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19話 あ、俺、死んだ。 - 3回目 -(side:アレク)
しおりを挟む俺がどうにか難を逃れようとあれこれ考えている間に、速やかに準備が整えられて有無を言わせず公爵家の馬車へと押し込められた。
「なあ、ルイス。俺は別に一緒じゃなくてもいいだろう? 俺がヴィクトリア嬢から聞いた『乙女げえむ』の内容をここで話せば済む話だ。陛下とお前でだけで話し合えばいいじゃないか。何かあれば後からでも……。」
「あなたがリアから直接聞いたのだから、あなたから話した方が正確ですよ。……… たまには会ってさしあげなさい。」
「……チッ。」
これ以上言っても無駄だとわかっているから、城に着くまで黙ることにした。
で、城に着いたわけだが俺には一つ早急にやらなければならないことがある。
ヴィクトリアのことである。
ヴィクトリアが俺の家でメイドをしているというのは当然言っていない(言った瞬間殺される)。だから、ヴィクトリアには令嬢の姿でいてもらわなければならない。そのことを早く知らせなければ。
宰相には、騎士団によってからすぐに合流することを伝えて足早に執務室へと向かう、執務室へ入るとロイが書類を見ていた。
「あ、アレク~。今日は来るのが遅かったね。」
「すまん、お前と雑談している暇がない。急ぎこれを俺の屋敷にいる女に渡してほしい。いいか、渡したらすぐ帰って来い。その女に絶対、手は出すな。いいな!!」
そんなことを言いながら急ぎヴィクトリア宛てへ手紙を書く。封を閉じてロイへ渡した。
「いいか、渡したらすぐ帰ってこい!」
「へいへい。人使いが荒いなあ~。今度なんか奢ってよ。」
「わかったから早くいけ!」
その時、俺は急ぎすぎて大事な言葉を入れるのを忘れていた。
『君はいつも通り普通にしていろ』ではなく、『君は令嬢らしくいつも通り普通にしていろ』と書くべきだった。それに気づいたのは、夜、屋敷へ帰ってヴィクトリアを見た時だった。
それから宰相とすぐに合流し謁見室へと向かった。謁見室にはすでに陛下が王座に座っていた。
「陛下、急な謁見を許可していただき誠にありがとうございます。急を要するためここにおりますハワード副団長と参りました。」
「よい。余もお前に話があったのだ丁度良い。…… 久しいな、かわりはなかったか?」
「…私はこの通りかわりありません。陛下におかれましてはご健勝で何よりです。」
「……そうか、それはよかった。」
くそっ、だからここへ来るのは嫌だったんだよ! 隣でルイスのやつがなんだか生暖かい目で見てやがるし!
「さて、本日の火急の用件というのは昨日の卒業式後の舞踏会でのあの騒動についてでございます。」
「なるほど、余もその事について話を聞いてほしかったのだ。…しかし、おぬしの娘も豪胆よな婚約者の腹に一発入れるなど、ははっ、聞いたときは度肝を抜かれたぞ。」
「それにつきまして、ヴィクトリアは『前世持ち』になりました。」
「!? なんだと? それはまことか?」
「はい、正確にはあの騒動の折、『前世持ち』になったようです。婚約者のひどい仕打ちにどれほど娘が心を痛めた事か…… その混乱であのような行動をしてしまったようです。」
「それは仕方あるまいな。しかしあの伯母上の孫が『前世持ち』とはな。……で、話はこれだけではないだろう?」
「はっ、今回の騒動の元になっている、光の魔法が使える少女についてです。」
宰相のその言葉を聞いて、陛下は疲れたようにため息をついた。
「はぁ……。余もその事に頭を悩ませているのだ。」
そこで、俺はヴィクトリアから聞いた前世の話と『乙女げえむ』の内容を話した。
「では、なにか、今回の件はその『乙女げえむ』の話と同じことが起こったということか? しかし『逆ハーレム』などとそんな突飛な事を……。」
「しかし、ヴィクトリア嬢はすべてが同じではないと申しておりました。そして、前世の記憶を持つものが他にいるかもしれないと。」
「…なるほどな、それで合点がいったわ。実はなアルフレッドはどうやら何者かに操られていたらしいのだ。」
「「!?」」
陛下の言葉に驚いたが、それと同時に納得もした。昨日の行動はおよそアルフレッド殿下らしくなかったからだ。
「アルフレッドはあの光の魔法を使う少女と関わるようになってからの記憶が曖昧らしくてな。昨日のヴィクトリア嬢の婚約者に対する一撃を見て、我に返ったらしい。それから自らの所業を悔いて昨日からずっと部屋に籠っておる。…… 王妃がしばらく一人にしてあげて欲しいというので念のため護衛は置いているが… かなり憔悴しているらしいのだ。」
「しかし、王族は【魅了】の魔法を無効にする加護がかけられているはず。」
「それが問題なのだ、加護は確かにかけられていた。なのにアルフレッドや他の子息達までもおかしくなった。闇の魔法ならわかるが……、光の魔法を使う者で人の心を操るなど聞いたことがない。それで頭を悩ませていたのだ。」
確かに闇の魔法を使う者であったのなら人の心を操る魔法ことが出来る。高度な技術を要するが。しかし、光の魔法は心や体を癒すもの、人の心を操れるような魔法ではない。
ん? まてよ。
ヴィクトリアは『前世の記憶を持っている者がいるかも』と言っていた。その光の魔法を使う少女、つまり『クララ』だとは断定しなかった!
「陛下。もしかしたらですが、アルフレッド殿下を操っていたというのは光の魔法を使う少女― クララ嬢ではなく、クララ嬢に近しい者かあるいはクララ嬢の立場を利用している者では?」
「なんだと?」
「確かにアルフレッド殿下や他の者たちがおかしくなっていたのはクララ嬢が原因かもしれませんが『乙女げえむ』の内容を知っている何者かがその話の通りになるよう仕向けていたとは考えられませんか?」
「して、その者が誰なのかお前にはわかるのか?」
陛下はしばらく目を閉じて何かを考えていたがゆっくりと目を開け、俺に聞いてきた。
「今は断言できませんが、今回の件で都合がよくなる者がいるのでは?」
陛下には、もう答えが見えているはずだ。
「ふっ、ははは。この件はお前たちに任せる、本当は穏便に済ませたいがそれが出来ぬならやむなしだと思え。」
「「御意」」
「うむ、この件は最優先で進めよ。しかし、奴らに気取られるなよ。」
「「はっ」」
そして、しばらく話し合った後、謁見室を後にした。その頃には日が落ちかけ夜になるという時間になっていた。
「では、あなたの屋敷までご一緒させてください。」
満面の笑みで俺に話しかけてくるルイスから逃げられそうにない。
しかたない、手紙も書いたことだし何とかなるだろう。
そして、公爵家の馬車で俺の屋敷へと向かった。
屋敷へ着くころには既にあたりはすっかり暗闇に包まれていた。
馬車を降りると玄関先に立っている人物に目が行って、その瞬間、時が止まった。
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
メイド服をきたその人物はメイドのように頭を深く下げている。その髪の毛が肩先までしかない。
「お、お、おま、おおまぇええええ!ど、どうしてそうなったああああ!!!?」
あまりにもパニックに陥って自分がなにを叫んでいるのかもよくわからない。
「え? リアちゃ……… ん?」
隣から聞こえた声で我に返った。
あ、俺、死んだ。
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