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61話 はじめての…

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ゴロゴロゴロ……


昼間から降り始めた雷雨は降り止むことはなく、さらに激しさを増すばかりだった。
王妃様達との会話が弾み、晩食まで御一緒させてもらった。その後は部屋に戻ってきて湯あみをして侍女たちには下がってもらった。
そして、それまで人がいることで平常心を保っていられていたのが一人になった途端に恐怖心がわき上がってくる。


窓の外が一瞬光り、間を置かずに雷鳴が室内に響き渡った。
ヴィクトリアは、嵐が過ぎ去るのを待つようにベッドの上で頭からシーツを被って耳を塞いでいた。

雷は昔から苦手で大抵の事は平気なのにどうしても雷の音を聞くと心臓の鼓動が早くなり震えてしまう。子供の頃はお父さんの布団に潜り込んだり、お父さんが夜勤でいない時は兄達の間に挟まれて寝たりした。大人になって少しはマシになったがどうしてもあの音だけは慣れない。


ピキピキ…ドォゴーーーーーン!!!

「きゃっ!」

これまでのより大きい轟音が響き渡った時、思わず短い悲鳴を上げてしまった。

「ヴィクトリア!!」

いきなり部屋の扉が開いてアレクが入ってきた。

「ア、アレク様?!」

夜も深い時間になぜアレク様が? と疑問に思うと同時に少し安堵の息をついた。

「す、すまない! 寝ている時間かと思ったのだが、リュウがどうしてもヴィクトリアの所へ行きたいと騒いでな……。」

「キュキュウウ~。」
(ヴィクトリア~。)

アレクの背中からピョコっとリュウが顔をだしてそのまま私の方へと飛んできた。

「部屋の前まで来て寝ているのなら引き返そうとしたのだが、部屋からヴィクトリアの悲鳴が聞こえたから思わずはいってしまったのだが、なにかあったのか?」

「い、いえ! なんでもあり…(ドォーン!) きゃあああ!!」

いい年をして雷が怖いなどと言えなくて否定しようとしたらタイミングよく雷の音で悲鳴をあげて思わず腕に抱いていたリュウをぎゅううっと抱きしめてしまった。

「キュウウウ?」
(だいじょうぶ?)

心配そうにリュウが私を見上げている。

「もしかして、雷が怖いのか?」

アレクがベッド端に腰かけた。

「…はい、お恥ずかしい話なのですが雷の音が昔から苦手で……。」

「恥ずかしがることはない。誰にだって苦手なものはあるものだ。」

そう言って、私の頭をゆっくりと撫でた。その瞳は優しく私を見ていて少し安心するとともに気恥ずかしくなってしまった。

「わ、私は子供じゃありません!」

「そうか、それはすまなかった。」

アレクはクスリと笑って撫でていた手を止めた。それが何となく惜しいと思ってしまった自分がいて、それを打ち消すように別の話題をすることにした。

「あの、ザカリー様のご相談というのは何だったのでしょうか?」

「ああ、それは……。」

そこから聞いた話は、来月の建国祭の時にクララさんが聖女という証明をするという事と、それまではアレクと新しく設立された竜騎士団がクララ様の護衛をする事になったということだった。

「クララさんの護衛ですか……。」

ヒロインであるクララがアレクと接点を持ち始めたのは、乙女ゲームの強制力というもので、アルフレッド王子達のようにアレクもクララに惹かれてしまうのではないか。アレクがそんなことになるはずないと思っていてもどうしても不安が募った。
そんな私にアレクは気づいたのか、私の手をぎゅっと握り締めた。

「リュウ、お願いがあるのだが。」

「キュウ?」
(なあに?)

「部屋外にいるロイはな、実は雷が苦手なのだ。多分一人で怯えているはずだから少し面倒見てくれないか。」

「キュ、キュウ!」
(うん、わかった!)

リュウは元気よく返事をして扉の向こうへと飛んで行ってしまった。

「ヴィクトリア、君が心配になるのはわかるが俺は大丈夫だ。クララ嬢の護衛は奴らの動向を探る為でもある。」

「…はい、わかりました。」

「ヴィクトリア、この際だからはっきり言わせてもらう。俺はお前が好きだ。」

「ひゃっい…っ。」

いきなりの告白に思わず返事をして舌を噛んでしまった。

「だ、大丈夫か?」

「アレクしゃまが、いきにゃりへんにゃこというから…。」

舌が痛くてちゃんと喋れない。そんな私を見てふっとアレクが笑みをこぼした。

「変な事ではないぞ、あからさまに態度で示していたはずなのだがな…。やはり言葉ではっきりと伝えてよかったな。」

「にゃ、にゃんで‥‥。」

すごく嬉しい事なのに、なんで私なのか。恋愛経験がゼロな私にはさっぱりわからない。

「なんでなのだろうな。最初は面白い子だなと思った。料理もうまいし、剣術だってできる。君とのやり取りは楽しかった。それから何だか目が離せなくなって気が付いたら……好きになっていた。だからこのまま俺と結婚してほしいと思っている。」

「にゃ、にゃ……。」

アレクの告白に顔が熱くなるのを感じた。

「ふふ、顔が真っ赤だぞ。それで、ヴィクトリアはどうなんだ? 俺のことはどう思っている?」

アレクの大きな掌が私の頬に添えられた。掌から伝わる冷たさが心地よかった。

答えはもうすでに決まっていた。

「わ、たしも、アレクがしゅきでしゅ…。」

噛んだ舌の先が痛くて情けない告白になってしまったがアレクには伝わったみたい。すごくうれしそうな顔をした。それからその顔がどんどん近づいてくる。

えっと、これってもしかして。

思わず目をつぶると唇に柔らかい感触を感じた。

前世と合わせて初めてのキスに雷の音はもう気にならなくなっていた。


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