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制圧、そして鳴動!

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 砦の制圧は、あっという間であった。

 マレフィアの目眩しの魔法は驚くほど効果を発揮した。

 城門付近でカードに興じつつ一応見張りの体裁だけとっていたのだろう男たちの脇を、我々は堂々と通り過ぎていったのだ。

 そうして気付かれることなく内部に侵入した我々は、というかマレフィアとベルラが、目覚ましい活躍で砦の賊どもを圧倒してしまったのだ。

 賊どもはその多くが酒盛りの真っ最中だった。

 居住部のホールに集った柄の悪い男たちは、近隣の村々や行商人から奪ったのだろう金品や酒や食料を、どうやら分配する会議の真っ只中であったらしい。
 
「一網打尽にしてやりましょう」

 と魔導書を手にマレフィアが言った。

「まさか、消し炭にするつもりか!?」

 私は引いた。

「そこまでしないわよ……! ちょっとビリビリっとさせて、動けないうちに縛っちゃえばいいのよ」

 こともなげに言って、マレフィアは魔導書を開いた。
 私は納得し、後方に下がった。
 心なしか勇者もホッとしたようだ。
 いくら賊とはいえ、同じヒト族同士、命を奪うのは嫌なものである。

「ベル、腹減った……まだか!」
「ど、どうどう! まだ待つのだ、あと少し」

 ベルラはぐるぐると唸っている。
 広間にはたくさんのご馳走が並んでいた。
 欠食児童のベルラは一刻も早く食いかかっていきたいところだろう。
 そんなケダモノ少女を宥めすかしているうちに、マレフィアの魔法の詠唱は始まっていた。

「聞け、遊び躍るマナよ、小さきいのちの煌めきたちよ……私マレフィアの名の下に、いまおまえたちに意味を授けましょう。“麻痺の電撃パラライズ!”」

 魔導書がパァッと光り、広間に光の粒子が散らばっていく。
 ビリリッ、バチバチッと紫電が迸る。

「ギャッ!?」
「ぐわぁっ!? なんらぁががが」

 やがてあちこちから、鋭く短い悲鳴や、低いうめくような苦しげな声が聞こえてきた。

「これでいいわ、おしまい!」
「ベル、限界!」

 マレフィアが勝ち誇った顔をして魔導書を閉じ、ベルラがご馳走たちにかぶり付きにいく。

「うわぁっ!? なんだコイツは!?」

 突然丸焼き肉にかぶり付いた少女の出現に、ビリビリ痺れた呂律の回らない男たちの驚きの声があがる。
 目眩しの魔法が途切れたのだ。

「だ、だれらぉおめぇらぁ!?」

 それは、広間入り口に佇む我々も同じだった。ギラギラと血走った敵意に満ち満ちた目が一斉にこちらに向く。
 しかし、痺れて動けない男たちならば。
 ふ。恐るるに足らず!

***

 それにしても、なんともあっけない砦攻略であった。
 だがそれもそのはず。
 我らは憎っくき魔王を倒すため、神に選ばれた勇者とその仲間たち。たかだかひとの賊など、敵ではないということである。

「さて、この賊どもの処遇は領主に任せることにして……我々もあの村に戻り、村長にもう心配ないと伝えてやろう」
「そう……ですね……」

 さあ、戻ろう……戻ってふかふかのベッドで休もう。
 
 ド、ォ、ォ、オ、ン――!

「うおあああ!?」
「きゃぁ!?」

 私が柔らかいベッドに想いを馳せたのも束の間。
 凄まじい轟音と地響きに砦が鳴動したのだった。
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