3 / 10
3
しおりを挟む
宇賀神夫妻は、火曜と木曜日の夜に現れる。
あの後の日曜日くらいからそれを再確認のように考えていた。
研修を終え何も考えずに店に向かった19時。夫妻はすでに飲んでいた。
「あ!あっちゃん!」
「あれ?また来たの?学生にはキツくない?ダイジョブ?」
「どうもです」
「モスコミュールをお願いします」とオーナーに頼んだ。
「あっちゃん、引っ越しはどうなったの?」
「引っ越し?」
「あっちゃんね、遊び歩いてるの親にバレちゃって出てけって言われてるんだってさ」
「うっはは!でも来てるじゃんっ!」
「だって、ぶっちゃけ今しか社会勉強?出来ませんし。もうすぐ勉強漬けですよ。
今日も今日とて早く決めろ、不動産屋行ってこいと…もー高くても良いからって」
はいよ、と無口なオーナーは薄いゴールデンの飲み物とピーナッツを出してくれる。
乾杯して一口飲んだ、やっぱりちょっと甘い。
「なんで、今日は『6年制に編入したい』なんて嘘吐いて意地悪を言ってしまったところです。バイトしろとか言われるかと期待したんですけどね」
「贅沢だなぁ。ま、俺も言えないけど。
なんでそんなんなってるわけ?あっちゃんなんの大学行ってんの?」
「生物系ですね。今日は病院でひたすら、手足拘束された透け透けの写真を眺めましたよ」
「あははは!意外、ナニソレ!隠語?
ムラムラした?あっちゃん一発どう?」
「犬猫なんで流石にしませんね。オスでもメスでも」
タカシさんはごく当たり前に奥を親指で指す。
そうだ、思い出した。
「そうだタカシさん。この前の子、あれからどうでした?」
「この前?」
「先週の木曜日の…俺と同じくらいですかね?綺麗めの」
タカシさんは少し考え「ああ!あの大学生か!」と思い出したようで。
サブリミナル効果、あの情景が浮かぶ。
「いやぁ可愛らしかったな。なんで?」
「…見ちゃったんで」
普通見ちゃならんところでね。
マリコさんがちらっとタカシさんを見る。
タカシさんは嬉しそうに「いやさぁ、」と話し始めた。
「もう超エロい…エロいっつーかなんだろ…こう、…慣れてないのに慣れた技を懸命にしてくれようとしてさぁ。初な感じが…調教ってか、男心を擽られたわ」
「え?そんな子いたの?なんで呼んでくれなかったのよ」
「お前そんときあっちゃんと一緒だったもん」
この夫婦は変わっている。かなり奔放だ。
元はマンネリから通い始めたそうだが、旦那はいつの間にか男にハマりつつあり妻は若い男にハマったらしい。
常連だからと勧められた最初、まずタカシさんから「妻を殴ってくれ!」と無邪気に言われたのにはかなり驚いた。
「ウチの妻、綺麗だろ?君みたいな子に妻が良いようにされるのはかなり抜ける!」
なんて、多分CTに写らない頭のネジが飛んでいると、ぶっちゃけ心配した。
流石に、女性を殴るのに抵抗があり断った。
二回目は「妻にめちゃくちゃにされる俺を見てくれ!」と持ち掛けられた。
それは少しわからなくもない、と返答に困ったが、あまりの圧に「そろそろ出禁を考えようか」とタカシさんはオーナーに窘められていた。
三回目、「堂々と見ていてくれ」これは性癖に一致したかもしれない、と了承をして今に至る。
最初は「どういうことだ」と思ったが、遊んでいるうちにここではわりと普通なことだと知った。
「相手の子、いまいちわからないが一応ゲイだと言ってたから」
「あー、それは確かに無理ねぇ」
「そうか、大学生だったのか…。無理させました?」
「ん?別にだと思うよ。普通だった至って。なんで?」
「いや……タカシさん、やらかしたんじゃないかなって…。でもそうか、場所を移したんですか?」
「流石にないわ。そうだよ」
よく言う。
「珍しいね、そんなに聞いてくるなんて」
「ん?あっちゃん、私とお楽しみだったのになんで知ってるの?」
「たまたま見えただけです」
「…もしかしてさ」
オーナーが口を挟んだのにタカシさんが「何っ」と焦ったようだが、オーナーは特に気にせず「ハナの友達?」と言った。
「え?」
「大人しい感じの…左の…首筋に黒子ある、髪の毛さらっさらの。今時の草食系というか薄味そうな…」
「マジか、ハナママが!?」
うわぁマジかぁ、とタカシさんは微妙な反応。
「納得なような…いや、意外ではある…ハナママのタイプじゃないだろ…貰っちゃったくらいしか思い付かねぇ」
初見で俺の腹筋を触り「そこそこね」と微妙な評価をしたオカマを思い出した。
あの人確か、どちらかと言えばマッチョ系が好きだったような。あんな女顔というか薄味系なんて…。
「ありゃ磨けば光るってハナも言ってたけど。晃彦もタカシも面食いだもんね。気になってんの?」
「えっ。まぁ…」
「如何にも好きそう。ハナに聞いてみたら?穴捧げる気で。あんま来ないし来ても飲んで帰るよあの子」
「あ、そうなんだ」
「一人暮らしらしいからねぇ」
「あー、なるほど…」
「りっちゃんってハナが呼んでるよ」
りっちゃん。大学生。一人暮らし。
今日の収穫はこれだ。
「で、一発いっとく?」と言うタカシさんには「抱かれてくれます?」と曖昧な返事をしておく。
タバコを一本だけ吸った。
あの後の日曜日くらいからそれを再確認のように考えていた。
研修を終え何も考えずに店に向かった19時。夫妻はすでに飲んでいた。
「あ!あっちゃん!」
「あれ?また来たの?学生にはキツくない?ダイジョブ?」
「どうもです」
「モスコミュールをお願いします」とオーナーに頼んだ。
「あっちゃん、引っ越しはどうなったの?」
「引っ越し?」
「あっちゃんね、遊び歩いてるの親にバレちゃって出てけって言われてるんだってさ」
「うっはは!でも来てるじゃんっ!」
「だって、ぶっちゃけ今しか社会勉強?出来ませんし。もうすぐ勉強漬けですよ。
今日も今日とて早く決めろ、不動産屋行ってこいと…もー高くても良いからって」
はいよ、と無口なオーナーは薄いゴールデンの飲み物とピーナッツを出してくれる。
乾杯して一口飲んだ、やっぱりちょっと甘い。
「なんで、今日は『6年制に編入したい』なんて嘘吐いて意地悪を言ってしまったところです。バイトしろとか言われるかと期待したんですけどね」
「贅沢だなぁ。ま、俺も言えないけど。
なんでそんなんなってるわけ?あっちゃんなんの大学行ってんの?」
「生物系ですね。今日は病院でひたすら、手足拘束された透け透けの写真を眺めましたよ」
「あははは!意外、ナニソレ!隠語?
ムラムラした?あっちゃん一発どう?」
「犬猫なんで流石にしませんね。オスでもメスでも」
タカシさんはごく当たり前に奥を親指で指す。
そうだ、思い出した。
「そうだタカシさん。この前の子、あれからどうでした?」
「この前?」
「先週の木曜日の…俺と同じくらいですかね?綺麗めの」
タカシさんは少し考え「ああ!あの大学生か!」と思い出したようで。
サブリミナル効果、あの情景が浮かぶ。
「いやぁ可愛らしかったな。なんで?」
「…見ちゃったんで」
普通見ちゃならんところでね。
マリコさんがちらっとタカシさんを見る。
タカシさんは嬉しそうに「いやさぁ、」と話し始めた。
「もう超エロい…エロいっつーかなんだろ…こう、…慣れてないのに慣れた技を懸命にしてくれようとしてさぁ。初な感じが…調教ってか、男心を擽られたわ」
「え?そんな子いたの?なんで呼んでくれなかったのよ」
「お前そんときあっちゃんと一緒だったもん」
この夫婦は変わっている。かなり奔放だ。
元はマンネリから通い始めたそうだが、旦那はいつの間にか男にハマりつつあり妻は若い男にハマったらしい。
常連だからと勧められた最初、まずタカシさんから「妻を殴ってくれ!」と無邪気に言われたのにはかなり驚いた。
「ウチの妻、綺麗だろ?君みたいな子に妻が良いようにされるのはかなり抜ける!」
なんて、多分CTに写らない頭のネジが飛んでいると、ぶっちゃけ心配した。
流石に、女性を殴るのに抵抗があり断った。
二回目は「妻にめちゃくちゃにされる俺を見てくれ!」と持ち掛けられた。
それは少しわからなくもない、と返答に困ったが、あまりの圧に「そろそろ出禁を考えようか」とタカシさんはオーナーに窘められていた。
三回目、「堂々と見ていてくれ」これは性癖に一致したかもしれない、と了承をして今に至る。
最初は「どういうことだ」と思ったが、遊んでいるうちにここではわりと普通なことだと知った。
「相手の子、いまいちわからないが一応ゲイだと言ってたから」
「あー、それは確かに無理ねぇ」
「そうか、大学生だったのか…。無理させました?」
「ん?別にだと思うよ。普通だった至って。なんで?」
「いや……タカシさん、やらかしたんじゃないかなって…。でもそうか、場所を移したんですか?」
「流石にないわ。そうだよ」
よく言う。
「珍しいね、そんなに聞いてくるなんて」
「ん?あっちゃん、私とお楽しみだったのになんで知ってるの?」
「たまたま見えただけです」
「…もしかしてさ」
オーナーが口を挟んだのにタカシさんが「何っ」と焦ったようだが、オーナーは特に気にせず「ハナの友達?」と言った。
「え?」
「大人しい感じの…左の…首筋に黒子ある、髪の毛さらっさらの。今時の草食系というか薄味そうな…」
「マジか、ハナママが!?」
うわぁマジかぁ、とタカシさんは微妙な反応。
「納得なような…いや、意外ではある…ハナママのタイプじゃないだろ…貰っちゃったくらいしか思い付かねぇ」
初見で俺の腹筋を触り「そこそこね」と微妙な評価をしたオカマを思い出した。
あの人確か、どちらかと言えばマッチョ系が好きだったような。あんな女顔というか薄味系なんて…。
「ありゃ磨けば光るってハナも言ってたけど。晃彦もタカシも面食いだもんね。気になってんの?」
「えっ。まぁ…」
「如何にも好きそう。ハナに聞いてみたら?穴捧げる気で。あんま来ないし来ても飲んで帰るよあの子」
「あ、そうなんだ」
「一人暮らしらしいからねぇ」
「あー、なるほど…」
「りっちゃんってハナが呼んでるよ」
りっちゃん。大学生。一人暮らし。
今日の収穫はこれだ。
「で、一発いっとく?」と言うタカシさんには「抱かれてくれます?」と曖昧な返事をしておく。
タバコを一本だけ吸った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる