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「…て言うたらあんたはどないすんの?」
「…どうにも、」
「そうやんなぁ、こんな店やし、当たり前よなぁ」
「…そやねぇ」
「あんさんはまぁない言うことか」
「…なしてわかります?」
「寝たやつは聞かんやろ、聞くなら殺しに来るやつやろ、これに毒でも入れたか?」
「いや、」
「どないしたいん?何が不満や?」
やはりこの少年は血迷っている、いや、本当はごく当たり前のことかもしれない。だから、傷付いていくんだろうなと美鶴は考える。
「…止めといた方がええけどなぁ。大抵は店のもんやし、ないわ。
あれは相当の変態や聞いたで、昔、朱里に」
「…そうなんですか」
「独占欲強すぎて敵わんわと言いつつ、あれは店でも登り詰めるくらいに気は強かったねぇ」
「…そうですか…」
少年に店のことを教えてくれたその男娼は、気は強いが凄く優しかったと翡翠も思い出す。そう、相当に気は強かったが。
「…なんでなぁ、」
急に純粋に泣きそうな表情へ変わる。
なんで死んでしもたんやろかと言いたいことが空気でわかる。まだまだ、この少年は何も教わっていなかっただろうに。
「…朱里はまぁ、ええねん。あんた情緒大丈夫か、ホンマに」
「いや見ての通りボロ雑巾や…」
「せやなぁ、まぁおいでぇな」
側に寄れと少年に手招きするのだが、目に見えて身構えたので「逸物は咥えんでええで」と先手を打つ、それはそれでポカンとするのだから仕方ない。
少年の緩く締めただけの芯があり繊細な髪をほどき、頭をポンポンする心境など、まるで親戚の子供でしかないのに、この子は髪質のように非常に難儀な性格だと、髪を鋤いてやりながら美鶴は思う。
複雑に絡んでなどはいない、ただ、髪止めをすり抜けるから少々面倒なんだろう。
「あんさん今ホンマに不細工やで翡翠」
「へい…」
「なぁ、体温いうんはなんであるかわかるか」
「…なんや、京者みたいやなぁ」
「ここは京やからな。なんやあんさん京者と違うんか?」
「…和泉の」
そうか、以前、「和泉の刑場で拾ってきたんだよ」とふいに漏らした藤嶋を思い出し、「あぁね…」と言葉を濁す。
この子は、だから自分の物に対して執着がないのかもしれない。それは心は強いのかもしれないが、それ故に欲をも捨ててしまうかもしれないな。なんて純粋なんだかと、自分とは違う生き方を見つける。
不安なことだ。
「翡翠、それは生きてる言うことやで」
「…なんやホンマに京者みたいやぁ。翡翠は馬なんでわからへんよぅ、」
「また悪口かいな。ええよ便所に捨てとけや」
「それ悪口やん」
「違うわこのブス。あんさんなんか足りひんよなぁ」
生きている音を聞かせてみようかと、少年の耳を少し強引に胸に押しあててみる。男は女より、これが近く聴こえるだろうと、「ホンマにヘタクソやねぇ…」と染々する。
髪を緩めに大きく折るように、結ってやる。
「あの男も歪んどるが、あんたも感受性豊かすぎてヘタクソや。まぁ、ええんやけど。どうしても愛せないもんかねお前らは」
「…美鶴兄さん、あん人と寝てないね?」
なんで、静かに泣くのかを考えてみなさいよ。
「気になるんなら聞いてきなさいな。まぁ、わかるか、んなもんは。あんさん案外かわええな」
「するぅ?」
「黙れブス。そんな易くないで。まずは自分を愛せなわからん」
「なんやそれお坊さんみたいや~…」
「絞め殺すぞクソガキ」
あはは、と漸く笑えた子供にあぁ、なるほど朱里、ええもんみっけたなと、美鶴は思う。
あの男が何を怖がっているか、漸くわかったような気もした。
取り敢えず可愛らしいが顔が不細工になると、「拭きや」と、袖で涙を拭ってやった。愛だの恋だのここにあるのは確かに、偽りでなければ息苦しかろうと、我ながら坊主のようだと美鶴は噛み締めた。
「少しは肩の力を抜きなさいな。
そうや、忘八に伝えといてぇな。壊せるのなら守れるやろ、と」
「…あい。了解しました」
美鶴は少年に笑い掛けて見送る。
「…どうにも、」
「そうやんなぁ、こんな店やし、当たり前よなぁ」
「…そやねぇ」
「あんさんはまぁない言うことか」
「…なしてわかります?」
「寝たやつは聞かんやろ、聞くなら殺しに来るやつやろ、これに毒でも入れたか?」
「いや、」
「どないしたいん?何が不満や?」
やはりこの少年は血迷っている、いや、本当はごく当たり前のことかもしれない。だから、傷付いていくんだろうなと美鶴は考える。
「…止めといた方がええけどなぁ。大抵は店のもんやし、ないわ。
あれは相当の変態や聞いたで、昔、朱里に」
「…そうなんですか」
「独占欲強すぎて敵わんわと言いつつ、あれは店でも登り詰めるくらいに気は強かったねぇ」
「…そうですか…」
少年に店のことを教えてくれたその男娼は、気は強いが凄く優しかったと翡翠も思い出す。そう、相当に気は強かったが。
「…なんでなぁ、」
急に純粋に泣きそうな表情へ変わる。
なんで死んでしもたんやろかと言いたいことが空気でわかる。まだまだ、この少年は何も教わっていなかっただろうに。
「…朱里はまぁ、ええねん。あんた情緒大丈夫か、ホンマに」
「いや見ての通りボロ雑巾や…」
「せやなぁ、まぁおいでぇな」
側に寄れと少年に手招きするのだが、目に見えて身構えたので「逸物は咥えんでええで」と先手を打つ、それはそれでポカンとするのだから仕方ない。
少年の緩く締めただけの芯があり繊細な髪をほどき、頭をポンポンする心境など、まるで親戚の子供でしかないのに、この子は髪質のように非常に難儀な性格だと、髪を鋤いてやりながら美鶴は思う。
複雑に絡んでなどはいない、ただ、髪止めをすり抜けるから少々面倒なんだろう。
「あんさん今ホンマに不細工やで翡翠」
「へい…」
「なぁ、体温いうんはなんであるかわかるか」
「…なんや、京者みたいやなぁ」
「ここは京やからな。なんやあんさん京者と違うんか?」
「…和泉の」
そうか、以前、「和泉の刑場で拾ってきたんだよ」とふいに漏らした藤嶋を思い出し、「あぁね…」と言葉を濁す。
この子は、だから自分の物に対して執着がないのかもしれない。それは心は強いのかもしれないが、それ故に欲をも捨ててしまうかもしれないな。なんて純粋なんだかと、自分とは違う生き方を見つける。
不安なことだ。
「翡翠、それは生きてる言うことやで」
「…なんやホンマに京者みたいやぁ。翡翠は馬なんでわからへんよぅ、」
「また悪口かいな。ええよ便所に捨てとけや」
「それ悪口やん」
「違うわこのブス。あんさんなんか足りひんよなぁ」
生きている音を聞かせてみようかと、少年の耳を少し強引に胸に押しあててみる。男は女より、これが近く聴こえるだろうと、「ホンマにヘタクソやねぇ…」と染々する。
髪を緩めに大きく折るように、結ってやる。
「あの男も歪んどるが、あんたも感受性豊かすぎてヘタクソや。まぁ、ええんやけど。どうしても愛せないもんかねお前らは」
「…美鶴兄さん、あん人と寝てないね?」
なんで、静かに泣くのかを考えてみなさいよ。
「気になるんなら聞いてきなさいな。まぁ、わかるか、んなもんは。あんさん案外かわええな」
「するぅ?」
「黙れブス。そんな易くないで。まずは自分を愛せなわからん」
「なんやそれお坊さんみたいや~…」
「絞め殺すぞクソガキ」
あはは、と漸く笑えた子供にあぁ、なるほど朱里、ええもんみっけたなと、美鶴は思う。
あの男が何を怖がっているか、漸くわかったような気もした。
取り敢えず可愛らしいが顔が不細工になると、「拭きや」と、袖で涙を拭ってやった。愛だの恋だのここにあるのは確かに、偽りでなければ息苦しかろうと、我ながら坊主のようだと美鶴は噛み締めた。
「少しは肩の力を抜きなさいな。
そうや、忘八に伝えといてぇな。壊せるのなら守れるやろ、と」
「…あい。了解しました」
美鶴は少年に笑い掛けて見送る。
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