うたかたに燃ゆ

二色燕𠀋

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二段目

店子の段 一

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 番頭は佐助が務めているが、稀に佐助の休暇として、権平が番台に立つこともあった。

 向かいの長屋には茶屋と飲み屋。茶屋の側には歌舞伎小屋があり、賑わいあれど治安の問題が付きまわる。

 佐助は厄介な客のあしらい、腕っ節も慣れている。
 権平も成人だ、それらに対し問題はないのだが、元来は職人気質な男故、金の問題ならば覚えはあるものの、如何せん愛嬌がある方ではなく、接客に向いていなかった。

 必ずしも愛嬌を要する訳ではないが、それ故に佐助の休暇はあまりない。
 質屋の建設当初からそうして店をまわしていたが、花と流がそれなりの年頃なれば、佐助や権平でなくとも番台の交代が効くように成っていった。

 花と流の長所として、二人とも職人であるから、佐助よりも質草の値段に敏感であること、それと何より、年頃の若者故、華があった。

 若さは長所にもなるが短所にもなる。

 花に至っては人当たりが良く可愛らしい、“看板娘”という認識にも成っていったが、「あれ、お花ちゃんはいないんかい?」と、用もない男が覗きに来ることも増えた。

「見世物小屋は向かいだってぇのに…」

 「お花ちゃん、大丈夫だったかい」は、昼休み明けの佐助の定型文になっていった。

「まぁまぁ、その分あんさんが資材を豊かにしてくれとる、職人としては有難い話や」
「ゴンさんは良い職人だよホントに…」

 花と流が番台に立つ機会が増え不安も多々あったが、その分佐助の手も空き休暇の他、資材調達にも手がまわり前より上等な品を設えることが出来るようになった。
 それにより問屋の知り合いや卸先も増え、店は良くなっていった。

 今思えばこの頃が、店の全盛期だったと言えよう。
 
 流が元々大変整った顔立ちだったのだと気付いたのは、そうして番台に座ること、つまりは流が“表面”を覚えてからだった。

 実は、これに一番手を焼いた。

 歌舞伎役者、というより女子のような面構え。事実、声を聞いてやっと、という客もよくいた。
 見た目通り、穏やかな雰囲気で男女問わず“人気”はあったのだが、大体を作業小屋で過ごしてきたため色白で線も細い。腕っぷしが良さそうにも見えない。

 質草の値段はわかるのだが、売り買いの仕組みはわからぬままに職人をしている。
 客が来るまで番台で商品を直していたりとしていて、勘定を間違えたりすることがあり、その度に佐助が真っ青な顔をしていた。

 大抵は面でどうにかやり過ごしていると権平には見えていたし、その通りだった。

 客の質は良くなってきたが、付近の治安が変わる訳では無い。
 客に値切り交渉を挑まれたり難癖を付けられることは花にもあったが流にもあった。

 流は男だ、「流、大丈夫かい…」と佐助が聞く意味合いが花とは違う。
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