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アイスクリーム頭痛

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 溶け始めてきたアイスの甘い水滴を舐めて、完全に溶け切る前にと、少し不貞腐れた気持ちで残りをサクサクと食べる。

 全員がアイスを食べ終わると、タイミングを待っていたように大晴が口を開いた。

「あのさ、夏休みにおれらで映画撮ってみない?」
「映画?」
「そう。映画撮って、十月の文化祭で上映すんの」
「なんで、急に?」

 また、唐突だな。

 眉をしかめるわたしに、大晴が大きく口を横に広げて笑ってみせる。

「実はさ、最近テレビで見たんだよ。なんかの映画祭で賞取ったって高校生のドキュメンタリー。その人、小学生くらいから映画撮ってたんだって。しかも、スマホ一本で。すげぇなって思って。それ見てたら、おれも、死ぬまでにひとつくらい、世に何かを残しておきたいなーって思っちゃったんだよね」

 なるほど。どうやら大晴は、そのドキュメンタリーに出てきた高校生に感化されたらしい。

「大晴、死ぬの?」

 世に何か残しておきたいなんて。いきなり中二病みたいなことを言い出した幼なじみに冷静につっこむと、大晴が子どもみたいに口を尖らせた。

「いや、死ぬとかじゃないけどさ」
「大晴、そんな熱い男だったっけ」
「大晴は熱いんじゃなくて、たまに、すごく暑苦しいだけだよ」

 それまでわたし達の話を黙って聞いていた蒼月が、横からぼそっと低い声で口を挟む。

 たまに、すごく暑苦しいだけ。

 そう言った蒼月が無表情のままだったから、わたしは思わず吹き出してしまった。

 幼稚園の頃からおとなしかった蒼月にしてみれば、持ち前の明るさと気まぐれに周囲を自然と巻き込んでいく大晴は、ときに暑苦しかったことだろう。

「暑苦しいってなんだよ」
「いい意味で、だよ」
「どのへんが?」
「全部」

 不貞腐れた大晴と冷静な蒼月との少しズレた会話に、ふふ、っとまた笑ってしまう。

 そうしているうちに、炎天下の中待たされた不満や期待はずれな展開にガッカリしていた気持ちが昇華されて消えていく。

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