話に答えてくれる彼の声はおだやかで優しい。そのことに、ほっとした。
「けっこう待たないと見れないんだね。公園で花火して、帰る頃に見えるかなあ」
「たぶん。このまま晴れていれば」
「そういえば、昔ホタルを見に行ったときも空がなかなか暗くならなくて、ふたりでずいぶん待ったよね」
わたしが何気ない調子でそう言うと、蒼月がしばらく間を置いてから、「……そうだね」と返してきた。
「そろそろ行こう。あんまり待たせたら、大晴からまた呼び出しがかかるよ」
蒼月が、話をそらして先に歩き出す。
今日の蒼月は優しいけれど、昔の話はあまり掘り起こしてほしくないみたいだ。
うつむいて歩きながら、顔の横に流れてくる髪を指で掬っては何度も耳にかける。
「……やっぱり、蒼月は今も七年前のことを気にしてる?」
前を歩く背中に向かってつぶやくと、蒼月が立ち止まって振り向いた。
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