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36話 お父様と仲直りしました。

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「母上! いきなり何を言い出すのですか!!」

お父様が顔を真っ赤にさせて御祖母様おばあさまに詰め寄った。

「本当にあなたはぎゃーぎゃーうるさいわね。もとはと言えばあなたが悪いのです。公衆の面前で婚約破棄という屈辱を味わったリアちゃんを慰めるどころか怒鳴り散らしたというじゃないの、そしてこともあろうに『修道院に行け』ですって? いつからあなたはそんな人の話も聞かない朴念仁になったのかしら。」

「違います! 私はリアを守ろうとしただけです、本当は騒ぎが収まるまで母上の所へ向かわせるつもりでした。」

「なら、それをなぜはっきり言ってあげなかったの? いつも言っていることだけどあなたは言葉が足りなすぎるわ、言わなきゃわからないことだってあるの。」

「…はい。」

お父様はそのまま項垂れてしまった。

「リアちゃん、このバカ息子がごめんね。実は……。」

御祖母様おばあさまはそう言って、お父様に『蟲』という呪術にかかっていたことを話した。

「それでは、お父様はその『蟲』によっておかしくなっていたのですね。」

「まあ、そういうことになるわね。でも『蟲』なんかに簡単にとりつかれるルイスバカが悪いのよ。あなたを悲しませたり、アレックス殿下に怪我をさせたりしたのはルイスのせいなのですからいくらだって非難していいのよ。」

「いえ、私は別に…。」

お父様を見ると、悲しそうな表情で私を見ている。

「ヴィクトリア、本当にすまなかった。私はエリーゼの代わりにお前を愛していたわけじゃない。私の唯一無二の娘だから愛しているのだ。それだけは信じてほしい。」

真っ直ぐ私の目を見て話すお父様はいつもの威厳はなく何かに怯えているようなそんな目をしていた。
あれからずっと、お父様は私が投げつけた言葉にどれだけ傷ついていたのだろうか。それを思うと胸が締め付けられるように痛くなった。

「お父様、私の方こそ申し訳ございませんでした。お父様の真意に気づかずひどい言葉を投げつけてしまって…。」

「いや! 私の方こそすまなかった。もっとちゃんとした言葉で伝えるべきだったと反省している。」

「私も言いたいことを伝えるべきでした。」

「いやいや、私も…。」



「はいはい! 仲直りは済んだみたいだから話を進ませてもらうわね。」

パンパンと手を打って御祖母様おばあさまは私達の話を強制的に終了させた。

「母上…。」

お父様が恨みがましい目で御祖母様おばあさまを見ている。

「あなた達のやり取り見ていたら日が暮れてしまうわ。これから話はたくさんあるのよ、さくさくと進めなきゃ。で、アレックス殿下。リアちゃんとの婚約は引き受けて下さるのかしら?」

御祖母様おばあさま! いきなりすぎますし、アレク様にだって選ぶ権利が…。」

「リアちゃん。今はアレックス殿下にお聞きしているのよ。少しお口を閉じていてもらえないかしら。」

御祖母様おばあさまの笑顔の圧力で大人しくすることにした。

「私は構いません。ですが、メイスフィールド家なら私よりもっといい縁談があるのではないですか?」

「あら、この国の第一王子であるあなた以外にもっといい縁談というのはあるのかしら?」

「それは…。」

「何? 王位継承権を返上したから自分に身分はないと言いたいのかしら?」

「………。」

「はあ、例え王位を継がなくてもあなたは王族に変わりはないの。それは一生ついて回るものなのよ。それこそ王族っていうだけで縁を結びたい貴族なんて五万といるわ。」

「…おっしゃる通りです。」

「まあ、急な話だから二人が戸惑うのもわかるけど、少し急がないといけなくなっちゃったのよ。」

「それは?」

「光の魔法が使える子と第二王子を婚約させたがっているのでしょ?ザカリー達は。」

「はい。しかし、弟は…アルフレッドはマーガレット嬢と婚姻することを望んでいます。昨日、王城で国王陛下に伝えたと思いますが。」

「それよ。奴らは王族と縁を結んで再び返り咲こうと狙っているはず、第二王子が駄目なら次は誰が狙われるかしら?」

「しかし、私はっ!」

「王位に興味はないと言いたいだろうけど、奴らには関係ないわね。例えあなたが国王の立場を望んでなくても『聖女』を妃にしたのだから神の思し召しだとか何とでも言って担ぎ上げられるわよ。そんなの嫌でしょ?」

「はい、断固拒否します。」

「なら、今のうちににリアちゃんと婚約しとけばいいのよ。メイスフィールド家と婚約関係になると知られたら、簡単に奴らも手を出せないだろうし、この件が終わったらまた考えればいいわ。どうかしら?」

「私にはありがたい話ですが……、ヴィクトリア嬢はいいのか? 私と婚約するのは嫌ではないか?」

突然、アレク様が私に聞いてきた。私はそれまで狐につままれた感じで話を聞いていたのでいきなり話を振られてビクっと肩を揺らした。

「え、えっと。アレク様がお嫌でなければ私は全然かまいません。」

「…そうか。では、よろしく頼む。」

「はい。」

なんだか顔が赤くなるのを感じてアレク様に見られているのが恥ずかしくなって俯いてしまった。

「リアちゃんが、アレク様と婚約…。」

絶望に打ちひしがれたようにお父様が呟いた。

「もう! いずれはお嫁さんになるのだから、そろそろ子離れしなさいな。……あと、パット。あなたも孫離れしなさい。」

御祖父様おじいさまを見ると声を出さずに滝のような涙を流していて、隣でアンドリューがそっとハンカチを差し出していた。


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