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雨音
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全ては本当になかったことになってしまった。ニュースを見ると朝の一発目。身元不明の28才女性、マンションの屋上から自殺。
詳しくやる番組なんかでは、どうやら彼女の身体から異様な量の睡眠薬が検出され、薬物による副作用か何かで過って落ちたか、と。そこから睡眠薬についての特集が組まれて。
ホント、メディアは半分くらい嘘なんだなと思う。バカみたいで気分が悪い。思い出しても吐き気すら失せる。なんでもいいから仕事に行こうと、仕事場に向かった。
何も考えないようにして仕事場に向かったのに。行ってみると光也には怪訝な顔で見られるし、真里には、「どうしたんですか…」と心配された。
「ちょっと寝れなかったんだよー」
「あっそう」
「うん、あんた今すっげー凶悪犯みてぇな人相だよ」
とか笑って真里が言うのがわりと堪えたりして。
そんな中。
店の扉が叩かれた。そして、「警視庁捜査一課の伊藤と申します」と言われ、仕方なく開けた。
「はいはい」
「こちらに、柏原要さんはいらっしゃいますか?」
「俺ですけど、何か?」
随分調べるのが早いな。もうそこまで身バレしたのか。
「穂並静さんという方を、ご存知ですね?」
「…任意同行応じますよ。DNA鑑定でしょ?
言っときます。彼女の子宮にいたのは俺の子供で間違いないです。一課ってことは、俺は殺人疑惑かな。うん、どうせ全部話すんでしょ?家にも一度行こう?通院歴とかあるから」
後ろを振り返ると二人は、事の成り行きを見ている。
「ごめん、任せた」
それだけ言い残して俺は店を去った。もうここに戻るつもりはなかった。
なかったのに。
まずは無難なことから話初めて。
「どんな関係でした?」
「セフレってやつ」
最初は呆れたように聞いていたくせに、後半になったら同情しやがって。
警察に全てを話したらやはり、自殺で終わってしまった。そんなことない、詰めが甘いと胸ぐらを掴んで罵ってやった。
「だってそうだろ?俺が殺したんじゃねぇかよそんなの!違う?あんただったら、あんただったら、そう思わねぇか!?」
そんな風に取り乱してたら、いつの間に呼んだのか光也と真里が迎えに来て。
「あ、あぁ…」
思わず手を緩めたらそのまま店に連れて帰られた。どうやら今日は営業しないで俺を待っていたらしい。
ずっと何時間黙っていたかわからない。もしかしたら数分かもしれない。ふと光也がココアを目の前に置いてくれて、目の前で腕組んでじっと見てるから。
ふと顔をあげると真里とも目が合って。
「何があったんですか」
「…うん」
言わなくちゃならないんだろうけど。言葉が見つからない。俺はあまり自分の話をしてこなかったから。
「何から話したらいいかな」
「話たい順。聞く側は取り敢えずあとで勝手にまとめるから」
「うん…」
それから少しずつ、出会いから別れまでの、多分ほとんど全てを話した。驚くくらい冷静に、驚くくらい戸惑いながら。
「そっか」
二人はただ黙って聞いてくれた。そんなもんだったのかと、今まで何を、気を張っていたんだろうと思うほどに。
聞き終わった光也が、物凄く深い溜め息を吐いて乱暴にタバコを取り出して火をつけた。イライラしているようだ。
「俺はいま相当イライラしています」
「うん、見てわかる」
だけどなんでだろ、俺を見る目がなんか異様に優しいんだよ、お前らって。
「あんたにも自分らにも相当イライラする」
「え?」
「…なんで相談してくれなかったのかなって」
そういう光也はなんだか凄く悲しそうで。
「ごめん」
「謝んなよムカつくな」
そう言って泣きそうに笑う姿とか、ホント、なんかなんだろう。あのセフレヤンデレ女を思い出すようで。
「そんな顔すんなよ…」
真里が、やれやれと言うように溜め息を飲み込んで緩く微笑んだ。
「あんたら面倒臭いな。ホント。気持ちもわかんないや、俺には」
そう言う真里の拳が固く握られてるのを見て。
「マジ、ごめんなお前ら」
こんな俺でホント…。
「謝んなっつってんだろ!
もういいからそんなん!聞いてねぇよそんなの!
いいよ、謝んなくていいよやめろっつーの!あー気分悪いな、なんなんだよ!」
とか言ってついにちょっと泣き出しちゃったから。
「ありゃ、どうしよ…」
真里が慌て始めて。
「え、俺ちょっと初めて、なに、さっきの酒抜けてないんじゃないの?」
「抜けてない。慰めるなら俺じゃない」
「あ、うん。え、うん」
そう言えば光也が泣いたの、何年も一緒に仕事して初めて見た。
「てか泣くのお前じゃないだろ~、反則だよ~」
なんか見たらこっちも泣いちゃって。俺って泣くんだ。血も涙もないんじゃねぇかってちょっと思ってたんだけど、まだ人間だったんだと思ったら止まらなくなっちまって。
「うわ、厄介。めっちゃ厄介」
真里がメチャクチャ困ってて。「泣いてんじゃねぇクソじじい!」とか光也に言われて後半収拾がつかなくなった。
落ち着いた頃には、「もういいよ、今日は俺の家で飲もう」と真里に言われてそこからは三人で泥酔。次の日の朝には二日酔いで休業。
だけど夢では、なんか良い夢見た気がする。覚えてないし二日酔いだったけど。
全ては雨に流された。ひっそりと、紅く排水溝へ。
だけど忘れない。しばらくはちゃんと傷跡を残すから。
ごめんって言うと怒るからさ、もう言わないようにする。
ありがとう。おこがましいけどそれだけは一度言っておくから。まだ、見ててちょうだいね。
詳しくやる番組なんかでは、どうやら彼女の身体から異様な量の睡眠薬が検出され、薬物による副作用か何かで過って落ちたか、と。そこから睡眠薬についての特集が組まれて。
ホント、メディアは半分くらい嘘なんだなと思う。バカみたいで気分が悪い。思い出しても吐き気すら失せる。なんでもいいから仕事に行こうと、仕事場に向かった。
何も考えないようにして仕事場に向かったのに。行ってみると光也には怪訝な顔で見られるし、真里には、「どうしたんですか…」と心配された。
「ちょっと寝れなかったんだよー」
「あっそう」
「うん、あんた今すっげー凶悪犯みてぇな人相だよ」
とか笑って真里が言うのがわりと堪えたりして。
そんな中。
店の扉が叩かれた。そして、「警視庁捜査一課の伊藤と申します」と言われ、仕方なく開けた。
「はいはい」
「こちらに、柏原要さんはいらっしゃいますか?」
「俺ですけど、何か?」
随分調べるのが早いな。もうそこまで身バレしたのか。
「穂並静さんという方を、ご存知ですね?」
「…任意同行応じますよ。DNA鑑定でしょ?
言っときます。彼女の子宮にいたのは俺の子供で間違いないです。一課ってことは、俺は殺人疑惑かな。うん、どうせ全部話すんでしょ?家にも一度行こう?通院歴とかあるから」
後ろを振り返ると二人は、事の成り行きを見ている。
「ごめん、任せた」
それだけ言い残して俺は店を去った。もうここに戻るつもりはなかった。
なかったのに。
まずは無難なことから話初めて。
「どんな関係でした?」
「セフレってやつ」
最初は呆れたように聞いていたくせに、後半になったら同情しやがって。
警察に全てを話したらやはり、自殺で終わってしまった。そんなことない、詰めが甘いと胸ぐらを掴んで罵ってやった。
「だってそうだろ?俺が殺したんじゃねぇかよそんなの!違う?あんただったら、あんただったら、そう思わねぇか!?」
そんな風に取り乱してたら、いつの間に呼んだのか光也と真里が迎えに来て。
「あ、あぁ…」
思わず手を緩めたらそのまま店に連れて帰られた。どうやら今日は営業しないで俺を待っていたらしい。
ずっと何時間黙っていたかわからない。もしかしたら数分かもしれない。ふと光也がココアを目の前に置いてくれて、目の前で腕組んでじっと見てるから。
ふと顔をあげると真里とも目が合って。
「何があったんですか」
「…うん」
言わなくちゃならないんだろうけど。言葉が見つからない。俺はあまり自分の話をしてこなかったから。
「何から話したらいいかな」
「話たい順。聞く側は取り敢えずあとで勝手にまとめるから」
「うん…」
それから少しずつ、出会いから別れまでの、多分ほとんど全てを話した。驚くくらい冷静に、驚くくらい戸惑いながら。
「そっか」
二人はただ黙って聞いてくれた。そんなもんだったのかと、今まで何を、気を張っていたんだろうと思うほどに。
聞き終わった光也が、物凄く深い溜め息を吐いて乱暴にタバコを取り出して火をつけた。イライラしているようだ。
「俺はいま相当イライラしています」
「うん、見てわかる」
だけどなんでだろ、俺を見る目がなんか異様に優しいんだよ、お前らって。
「あんたにも自分らにも相当イライラする」
「え?」
「…なんで相談してくれなかったのかなって」
そういう光也はなんだか凄く悲しそうで。
「ごめん」
「謝んなよムカつくな」
そう言って泣きそうに笑う姿とか、ホント、なんかなんだろう。あのセフレヤンデレ女を思い出すようで。
「そんな顔すんなよ…」
真里が、やれやれと言うように溜め息を飲み込んで緩く微笑んだ。
「あんたら面倒臭いな。ホント。気持ちもわかんないや、俺には」
そう言う真里の拳が固く握られてるのを見て。
「マジ、ごめんなお前ら」
こんな俺でホント…。
「謝んなっつってんだろ!
もういいからそんなん!聞いてねぇよそんなの!
いいよ、謝んなくていいよやめろっつーの!あー気分悪いな、なんなんだよ!」
とか言ってついにちょっと泣き出しちゃったから。
「ありゃ、どうしよ…」
真里が慌て始めて。
「え、俺ちょっと初めて、なに、さっきの酒抜けてないんじゃないの?」
「抜けてない。慰めるなら俺じゃない」
「あ、うん。え、うん」
そう言えば光也が泣いたの、何年も一緒に仕事して初めて見た。
「てか泣くのお前じゃないだろ~、反則だよ~」
なんか見たらこっちも泣いちゃって。俺って泣くんだ。血も涙もないんじゃねぇかってちょっと思ってたんだけど、まだ人間だったんだと思ったら止まらなくなっちまって。
「うわ、厄介。めっちゃ厄介」
真里がメチャクチャ困ってて。「泣いてんじゃねぇクソじじい!」とか光也に言われて後半収拾がつかなくなった。
落ち着いた頃には、「もういいよ、今日は俺の家で飲もう」と真里に言われてそこからは三人で泥酔。次の日の朝には二日酔いで休業。
だけど夢では、なんか良い夢見た気がする。覚えてないし二日酔いだったけど。
全ては雨に流された。ひっそりと、紅く排水溝へ。
だけど忘れない。しばらくはちゃんと傷跡を残すから。
ごめんって言うと怒るからさ、もう言わないようにする。
ありがとう。おこがましいけどそれだけは一度言っておくから。まだ、見ててちょうだいね。
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