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68話 襲撃(side:アンジュ)
しおりを挟む王城を出てから約半日は過ぎただろうか。流れる窓の外を眺めると辺りは日が沈み薄暗くなっている。大きな草原の中にある1本道をしばらく走らせているがもう半時もすれば次の町が見えてくるはずだ。今日はその町で宿を取り、明日の朝にはそこを出て昼には隣国との国境に行く予定だった。普通に行けばもう町についていてもおかしくないのだが、馬車を引いている馬の調子が悪いらしくノロノロと進むしかできなかった。
アンジュは窓の外から向かいの座席に横になっている王妃に目線を映した。どうやら馬車の揺れに酔ってしまったようだ。
「王妃様、ご加減はどうですか? あともう少しで町に着きますわ。」
「大丈夫ですわ。先ほどアンジュ様から頂いた薬湯が効いてきたみたいです。だいぶ良くなったわ。」
「それはよかったです。もう少しのご辛抱ですわ。」
落ちそうになったブランケットを王妃の肩に被せた。それから、少し進むとなぜか急に馬車が止まった。
「どうしたのかしら?」
王妃が不安げに体を起こしかけた。
「王妃様、少しお静かにしていただけますか?」
いつになく真剣な表情のアンジュに王妃が息をのんで黙った。
…ドドッ ……ドドドッ ドドドドドッ
かなりの数の馬の足音が近づいてくるのが聞こえてくる。
「その馬車! 止まれえっ!!」
やがて馬車に追いついてきた何者かが大声で話しかけてきた。
「なにようですかな?」
御者兼護衛の甲冑の男が落ち着いた雰囲気で答えた。
アンジュがこっそり窓の外を見ると、見えるだけで数十人ほどの人間が馬に乗って馬車の周りを取り囲んでいる。
「アンジュさまっ!」
王妃様は良くないことが起こっていると気付いているらしく震える手でアンジュの手を握りしめた。
「王妃様、大丈夫です。ただ、今は少しお休みになってくださいね。」
アンジュはそう言って王妃様の目の前に手を翳して呪文を唱え始めた。王妃はそのまま目を閉じて眠りに入った。
その間も、外では怪しい集団と御者がやりとりをしていた。
「いきなりこのようなことをなされて、どういうおつもりですかな?」
飄々としたしゃべり方が気に障ったのか馬に乗った男の1人が怒鳴った。
「うるさい!! 俺の質問に答えたら命だけは助けてやるぞ、この馬車の中にいるのはオースティン国の王妃とアンジュ・メイスフィールド侯爵夫人で間違いないか?!」
「さあ、どうでしょうかねえ~、私は頼まれただけなのでわかりかねますなあ~。」
「くっ、このくそ爺! まあいい。どうせ全員、始末しろとの命令だ。最初はお前から血祭りにあげてやる!!」
馬上の男たちが一斉に腰に差した剣を引き抜く。
「あら、楽しそうなことしているわね。私も混ぜなさいよ。」
馬車から一人出てきたアンジュは馬上の男たちを見て楽しそうに笑った。
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