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40話 リュウと一緒に騎士団に行きました。

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「きゅっ~い! きゅきゅきゅ~きゅっ!」
(いきた~い! あれくのところにいくもん!)

先ほどからリュウが駄々をこねている。
というのも、リュウが目覚めたのがつい先ほどでアレクはとっくに騎士団へ出ていた。リュウを起こすのもかわいそうだからと置いて行ったのがまずかったらしく、アレクがいないことに気づいたリュウが騎士団へ行きたいと言い出した。

「困ったわ、ひとりで行かせるわけにもいかないし、お父様はすでに王城にいるだろうし、御祖父様おじいさまとアンドリューは出かけたばかり。どうしようかしら。」

ヴィクトリアが連れて行ってもいいのだが、もしヴィクトリアだと気づかれたらマズイし、お父様達から今は極力、外へ出るなと言われている。

「きゅーきゅーい! きゅーきゅー!」
(いーきーたーい! いーきーたーい!)

本格的に駄々をこね始めたリュウが床に背中を押し付けて尻尾で床をペタンペタンと叩いている。

「あら、どうしたの?」

アンジュ御祖母様おばあさまとエマ様が部屋へと入ってきた。

「それが………。」

御祖母様おばあさま達にこれまでの経緯を話した。

「あらあら、リュウはよっぽどアレックス殿下の事が気に入ったのね。もしくは別の目的があるのか…。」

「きゅっ!」
(ぎくっ)

それを聞いていたリュウがなぜか慌てだした。

「まあいいわ、こんなに行きたがっているのだからリアちゃん、騎士団まで連れて行ってあげなさい。」

「えっ? でも私とバレたりしたらマズイのではないですか?」

「変装すればいいじゃない。そうねえ、リアちゃんは背丈もあるし男装にするのもいいわねえ。」

「まあ! 素敵っ、リアちゃんなら宝〇並みに格好よくなりそうだわ!」

「決まりね、じゃあさっそく準備に取り掛かりましょうか。」

私が口を挟む間もなく、男装することが決定事項となってしまった。それから御祖母様おばあさま達に着せ替え人形のごとく短髪のカツラを被せられて、男性用の使用人服を着せられた。胸は悲しいかなそんなに発達していないのでさらしを巻いたら違和感がなくなった。

「きゃー! リアちゃん、素敵よ~。」

アンジュ御祖母様おばあさまがはしゃいだ声で言っている。

「ほんと、リアちゃんがヅカに入っていたら貢ぎまくっていたのに! カメラを至急作らせるわ! こんな凛々しいリアちゃんを写真に撮っておきたいもの。」

とエマ様が興奮したように言う。

「ははは…。」

私は乾いた笑みを浮かべてもう一度、姿見鏡すがたみを見た。黒い髪は少し長めの短髪で襟首に少しかかっている。瞳の色はそのまま青色にしている。白いシャツに黒のジャケットとズボン。タイは赤い細めの紐を蝶々結びにした。背は170センチに届くか届かないかといったところで女性にしては高いが男性にしたら問題ない。
これを見て誰も私だとは思わないだろう。

「それでは、行ってまいります。」

こうして私はリュウを連れて騎士団へ向かったのだった。







オースティン国の騎士団は第一、第二と別れていて、それぞれの序列はないとされているがやはり第一騎士団の方が花形と言われている。

第二騎士団の副団長であるローガン・ベルはそれが気に入らなかった。同じ武功を上げても第一の方がもてはやされる。しかも第一騎士団の副団長はローガンの宿敵とも言えるアレク・ハワードだから尚更だった。
二人は同じ年で、学園に通っていた頃からのライバルだ。しかし、一度として学業でも武術でも魔法でもアレクに勝てたことはなかった。いつも2位止まりだ。それがまたローガンのプライドを傷つけた。ローガンは侯爵家の3男、対してアレクは同じ侯爵だが出自がわからない養子だった(現在の第一騎士団団長がある日突然、連れてきたらしい)。そんな奴に負けるのが悔しくて仕方なかったから、学生の頃はよく突っかかったりしたが、本人は何食わぬ顔をしている。

まるでローガンの事など気にも留めていないように。

何時の頃からか、ローガンには薄暗い炎が心に灯り始めた。いつかアレクに勝って奴が苦痛に歪む顔が見てみたい、と。

騎士団に入って親のコネを駆使して昇進していっても、それ以上の武功を上げていくアレクはあっという間に第一騎士団の副団長の座を射止めた。
ローガンもやっとのことで第二騎士団の副団長になったがそれで満足できるはずもなかった。

いつかアレクを蹴り落して、高みから見下ろしてあざ笑ってやる。

その為にアレクの動向はつぶさに伝えるよう信頼できる部下に命じていた。


「何っ? レッドドラゴンをテイムしただと?」

騎士団の廊下を歩きながら小声で報告してきた部下に思わず足を止めた。

「はい。昨日、肩に乗せているのを確かにこの目で見ました。どうやらメイスフィールド領に行った際にテイムしたようです。」

「ちっ。」

思わず舌打ちしてしまった。魔物のテイムはある程度の魔力と能力があれば難しくないが、ドラゴンには知力が備わっているためテイムするのはかなり難しいとされる。ここ数十年においてもドラゴンをテイムしたなどと聞いたことがない。
また、強力な駒を奴は持ってしまった。思わず歯噛みする。
だが、まあせいぜい今の身分を楽しんでればいいさ。最後に笑うのは俺だ。

廊下を歩いているとちょうど騎士団の門で何やらもめている声がしてきた。

「何事だ。」

門番をしている騎士に問いかける。見るとレッドドラゴンを抱えた少年が立っていた。

「それが、ハワード副団長にお目通りを願いたいと言ってきたのですが…。」

「ほう、ハワードにね。君はハワードとは何か関係があるのかね?」

少年の方に聞いた。

「は、はい。アレク様の家で働かせてもらっています。リュウ…このドラゴンがアレク様に会いたいと言っているので連れて行ってあげたいのですが。」

男にしては声が高いがまだ少年の域を超えていないからだろう。

「ふむ…。君の名前は何と言うのか?」

「ヴィク…ヴィクトルです!」

「では、ヴィクトル君、僕に付いてきたまえ。」

「ベル様、よろしいので?」

騎士が恐々と聞いてきたが、ローガンは笑みを浮かべて頷いた。

「私が許可したのだから問題ないだろう? 責任を持ってこの子をハワードの元へ連れて行くよ。」

「わかりました…。」

ローガンの言葉に納得した騎士はまた持ち場へと戻って行った。

「あ、あの。ありがとうございました。」

ぺこりと少年は頭を下げた。

「いや、いいよ。…そうだ、ついでだから訓練場を見学していかないかね?なあに、ハワードには俺が連絡して来ていることを伝えるよ。」

「えっ、本当ですか? 実は興味がありまして、もしご迷惑でなければ見学したいです。」

少し目を輝かせて答える少年に少し加虐心が湧いてきた。
線の細い体つきであまり武術の心得はないだろう。第二の新しく入った騎士たちに少しもらおうとするか。
少ししたらアレクを呼べばいい、自分からやりたいと言い出したと言えば奴も非難することはできないだろう。


こうしてローガンは言葉巧みに少年を騎士たちの打ち合いに参加させることに成功した。




それから数十分後。

「おい! 俺の使いが来ていると聞いたがっ。」

アレクが慌てたように訓練場へと入ってきた。

「あ、アレク様。やっと会えた~。」

アレクが見たのは死屍累々のような騎士たちと訓練場の真ん中で爽やかな笑みを浮かべてアレクに手を振る少年の姿であった。


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