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二組は結構遅くまで居てくれた。帰る頃にはお互い少し話し合えるくらいになっていた。
近親者も返したしそろそろ閉めようかと話していた頃、店の扉が開き、ベルが鳴った。短髪で季節に似合わない長袖の黒いワンピースを着た女が入ってきた。
一応外の看板は、今日は近親者だけで盛り上がる予定だったので、Closeの置き看板が出ているが、明かりを灯している状態ではある。一般客も受け入れてないわけではない。
ので、まぁ、一般客第1号かなと思った。だがふと柏原さんはその人物を見て驚いた顔をした。
「静…」
どうやら、知り合いらしい。その女は一番端のカウンター席に座った。
確かに店を開いた当の本人の近親者なんて誰一人来ていないことに違和感はあった。よくよく考えたら柏原さんの家族や友達などの話を、いままで聞いたことがあっただろうか。
これは彼女だろうか。それにしては、この女、恐らく俺たちと同じくらいの年齢じゃないかな。なかなかやるなぁ。
「…まぁ、その…なんだ…?彼女かなぁ…」
「おおっ」
なんか歯切れが悪いなぁ。
「来てくれたんだね」
そう言う柏原さんは、なんだか仏のような顔というか、とても優しい顔をしていた。彼女はそれに頷く。
そんな二人を見て光也さんは、「ちょうど静かになった時でよかったね。二人水入らずでいたら?」と提案した。なんかこの二人訳あり感あるなぁ。
「…いや、大丈夫。折角来てくれたんだし。この二人悪いヤツじゃないから。
静、何飲みたい?」
「…紅茶」
「わかった。光也、アイスレモンティ出してあげて」
「はいはい。
おっさん同じの?」
「へ?」
「あとは俺らでやるよ。俺らもほら、うるせぇの付き合わせたから」
「…さんきゅ。俺アルコール欲しいなぁ」
「はいはい。したらハイボールくらいにしとくか?」
「おう」
そう言って光也さんは、アイスレモンティを彼女の前に出し、柏原さんにはハイボールを手渡した。
「賄い作っちまっていい?彼女さん嫌いなのあれば言ってね。店の看板消してくるよ」
然り気無く柏原さんに座るように促し、光也さんは看板を消しに行き、そのまま帰る支度を始めた。俺もそれにあやかる。
バックヤードで光也さんと二人になり、漸く一息吐いた。
「なんだかんだ、こんな緩いスタートでも気って張るもんだな。てかフレッドさん元気だな」
「あれは殺しても死なないよ。お宅のねぇさんも相変わらずだね。
仲直り出来てよかったな」
「まぁね」
ふと、客席をちらっと覗く。二人とも楽しそうだ。
「あれ…多分訳ありだよな」
「おっさんミステリアスだからなー」
取り敢えず二人で店に戻った。俺らを見た瞬間、柔らかかった彼女の表情は少し硬くなってしまった。
なかなかしぶとそうだな。
「じゃぁ、俺も着替えてくるかなー」
「えっ」
えっとか言ってしまった。いやその方がね、確かに柏原さん的にはいいんだろうけど…。
心配をよそに柏原さんは笑顔で光也さんに、「わりと彼女、気に入ってくれたみたいだから大丈夫」とすれ違い様に耳打ちしてバックヤードに消えてしまった。
マジかよ気まずい。明らかに俺ら警戒されてるけど。
「…さばの味噌煮が嫌いです」
それだけ言われてもなぁ…。
「俺もすげーあれ嫌い」
だけど光也さん案外普通に話してる。なんかここは任せようかな。俺引っ込んでようかなとか思ったらその思いを光也さんは汲み取ったのか視線が合い、頷かれたのでそれを合図に俺は厨房へ逃げた。
誰もいない店内だと会話が聞こえてくる。ちょこちょこ話していた。だがすぐに柏原さんは着替えてきて、厨房にきた。流石は俊足。
「すげぇな光也の順応能力。いつも思うけどさ」
「うん」
「静は…俺以外とあんま喋んねぇんだよ。まぁ喋る機会も最早自分で潰しちゃってんだけどさ。なのにちょっとだけど喋れてるもんな」
しみじみ言ってるけどだったら一緒にいてあげた方がいい気もするが、そういえば彼女の好き嫌いが唯一わかる人物はこの人だけでもある。本人もそう思ったらしく、手早く料理を始めた。
「似てるからかな」
「え?」
「静と光也。なんとなく感じ取ったのかもな」
「似てる…」
あんな特殊な人と似てるとか、どんなだよ。
「てかあとは根本的に光也って接客向きだよね、大根取って」
「まぁそれは確かに、はい大根」
「あと鳥もも。真里はあんま向かないよな。いや、向かなくはないけど、やっぱ厨房だよな」
「まぁそうですね。はいもも」
あらぁ、なんか笑顔で楽しそうにお話までしてる。あの女絶対取っ付きにくいだろうに。
「すげぇな。あとでちょっと接客術学ぼうかなマジで」
「いや柏原さんもわりかし凄いでしょ。つかあれ本当に彼女?」
「んー中間」
なんだそりゃ。そんなこの人遊び人だったか?
「それって?つまりは」
「多分想像してんのとは違う。まぁいいじゃんほら」
会話をしつつ賄い完成。鶏肉の生姜焼き。途中でなんとなく作るものわかったのでテキトーに手伝ってたらビンゴだった。
そして4人で食事。そのまま初日は終了した。
帰り際、駐車場で柏原さんに、「おつかれ、ありがとね」と言われ、やっと一日終わったのかと実感した。
近親者も返したしそろそろ閉めようかと話していた頃、店の扉が開き、ベルが鳴った。短髪で季節に似合わない長袖の黒いワンピースを着た女が入ってきた。
一応外の看板は、今日は近親者だけで盛り上がる予定だったので、Closeの置き看板が出ているが、明かりを灯している状態ではある。一般客も受け入れてないわけではない。
ので、まぁ、一般客第1号かなと思った。だがふと柏原さんはその人物を見て驚いた顔をした。
「静…」
どうやら、知り合いらしい。その女は一番端のカウンター席に座った。
確かに店を開いた当の本人の近親者なんて誰一人来ていないことに違和感はあった。よくよく考えたら柏原さんの家族や友達などの話を、いままで聞いたことがあっただろうか。
これは彼女だろうか。それにしては、この女、恐らく俺たちと同じくらいの年齢じゃないかな。なかなかやるなぁ。
「…まぁ、その…なんだ…?彼女かなぁ…」
「おおっ」
なんか歯切れが悪いなぁ。
「来てくれたんだね」
そう言う柏原さんは、なんだか仏のような顔というか、とても優しい顔をしていた。彼女はそれに頷く。
そんな二人を見て光也さんは、「ちょうど静かになった時でよかったね。二人水入らずでいたら?」と提案した。なんかこの二人訳あり感あるなぁ。
「…いや、大丈夫。折角来てくれたんだし。この二人悪いヤツじゃないから。
静、何飲みたい?」
「…紅茶」
「わかった。光也、アイスレモンティ出してあげて」
「はいはい。
おっさん同じの?」
「へ?」
「あとは俺らでやるよ。俺らもほら、うるせぇの付き合わせたから」
「…さんきゅ。俺アルコール欲しいなぁ」
「はいはい。したらハイボールくらいにしとくか?」
「おう」
そう言って光也さんは、アイスレモンティを彼女の前に出し、柏原さんにはハイボールを手渡した。
「賄い作っちまっていい?彼女さん嫌いなのあれば言ってね。店の看板消してくるよ」
然り気無く柏原さんに座るように促し、光也さんは看板を消しに行き、そのまま帰る支度を始めた。俺もそれにあやかる。
バックヤードで光也さんと二人になり、漸く一息吐いた。
「なんだかんだ、こんな緩いスタートでも気って張るもんだな。てかフレッドさん元気だな」
「あれは殺しても死なないよ。お宅のねぇさんも相変わらずだね。
仲直り出来てよかったな」
「まぁね」
ふと、客席をちらっと覗く。二人とも楽しそうだ。
「あれ…多分訳ありだよな」
「おっさんミステリアスだからなー」
取り敢えず二人で店に戻った。俺らを見た瞬間、柔らかかった彼女の表情は少し硬くなってしまった。
なかなかしぶとそうだな。
「じゃぁ、俺も着替えてくるかなー」
「えっ」
えっとか言ってしまった。いやその方がね、確かに柏原さん的にはいいんだろうけど…。
心配をよそに柏原さんは笑顔で光也さんに、「わりと彼女、気に入ってくれたみたいだから大丈夫」とすれ違い様に耳打ちしてバックヤードに消えてしまった。
マジかよ気まずい。明らかに俺ら警戒されてるけど。
「…さばの味噌煮が嫌いです」
それだけ言われてもなぁ…。
「俺もすげーあれ嫌い」
だけど光也さん案外普通に話してる。なんかここは任せようかな。俺引っ込んでようかなとか思ったらその思いを光也さんは汲み取ったのか視線が合い、頷かれたのでそれを合図に俺は厨房へ逃げた。
誰もいない店内だと会話が聞こえてくる。ちょこちょこ話していた。だがすぐに柏原さんは着替えてきて、厨房にきた。流石は俊足。
「すげぇな光也の順応能力。いつも思うけどさ」
「うん」
「静は…俺以外とあんま喋んねぇんだよ。まぁ喋る機会も最早自分で潰しちゃってんだけどさ。なのにちょっとだけど喋れてるもんな」
しみじみ言ってるけどだったら一緒にいてあげた方がいい気もするが、そういえば彼女の好き嫌いが唯一わかる人物はこの人だけでもある。本人もそう思ったらしく、手早く料理を始めた。
「似てるからかな」
「え?」
「静と光也。なんとなく感じ取ったのかもな」
「似てる…」
あんな特殊な人と似てるとか、どんなだよ。
「てかあとは根本的に光也って接客向きだよね、大根取って」
「まぁそれは確かに、はい大根」
「あと鳥もも。真里はあんま向かないよな。いや、向かなくはないけど、やっぱ厨房だよな」
「まぁそうですね。はいもも」
あらぁ、なんか笑顔で楽しそうにお話までしてる。あの女絶対取っ付きにくいだろうに。
「すげぇな。あとでちょっと接客術学ぼうかなマジで」
「いや柏原さんもわりかし凄いでしょ。つかあれ本当に彼女?」
「んー中間」
なんだそりゃ。そんなこの人遊び人だったか?
「それって?つまりは」
「多分想像してんのとは違う。まぁいいじゃんほら」
会話をしつつ賄い完成。鶏肉の生姜焼き。途中でなんとなく作るものわかったのでテキトーに手伝ってたらビンゴだった。
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