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13話 その日の夜は悪夢を見た(side:アレク)

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今日はとんでもないことが多すぎて徹夜で勤務するより疲れたな。
そんなことを思いながらベッドへ横たわる。

本当なら何事もなく帰れる予定だった、それが狂い始めたのは同僚のロイに声をかけられてからだ。その時の話も信じられなかったがまあ所詮、他人事で面白半分に会ってみたいと思ったのがいけなかったのか。

その後、ロイと別れて廊下を歩いていると向かいから歩いてきた文官に声をかけられた。

「ハワード様、宰相閣下は騎士団にはおられませんか?」

「いや、来ていないが。さっき帰っていく所を見たと聞いたぞ。」

「はぁー、やはりそうでしたか。騎士団に行く用事があると午後おっしゃっていたのですが、まあ仕方ありませんね。」

「なにかあったのか?」

「いえ、たいしたことではないのですが…。宰相閣下が大切にされていたものなので早くお返ししようかと。」

と、シガレットケースを出してきた。銀色のその箱の表には少女の微笑んでいる姿が描かれていた。

「これは、ヴィクトリア嬢か?」

「そうです。閣下はとても大事そうに持ち歩いておりまして『これを見ると癒される』と眺めては微笑まれていますから。」

銀色の髪は光り輝いていて瞳の蒼は宝石のようだ。宰相が常日頃からブルーダイヤの瞳と例えるのも頷ける。

宰相とは幼少のころから交流があったが、娘の姿絵を見せるどころか会わせることさえしてくれなかった。




『あなたには絶対、会わせません。私のかわいい天使があなたの毒牙にかかるかもと思うと今すぐ切り殺してやりたくなります。』

と、すごく真面目な顔でかなり酷いことを言われた。
失敬な、俺は子供ガキに手を出すほど女には苦労していないぞ。と思ったがそれが顔に出ていたらしく。

『そういうところも、駄目なのですよ。ヴィクトリアは純粋無垢なのです。あなたみたいな爛れた恋愛しかできない男に万が一、億が一でもあの子が惚れてしまったら、私はあなたを大砲の中にぶち込んで打ち上げたくなります。』

『さっきより過激になっている!!?』




そんなやり取りが昔あって、それ以来は娘の話は宰相との間で禁句になっていた。
たしかに美人と言えるだろうがいかにも深窓のご令嬢って感じで俺の好みではないな。


そうして家に帰ろうと街中を歩いていたらあの騒動にばったりと行き当ってしまった。
チンピラの方はいかにも田舎から出てきた子悪党共でそいつらが絡んでいる少女はこちらに背を向けているが身なりからどこかの商家のお嬢様だろう。護衛や従者などがいないところを見るとはぐれたのか?

まあ、ここはとりあえず助けてやらないと。……と思っていたら、目の前で信じられない光景が繰り広げられた。
あの女の身で大男を投げ飛ばしたのだ、それからあっという間に他の2人をも倒した。そのあまりの鮮やかさに思わずみとれてしまっていた。

あの少女は何者かと見て驚愕した。つい先ほど、見たばかりのヴィクトリア嬢にそっくりだったのだ。

それから何故か俺を見た彼女がまた面白いやり方で目くらましをして俺から逃げ出そうとした。ますます彼女に興味が湧いた。
彼女を捕まえて家まで案内すると逃げても無駄だと思ったのか素直についてくる。

俺は内心、ほくそ笑んだ。
それからの彼女とのやり取りは驚きの連続だった。およそ令嬢らしからぬ言葉使いに炊事洗濯など簡単だと豪語したりと、本当にヴィクトリア本人なのかと疑った。だが、魔術などで他人になり替わるのはかなりの魔力が必要になるし、それにはそんな魔法は見破れる。

どういうことなのだ?
純粋にそう思って、脅しのつもりで剣を突き付けた。
最初は驚いたようだが、俺の問いに真っ直ぐ目を見て答えた彼女の瞳は嘘を言っているように見えなかった。

ヴィクトリアの話は正直言って半信半疑だ。いきなり『前世』とか『乙女げえむ』とか突拍子が無くて作り話かとも思ったが、それにしてはあんなにすらすら嘘がつけるように見えない。

とりあえず保留にして、これからじっくりと精査して行こう。
いろいろ気になる話も出てきたが今日はもうこれ以上は頭が働きそうにない。彼女も言葉にはしなかったがその表情で相当疲れているように見えたので休ませることにした。


明日は、まず宰相に会わないとな。

てか、俺、明日無事に生きられるかな………。

そんなことを思いつつ眠りについた。




その夜見た夢では、簀巻きにした俺を大砲の中へぶち込んだ宰相が満面の笑みを浮かべて導火線に火をつけていた。


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