上 下
54 / 92

46話 奈落の底(side:ローガン)

しおりを挟む


俺の人生が狂い始めたのは、アレクあいつのせいだと確信して言える。
侯爵家の三男として生まれ、教養・武術・魔法学などを超一流の家庭教師達に教えてもらい、その教師達が絶賛するほど優秀な子供だった。兄二人も王立学園を首席で卒業していたので、俺も余裕でできるという自信があった。

しかし、アレクあいつだけには勝てなかった。
どんなに頑張っていてもあいつは常に俺の上にいた。悔しくて、悔しくて仕方がなかった。結局は、学園であいつに勝つことはできなかった。

いつか見返してやる。
騎士団で奴より上に立ってやる! という思いから同じ騎士団に入った。
親のコネを使ってでも奴より高い地位について嘲笑してやるつもりだった。それなのに、騎士団でもあいつは最年少で第一騎士団の副団長という地位を得た。

俺は荒れた。騎士団の仕事はそつなくこなしていたが、仕事が終わると頭の悪い尻の軽そうな女どもや娼館に通いを始めた。
そんな時に娼館で知り合った男に話しかけられた。

「だんなぁ、いつも面白くない顔していますなあ~。女だけではすっきりしないのでは?」

「おまえには関係ない。あっちへ行け。」

ニタニタと胡散臭く悪い男を追い払おうとしたが、男は尚も話しかけてくる。

「いやいや~、そう言わないで私の話を少しだけ聞いてもらえませんかね。だんなにとっても悪い話じゃありませんから。」

今思えばそれが男の罠だったのだが、俺は話だけは聞いてやろうと思ってしまった。

「トランプ遊びをするところでねぇ、ちょっとした賭け事をするんですよ、憂さ晴らしにはうってつけですし勝てば小遣いが稼げるんですよ。」

「俺は金には困ってない。それに、賭け事する場所は国指定で決められているはずだが?」

「まあまあ、そんな固いこと言わずに1度行ってみませんか?」

「‥‥わかった。」

違法ならば騎士団として取り締まらないといけない。まずはその場所を見てみることにした。
そこで少し遊ぶ予定だったが、見事にその遊びに嵌ってしまった。金貨を賭けるというスリリングと勝った時の快感は気持ちのいいものだった。負けても次は勝てるとそんなことを繰り返していたらその店のツケがとんでもない金額に気づいたらなっていた。

「困りましたねぇ~、だんなの顔を立ててここまでは金の請求はしてきませんでしたが、ここまで来るとねえ~」

「次の賭けで勝てたら返す。」

「そんなことを今まで何回もおっしゃっていたじゃないですか。今回ばかりは利息分だけでも返していただかないと騎士団へ出向いて催促させていただくことになりますよ。」

「そ、それは困る!」

やっとで第二騎士団でも副団長という役職を得たのだ。これで違法な賭け事で借金をしていることがばれたら何もかも終りだ。

「そうですねえ、ではこうしましょう。だんなには少し私の仕事のお手伝いをしていただきたいのです。そうすれば、今までのツケを半分に減らしましょう。なあに、悪い事ではありません。」

「何をすればいい?」

「実は、私の商売相手で魔法具を扱っている商人がいるのですが、最近、人の足元を見て値を釣り上げてきたんですよ。こっちは昔からの付き合いなのに酷いと思いませんか? どうやら、子爵をパトロンにつけて悪い事し始めたらしいんですよ!そんなこと許せますか? だから、旦那にはその商人と子爵を捕まえていただきたいのです。」

「なるほど、不正をしているのなら捕まえるのは当然だ。」

「それとですね。その商人の息子は魔法具を作る職人でね、とても優秀らしいのですよ。奴らを逮捕する前にその息子を私に渡してほしいのです。」

「それだけでいいのか?」

「はい。あとこれは、奴らの不正の証拠です。」

何枚かの書類を渡された。内容を見たら証拠として十分だった。

「わかった。早急に手配する。」


そうして、俺は子爵と商人の罪を明らかにし逮捕した。奴らを捕まえる前に息子を誰にも気づかれぬよう拉致して男に渡した。




それから間もなく、また男に呼び出された。

「困ったことになったんですよ。だんなのお力が欲しくておよびだしたんですがねぇ。」

「今度はなんだ。」

「例の商人の息子なんですがねえ、私達が欲しがっている魔法具の設計図をどこかに隠したらしいんですよ。」

「それを俺に探せと? 本人に聞けばいいじゃないか。」

「それがねぇ、頑としてはなしてくれないのでねえ~、うちの若い者が痛めつけすぎましてね。」

「殺したのか?」

「いや、死んではいませんが‥‥。今後はどうなるのかわからないのですよ。」

「お前たちが探せないものを俺が探せるわけがないだろう。」

「いえ、旦那には会いに行ってもらいたい女がいるんですよ。」

「誰だ?」

「子爵の一人娘です。旦那もお会いしたことあるでしょう?」

「ああ、あの女か。」

父親が捕まって連れて行かれるのを青い顔をして見ていたな。

「今、『カトレア』で働いているらしいですよ。」

「何? 娼館にいるのか」

まあ、父親がああなった以上、身寄りのない者はああいう所に行くしかないだろうな。

「その女が息子とどうやら、いい仲だったようで。そこに行ってそれとなく聞いてもらいたいんですよ。私の身分であそこには入れないのでね。」

「……わかった。今回の事もツケから引いてくれるのだな?」

「もちろんでございます!」

そうして女に会いに行ったが、何も知らないようだった。





たったそれだけの事をしただけだ。
子爵と商人の悪事をあばいて捕まえただけなのに、なぜ俺が追われないといけないのだ?
冤罪? 
冗談じゃない! 俺は証拠の書類を渡されただけだ。


俺は追手から逃げるために薄暗い路地裏の道を早足で進んだ。
そんな俺の目の前にあの男が現れた。

「だんなぁ、どうやら追われているようですね。」

「頼む、助けてくれ。」

「私と旦那の仲じゃないですか、もちろん助けますよ。」

そう言って笑う男の瞳は奈落の底の様に黒かった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け ※一言でも感想嬉しいです! 孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。 ——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」 ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。 ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。 ——あぁ、ここで死ぬんだ……。 ——『黒猫、死ぬのか?』 安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。 ☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。 あなたに相応しくあろうと努力をした。 あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。 なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。 そして聖女様はわたしを嵌めた。 わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。 大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。 その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。 知らずにわたしはまた王子様に恋をする。

あなたが私を手に入れるまで

青猫
恋愛
地方都市の裁判官だった夫を突然亡くし、寡婦となったセリーナ。三十を越した身分の無い役人の未亡人には、修道院に入るのが堅実な道だと思っていた。しかし突然、六つも年下の軍人から求婚される。 人妻だったセリーナにずっと片思いをしていたレオンと、彼の不器用な愛に手探りで答える年上奥さんの物語。 アスタリスクが付く話には性描写を含みます。

マガイモノサヴァイヴ

狩間けい
ファンタジー
異世界に転生していた男・模栖 甲士(もず こうじ)。 5歳で前世を思い出したのだが……そのときには既に馬車で運ばれ、追放されている最中だった。 その原因が"まがいもの"という称号らしく、金銭などの偽造を疑われかねないのでこの処分となったようだ。 そんな男が遠く離れた森で置いていかれ、追放の原因である"まがいもの"で異世界を生き抜くお話。 以前に他サイトで警告を受けた作品を移行したものです。 こちらはこれまでどおりのストーリーで進めます。 ※ノクターンノベルズでも投稿しております。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...