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三段目
簪の段 二
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「ヒスイですか」
背後で、聞き馴染みの声がし、権平ははっとし振り向いた。
真庭が、商売笑顔を称えている。
…確かに佐助は先程、真庭に話すと言っていたな…。事情を付け足してしまった、やはり慣れないことはするべきでは、なかった。
真庭の側に付いている佐助がどうもおどおどとし、「ウチの職人が御無礼を」と強調したのにで、素直に簪を真庭に渡す。
ふっふと、佐助が店の方へ促したので、権平は頭を下げその場を辞した。
…しかし何故、店なんだ?
だが、下手げな事は一度止めておこう。
作業場に戻る前に店を覗けば、まだ花が立っている。
裏口で目が合いまず、「流と変わらなかったのか?」と聞く。
客もいないしと、俯いた花の隣に座ると、「今日は何も買わずにあの簪を渡されまして…」と…なるほど…。
先程現れた真庭の雰囲気は良い物ではなかった、恐らく自分の役目は花から「横流しについて聞き出す」なんだろう。
確かに、あちらに知れては気分が良くない話だったはずだ。
「この後店主に呼ばれています…」
…それはつまり、折檻があるな。
ここはそもそも、質屋だ。ただ、簪については現在…今の所良い方で動いているようだが商談中で値が付けられない。
貸した金でもない品。店としてもどうしていいか決め兼ねている。今の所…「ツケ」が妥当かもしれないが、それは真庭の性分的に、面白くないはずだ。
「…店主には、客について聞かれたんか?」
「いえ…。血相を変えて裏口へ…」
「…あんたはただ、簪を貰っただけ…なんやけどね。
どんな男やった?」
「武家だとは聞きましたが…背が高めで…髷が少し解れているというか…。帯も斜めの」
「履物は」
「雪駄です」
…店にすら残る僅かな香は最早、種類が交じり合っている
どう聞いても、そしてこの香りでも分かる、遊び人だ。ここを通ればわかるだろう。随分と品のない客が来たことくらい。
「役者のみたいな風貌か?」
「そんなような…」
「今日はわてが変わりましょ」
「えっ」
「…今日は裏で静かに作業をしていなはれ。流もおるし…昨日も夕刻あたりやったか…流と話しをして、時間を変えるとええ。店主にはわてから言うときますわ」
「…流さんは」
「ん?」
「…装身具屋さんの婿になるのでしょうか」
「…はい?」
…幼い頃から二人とも篭っているせいか、少し世間が狭い。今は自分のことを考えた方がいいのだろうが…。
「それはない。あそこにはもう、婿さんがいる」
「…えっ!」
「お喋りはここまで。まだ言うてはなりまへんえ。下がってなさい」
そう言ってやることしか出来ない。
仕方がない。話さなくとも、花の気持ちも流の気持ちも重々にわかる。
乙女の気持ちばかりは止められないものだ。
しかし、自然なこと。そもそも花はここへ嫁入り道具を持ち丁稚に来た。何も不自然ではないのだ。
彼女はただ、真っ直ぐな道しか知らなかった。ただそれだけで酷い目に合わされるのは筋違いだ。
その頃の権平にはまだ、それくらいの情熱があったのだ。
それはひとえに、二人の若者に感化されたのがある。
だからこそ、どうにもならない不条理など、考える暇がなかった。今思えばその時が一番、純真であり何より…楽しかった、そう懐古する。
背後で、聞き馴染みの声がし、権平ははっとし振り向いた。
真庭が、商売笑顔を称えている。
…確かに佐助は先程、真庭に話すと言っていたな…。事情を付け足してしまった、やはり慣れないことはするべきでは、なかった。
真庭の側に付いている佐助がどうもおどおどとし、「ウチの職人が御無礼を」と強調したのにで、素直に簪を真庭に渡す。
ふっふと、佐助が店の方へ促したので、権平は頭を下げその場を辞した。
…しかし何故、店なんだ?
だが、下手げな事は一度止めておこう。
作業場に戻る前に店を覗けば、まだ花が立っている。
裏口で目が合いまず、「流と変わらなかったのか?」と聞く。
客もいないしと、俯いた花の隣に座ると、「今日は何も買わずにあの簪を渡されまして…」と…なるほど…。
先程現れた真庭の雰囲気は良い物ではなかった、恐らく自分の役目は花から「横流しについて聞き出す」なんだろう。
確かに、あちらに知れては気分が良くない話だったはずだ。
「この後店主に呼ばれています…」
…それはつまり、折檻があるな。
ここはそもそも、質屋だ。ただ、簪については現在…今の所良い方で動いているようだが商談中で値が付けられない。
貸した金でもない品。店としてもどうしていいか決め兼ねている。今の所…「ツケ」が妥当かもしれないが、それは真庭の性分的に、面白くないはずだ。
「…店主には、客について聞かれたんか?」
「いえ…。血相を変えて裏口へ…」
「…あんたはただ、簪を貰っただけ…なんやけどね。
どんな男やった?」
「武家だとは聞きましたが…背が高めで…髷が少し解れているというか…。帯も斜めの」
「履物は」
「雪駄です」
…店にすら残る僅かな香は最早、種類が交じり合っている
どう聞いても、そしてこの香りでも分かる、遊び人だ。ここを通ればわかるだろう。随分と品のない客が来たことくらい。
「役者のみたいな風貌か?」
「そんなような…」
「今日はわてが変わりましょ」
「えっ」
「…今日は裏で静かに作業をしていなはれ。流もおるし…昨日も夕刻あたりやったか…流と話しをして、時間を変えるとええ。店主にはわてから言うときますわ」
「…流さんは」
「ん?」
「…装身具屋さんの婿になるのでしょうか」
「…はい?」
…幼い頃から二人とも篭っているせいか、少し世間が狭い。今は自分のことを考えた方がいいのだろうが…。
「それはない。あそこにはもう、婿さんがいる」
「…えっ!」
「お喋りはここまで。まだ言うてはなりまへんえ。下がってなさい」
そう言ってやることしか出来ない。
仕方がない。話さなくとも、花の気持ちも流の気持ちも重々にわかる。
乙女の気持ちばかりは止められないものだ。
しかし、自然なこと。そもそも花はここへ嫁入り道具を持ち丁稚に来た。何も不自然ではないのだ。
彼女はただ、真っ直ぐな道しか知らなかった。ただそれだけで酷い目に合わされるのは筋違いだ。
その頃の権平にはまだ、それくらいの情熱があったのだ。
それはひとえに、二人の若者に感化されたのがある。
だからこそ、どうにもならない不条理など、考える暇がなかった。今思えばその時が一番、純真であり何より…楽しかった、そう懐古する。
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