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魔王誕生編

23話 後方彼氏面とは何だ?

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「僕に笑顔で話しかけてくれた事がきっかけだったんです。」


あの後、どうしてこういう事をしたのか聞きたいとミナが言い出したので、とりあえず近くの店に入って男の話を聞くことにした。

その男は、名前をダンと言って、まだ駆け出しの冒険者らしい。冒険者に必要な防具やアイテムを買おうと入った店で、その時にミナが店番をしていた。

「ぼ、僕は、こんな雰囲気なので、今まで女の子にあまり話しかけられたことがなかったんです。でもたまたま入った店でミナさんがこんな僕に気さくに話しかけてきてくれたのが嬉しくて…。」

ダンを改めて見ると、ボサボサの頭にやや長めの前髪で目を隠していてあまり人好きのするようなタイプの人間ではないように見える。

「それからは、ミナさんの事が頭から離れられなくなってしまって。その後もミナさんのお店に通っていたのですけど、なかなか会えなくて。そしたら偶然、街で歩いているミナさんを見かけたんです。最初は、声をかけようかと思ったんです!でも、勇気がわかなくて…。それで、その、話しかけるチャンスを伺っているうちに後を付けるような感じになってしまって。そしたら、今度はミナさんがどこへ行くのか、何を好きなのか、どのお店に通っているか知りたくなってしまって…。」

「それで後を付けますようになったのか。」

「はい…。」

「では、差出人不明のプレゼントもお前がやったのか?」

「はい。本当に出来心だったんです。僕が慕っているということを間接的にもミナさんに知って欲しくて…。今では馬鹿なことをしたと思っています。本当にすみませんでした。」

そう言って、ダンはミナに向かって深々と頭を下げた。

「あ、謝ってもらえたのでもういいです!今後は、こんな事は止めてほしいですけど。」

「もう、二度とやりません。」

ミナの言葉に、ダンは強く頷いた。

やれやれ、なんとか丸く収まってよかったとレオとノアが胸を撫で下ろしたのだが、先ほどから妙に黙りこくっていたアーノルドが不意に顔を上げてダンの方を見た。

「お前は間違っている。」

「あ、はい。それは分かっています。だから、反省して……。」

「違う、やり方を間違えていると言っているのだ。」

「「「「?」」」」

急に何を言いだすんだとその場にいる全員の視線がアーノルドへと集まる。

「偶然、街で見かけて追いかける気持ちもわかる。だが、何故、完璧に気配を消さない!!結果、気づかれて気持ち悪がられているではないか!俺なら完璧に気配を消し、影から見守ることができるぞ。
それにだ、プレゼントを渡すにもわざと己の承認欲求を満たすようなやり方をしおって!本当に好きなら自分と知らさずにそっと渡すものなのだ。お前は何も分かっていないな!!」

「は、はぁ……。」

アーノルドのあまりの剣幕にダンも気圧された

「いやいや、その方がもっとやばいんだって!!」

全員があっけとられていた中で、先に我に返ったミナが叫んだ。

「何がヤバいんだ?」

「ヤバいでしょ。だってそんな事されているって思ったら怖いもん。」

「だから、気づかさなければいいのだ。別に俺は悪い事はしていない。ただ、彼女の安全のために見張りを付けているだけなのだ。」

「こわっ、怖い!!…って、もしかしてそういう事をしている人が今いるの?」

「ああ。俺にとっての最優先事項は彼女が日々を安全に過ごせるようにすることだ。だからと言って別にその事を彼女に言う事も、知らせるつもりもない。俺はただ、遠くから彼女の幸せを願っているだけだ。」

「いや~、それっていわゆる後方彼氏面ってやつじゃん。」

ミナが呆れたように言った。

「コウホウカレシヅラとは何だ?」

「ん~。例えていうなら…。例えばあんたの好きな人が舞台女優だとします。そして彼女は女優になりたての新人だとしたら、あんたならどうする?」

もしレーナが舞台女優だったら、か。

「もちろん。興行主に掛け合って彼女には知らせぬよう口止めをしてから、主役に抜擢させる。それから公演の際は毎回行くだろうな、もちろん一ファンとして花も贈るし、そうだファンレターも書かなければ。それから……。」

「あー、もういい。後方彼氏面っていうのはそういう事。」

ミナは疲れたような顔をして俺の話を遮った。

「で?」

「で?って何よ。」

「だから、後方彼氏面の何が悪いのだ?」

俺の言葉に、他の連中は時が止まったように固まった。


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