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自分でも、何故“りっちゃん”が気になるのか、ここまで来れば性欲以上の何か別の本能なんではないかとすら感じ始めていた。
自分の快情動に違和感を持ったのは多分、大分前で。
月齢4、四日月の夕月頃、十五夜はまだ、時間も早く雨が降りそうな…これも雨月と言うのだろうか。
ハプバーはボチボチな込み具合。
「あら、久しぶりじゃないアキヒコ」
ハナさんは入口付近に寄ってきた。
なるほど、普段それほど現れないハナさんもいて、見ない顔もわりといる。確かにそうか、こんな時が一番いいのかもしれない。
ハナさんは俺をあまり奥へ踏み入れさせたくないのかもしれない、なんて少し感じた。
「珍し。今日はそんな気分なの?」
座るように促してくれて自然と「あんた何飲む?あたしギムレットで」と、まだ間もないのに相当はっ飛ばすなと圧倒されそうだったけど。
「…ハイボールで。お久しぶりですハナさん」
「ついにコッチ来るの?あたしに抱かれる気になった?」
…はっ飛ばすなぁ。
もしや冷やかしだと思われていたりして、と思ったのだが、ここは何も否定をしない場所。
男同士で気を遣わないで済む分、もしかすると普段より…楽、かも。
「どっちもいいね、ハナさんなら。タカシさんは頂いちゃったけど」
「まー生意気っ!ははっ、あんたも漸く一歩ね。
ねぇ、聞いたんだけどさ」
ハナさんはがっつり俺の肩に腕をまわし「あんた今大変らしいじゃない」と、身構えていなかった話題で一瞬、真っ白になりそうだった。
ギムレットとハイボールが置かれる。
「え」
「阿保がバレて家なき子って聞いたけど」
「あぁ…。
いや、家出たかったから丁度良いには丁度良く…。金を使う理由も一個増えてラッキー、くらいな」
「流石ねあんた。あっそう、そんなに深刻じゃないのね。なーんだ」
いや、母親がやべぇ宗教に溺れてると、ハナさんは本当は知っているはず…話した気がする、何かで。
だから気が楽なのかもしれないけど。
「親父がね。もー出てけって膳立ててくれるのは有り難いんすけどね。共通の敵みたいになったのが苦しいって道徳も、なんか、どーでもよくなってきた頃かな、正直」
「あら、やっぱりちょっと良い男になったじゃない」
「なら、有り難いことですよ」
「まーウチは親父がクソ野郎だったからねぇ、有り難いには変わりないわね」
ハナさんがタバコに火を点け、それを俺に咥えさせてくる。
その視線の先、カウンター奥の席に人影があるのに気付いた。
「はぁ、うんありがと………」
「ま、楽しみなさいよたまには。金は使うに限るわよ」
そうやってさらっと去って行くのも正直有り難かった。
今日という日はもう後半だけど、良いことがある気がする。そんな気持ちに「もしかして」が高揚と混ざった。
全然確信要素ではないから、ただの野性的な直感のざわめきでしかないけど。
マスターと目が合えばふい、とそちらを合図するのだからやはり、と、ほぼ確信に変わった。
来たのか、やっぱり。ハナさんいるし。
反射、思わず、といった感覚だった。
ハイボールを持って席を立つ。L字の向こう側。
近付いて行っても「え?そうなのか、えっ!?」という謎のテンションでしかない、なんせ前回は遠目だ。なのに。
「こんばんは」
俺は彼に声を掛けていた。
ぼんやり見上げた彼ははっとし、間があってから目を反らす。
多分そうだ、だが気のせいか、ちょっと大人っぽく見える気が……。
いや、カットシャツにカーディガンとか、大学生スタイルじゃん。
「こんばんは」と呟いた彼に、来たなと高揚した俺は「隣良いかな?」なんて聞いていた。
「どうぞ」
あ、これはヤバイね。まるで温度も興味もねぇ声色。
隣に座って「はじめまして」と、初対面を自覚し血液が下がる。
しかし……冷静になれば彼はかなり浮いているように感じた。
「……大学生?」
そして自分から出てきた質問がアホみたいに単純だった。
「…はい。そうですけど。
貴方も?」
特に変わり映えもなく聞いてくるのに、うわぁすっげぇ無しじゃね?と過りつつ「うん、そう」と普通を取り繕って…。
…てゆうか。
普通に喋ってっけど、俺。てゆうかなんだ、近くで見たら何っ。
めっちゃタイプなんですけど。
口が乾きそうだとハイボールを一口飲む。
相手も一口飲み物を飲み、「ハイボール?」と普通に聞いてきた。
えっ。この子、慣れてない雰囲気なんじゃなかったの?それとも今の雰囲気にリラックスしてるの?
いや、待て。これは普通以下の当たり前な空気会話ですけど。
「うん。君は?」
「…ウォッカトニック」
うわぁ。
飛ばすなぁ、おい。マジか何この……大人しそうな顔した肉食は。
ヤバい、キュンときた。
「ウォッカトニック?…飛ばすねぇ…」
「…そうですか?」
「うん…多分俺飲んだことない」
「…え、いくつです?」
疑心の目。
あ、訂正しとかなきゃ。
「二十歳です」
「え、そうなんだ。もう少し上に見えた」
ん、あれ?
あっさり、手応えがわからない…。
自分の快情動に違和感を持ったのは多分、大分前で。
月齢4、四日月の夕月頃、十五夜はまだ、時間も早く雨が降りそうな…これも雨月と言うのだろうか。
ハプバーはボチボチな込み具合。
「あら、久しぶりじゃないアキヒコ」
ハナさんは入口付近に寄ってきた。
なるほど、普段それほど現れないハナさんもいて、見ない顔もわりといる。確かにそうか、こんな時が一番いいのかもしれない。
ハナさんは俺をあまり奥へ踏み入れさせたくないのかもしれない、なんて少し感じた。
「珍し。今日はそんな気分なの?」
座るように促してくれて自然と「あんた何飲む?あたしギムレットで」と、まだ間もないのに相当はっ飛ばすなと圧倒されそうだったけど。
「…ハイボールで。お久しぶりですハナさん」
「ついにコッチ来るの?あたしに抱かれる気になった?」
…はっ飛ばすなぁ。
もしや冷やかしだと思われていたりして、と思ったのだが、ここは何も否定をしない場所。
男同士で気を遣わないで済む分、もしかすると普段より…楽、かも。
「どっちもいいね、ハナさんなら。タカシさんは頂いちゃったけど」
「まー生意気っ!ははっ、あんたも漸く一歩ね。
ねぇ、聞いたんだけどさ」
ハナさんはがっつり俺の肩に腕をまわし「あんた今大変らしいじゃない」と、身構えていなかった話題で一瞬、真っ白になりそうだった。
ギムレットとハイボールが置かれる。
「え」
「阿保がバレて家なき子って聞いたけど」
「あぁ…。
いや、家出たかったから丁度良いには丁度良く…。金を使う理由も一個増えてラッキー、くらいな」
「流石ねあんた。あっそう、そんなに深刻じゃないのね。なーんだ」
いや、母親がやべぇ宗教に溺れてると、ハナさんは本当は知っているはず…話した気がする、何かで。
だから気が楽なのかもしれないけど。
「親父がね。もー出てけって膳立ててくれるのは有り難いんすけどね。共通の敵みたいになったのが苦しいって道徳も、なんか、どーでもよくなってきた頃かな、正直」
「あら、やっぱりちょっと良い男になったじゃない」
「なら、有り難いことですよ」
「まーウチは親父がクソ野郎だったからねぇ、有り難いには変わりないわね」
ハナさんがタバコに火を点け、それを俺に咥えさせてくる。
その視線の先、カウンター奥の席に人影があるのに気付いた。
「はぁ、うんありがと………」
「ま、楽しみなさいよたまには。金は使うに限るわよ」
そうやってさらっと去って行くのも正直有り難かった。
今日という日はもう後半だけど、良いことがある気がする。そんな気持ちに「もしかして」が高揚と混ざった。
全然確信要素ではないから、ただの野性的な直感のざわめきでしかないけど。
マスターと目が合えばふい、とそちらを合図するのだからやはり、と、ほぼ確信に変わった。
来たのか、やっぱり。ハナさんいるし。
反射、思わず、といった感覚だった。
ハイボールを持って席を立つ。L字の向こう側。
近付いて行っても「え?そうなのか、えっ!?」という謎のテンションでしかない、なんせ前回は遠目だ。なのに。
「こんばんは」
俺は彼に声を掛けていた。
ぼんやり見上げた彼ははっとし、間があってから目を反らす。
多分そうだ、だが気のせいか、ちょっと大人っぽく見える気が……。
いや、カットシャツにカーディガンとか、大学生スタイルじゃん。
「こんばんは」と呟いた彼に、来たなと高揚した俺は「隣良いかな?」なんて聞いていた。
「どうぞ」
あ、これはヤバイね。まるで温度も興味もねぇ声色。
隣に座って「はじめまして」と、初対面を自覚し血液が下がる。
しかし……冷静になれば彼はかなり浮いているように感じた。
「……大学生?」
そして自分から出てきた質問がアホみたいに単純だった。
「…はい。そうですけど。
貴方も?」
特に変わり映えもなく聞いてくるのに、うわぁすっげぇ無しじゃね?と過りつつ「うん、そう」と普通を取り繕って…。
…てゆうか。
普通に喋ってっけど、俺。てゆうかなんだ、近くで見たら何っ。
めっちゃタイプなんですけど。
口が乾きそうだとハイボールを一口飲む。
相手も一口飲み物を飲み、「ハイボール?」と普通に聞いてきた。
えっ。この子、慣れてない雰囲気なんじゃなかったの?それとも今の雰囲気にリラックスしてるの?
いや、待て。これは普通以下の当たり前な空気会話ですけど。
「うん。君は?」
「…ウォッカトニック」
うわぁ。
飛ばすなぁ、おい。マジか何この……大人しそうな顔した肉食は。
ヤバい、キュンときた。
「ウォッカトニック?…飛ばすねぇ…」
「…そうですか?」
「うん…多分俺飲んだことない」
「…え、いくつです?」
疑心の目。
あ、訂正しとかなきゃ。
「二十歳です」
「え、そうなんだ。もう少し上に見えた」
ん、あれ?
あっさり、手応えがわからない…。
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