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27話 俺に勝ったらなんでも言う事聞いてやるよ(side:アレク)
しおりを挟む「ヤァァア!!」
ヴィクトリアが真正面から打ち込んでくるのを俺は片手で握った木剣で難なく受け止める。ヴィクトリアはまだやる気で瞬時に後じさり間合いを取る。
ふむ。なかなか筋がいい。
さすが俺相手に大口を叩くだけの事はある。
宰相たちが領地へ向かって一週間が経ち俺の腕のギブスも昨日には外すことができた。だが当分はまだリハビリが必要だと医者に言われたがいい加減、一週間も体を動かさないとなまってしまう。
今朝、いつもより早めに目が覚めてヴィクトリアが素振りをしているのを部屋の窓から見つけて庭へと向かった。庭でヴィクトリアは一心に木剣で同じ動作を繰り返していた。ただ、上から下へと下ろしているのではなく、一本の線を引いているかのようにその所作は美しくそして力強さがある。そして、かなりの使い手と見える。
俺は思わず声に出していた。
「ヴィクトリア、俺と打ち合いしてみるか?」
ヴィクトリアはパッと後ろを驚いたように振り向いた。
「びっくりした! 驚かさないでくださいよ…って、今、打ち合いって言いませんでした?」
「言ったぞ。最近、体が鈍っている気がしてな。お前ならいい練習相手になりそうだ。」
ヴィクトリアは一瞬、嬉しそうに目を輝かせたがすぐに不安そうな表情へと変えた。
「私、熱中すると手加減できなくなりますよ。」
「おいおい、なんだそりゃ。この俺が女相手にやられるわけないだろう。」
ヴィクトリアはむっとした表情になる。本当にコロコロとよく表情が変わる奴だな。まあ、見ていて飽きないが。
「あとで泣いても知らないですからね。」
「そりゃあ、こっちのセリフだな。お嬢ちゃん。」
「ぐぅぬぅ!! ムカつく!」
おーおー地団駄踏んで怒っている、ははっ。ほんと面白いやつ。
さて、煽ってやったんだから、ちょっとは楽しませてくれよ。
そこで俺は面白いことを思いついた。
「なあ、どうせやるなら賭けをしないか? 俺から1本でも取れたらなんでもお前の言う事聞いてやるよ。もし取れなかったらお前が俺の言う事を聞くっていうのはどうだ?」
「いま、なんでもって言った? 男に二言はないわね!」
「おう、いいぜ。もしできたらだけどな。俺が勝ったら……そうだな、昼飯と晩飯を俺のリクエストのものにする。あ、おやつもな。」
「そんな簡単な事でいいの? 」
「いいぜ。あんまり難易度が高いと泣いちまいそうだからな。」
「くぅ~!! ぜーったいに負けないから!3本勝負でいい?」
「いいぞ。」
予備の木剣を手に取る。怪我をした腕はまだ包帯で固定されているが片手で十分だろう。
互いに間合いを開けて木剣をかまえる。
ヴィクトリアの眼光の力強さに俺は内心ほくそ笑む。気合十分ってやつだな。さあて、お手並み拝見と行こうか。
「んじゃ、はじめるか。どこからでもかかってこい。」
「ヤアッ!!」
ヴィクトリアが一瞬のうちに目の間に跳躍して木剣を打ち落とす。
早い! だがそれだけでは駄目だ。
俺は木剣を受け止めてそのまま薙ぎ払う。
「あっ。」
ヴィクトリアの手から木剣が落ちたところで俺の木剣がヴィクトリアの首に軽く当たる。
「俺がまず一本だな。」
「くっ!!」
俺がにやりと笑うとヴィクトリアは悔しそうに顔を歪ませた。
2本目は乱打戦となった。次々と打ち込まれる木剣をすれすれでかわしていく。
なるほど、確かに剣の腕はそこいらの新人の騎士たちよりも確実に強い。女にしておくのは惜しいなとも思うが……。
ヴィクトリアの木剣での突きが俺の首の側を通っていく。そして俺の木剣はヴィクトリアの脇腹に当たった。
「はい、これで2本目。どうした、もう後がないぞ。大人しく負けを認めてもいいのだぞ。」
「だれが! 次は絶対勝つ!!」
おーおー、これはかなり頭にきているな。だがそうなるだけ俺の思うつぼなんだが。
まあ、少し大人げない気がするのでアドバイスしてやることにする。
「お前の腕がたしかなのは認めるが、お前の剣は真っ直ぐすぎる。」
「真っ直ぐ…?」
「剣筋っていうのがわかっちまうんだよ。次はここに打ち込むって目で教えてくれんだ。だから俺には勝てない。」
「目で教える……、わかりましたわ。じゃあ、こうします。」
と言って何を思ったのかヴィクトリアは剣をかまえたまま目を閉じた。
「は? お前、馬鹿か。どうやって俺の攻撃見るんだ。」
「大丈夫です。はじめましょう。」
こいつは本当に面白い。
敵の前で目をつぶるとか勝負を投げているようにしか思えない。
さて、どうするか。そのまま正面から打ち込むのもいいがそれを狙っている可能性もあるな。
俺は正面からワザと殺気をヴィクトリアにぶつける。そうしてすぐに気配を殺して彼女の横に移動し木剣を振り下ろした。
カンッ!
おれは瞠目した。
振り下ろした俺の木剣をヴィクトリアは手首を返し下から木剣で受け止めてそのまま振り上げた。俺の手から木剣が離れて地面に落ちる、そしてヴィクトリアの木剣は俺の首にトンと当たった。
「……見事だ。」
「やったぁーーーー!!!!!!」
「俺はこの間食べた『オムライス』と『しゅわしゅわのスフレケーキ』が食べたかっただけなのに……。」
まさか、自分が負けるとは思わなかった。
飛び跳ねながら喜ぶ彼女を尻目に俺はため息をついた。
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