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羽根
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シャワーで流れ落ちる髪が尋常じゃなく。
ふとした傷み。どこか定かではないが左手がピリッと痛い。不自然に、しかしはっきりとした切り傷が、主に人差し指の第二関節あたりにあって。
その指の隣には痛々しく、歯形のようにタコまで出来ていて。
足の指先から自分の見える範囲を眺めてみたら、特に筋肉がついたわけでもない両足やら、浮いた胸骨やらが貧相で極まりないと感じた。あまり自慢できる身体ではない。
何かの拍子についた腹辺りの縦の小さな切り傷も嫌で仕方ない。腕までが最近、手首は掴めるくらい細い。
女みたいで好まない。もう少し、逞しくなりたいが、誰にどうこういうわけでもないし引きこもりだし、自己嫌悪で済む。まぁいいかとヤケになる。
生まれつき太りにくい体質だった。しかし自分の家族は、果たしてどうだったか。
思考を遮断した。そういうのは、わりと得意で。
カミソリを手にして驚愕した。あぁクセが治らないもんだとそれでも脛毛を無意識に剃っているあたりでどうかしていると余計に嫌になってさっさと身体を洗ってぼっとつっ立って。
寒いなぁと水滴をタオルで拭って寝巻きのパーカーと半ズボンを掃いたあたりでタイミングを見計らったかのように雨祢が顔を覗かせた。
「まだ声掛けてないけど」
そう言ったあたりで、少しの驚愕も見せずに、「遅いんだもん」と漏らした。
「君そういうタチだっけ。寒くないの?そのハーパン」
絶対異変に気付いてる。
「慣れだよ。あとハーパンって言わない。半ズボンだと思う」
「あそう。まぁいいや。はい、コーヒーでも飲む?見てて寒々する。てか、長袖にしようよ」
「何言ってるかよくわかんないっ、ある、うるさい」
女々しいと言いたいのかこいつは。
「まぁいいけど。ねぇ那由多、」
聞こえないフリをして睨むようにリビングのテーブルに座る。仕方なさそうな溜め息。肩に掛けたタオルで髪を乱暴になぜられた。それをぶっ叩くように払いのける。
「可愛くねぇ」
無視。
「ねぇ那由多、仕事の話したいんだけど」
無視。
「ねぇなにがそんなに機嫌悪くしたよ?あーヤダヤダ思春期の女子かよ。俺口効いてもらうまでここにいるから」
黙って立ち上がる。
待ってましたと言わんばかりに雨祢も立ち上がって後ろについてくる。
「てか俺お前と住むからね!」
流石に立ち止まった。
「はぁ?」
振り向けばしてやったりな表情。36歳、12歳も年上の男にしては何故か幼さ、いや、ガキっぽさ溢れるドヤ顔で見て来て左手を俺の前に突き出し、歩いてくるもんだから流石に後ずさった。
そのまま勢いで壁ドンされてしまった。
「なにっ、」
「見なよ俺離婚したんだよわかる!?」
「はぁぁ!?」
「だから君の面倒見ます」
「待ってわかんない勘弁して気持ち悪い」
「気持ち悪いとは人聞き悪いな、ハトコだろ!?
大体ねぇ、んな充電コードをカッターで切って連絡遮断して2日間ベットで失神してるような肉親、一人で置いておけるわけねぇよねぇ!?」
げっ。
「なんでそんなことしたかなんておおよその予想ついてますが言ったろーか、え?」
「ちょっと待ってちょっと待って!」
流石に怖い。逃げ場がない。
力が抜けて座り込んだ。しかしこれ、ある意味逃げ場だと考え、這って逃げようかなと考えるが、雨祢もしゃがみ込んだので考えるのをやめた。
所謂、思考遮断。
次の瞬間には優しいような切ないような雨祢の表情があって、頭痛と共に耳鳴りがしたような気がして動悸がしてしまい。
感情は決壊を恐れた。
「那由多、」
「ちょっ、ちょっと…、待っ…」
ダメだ。
勝手に涙が溢れた。最早生理現象のように。
しょうもなく、ただ、顔を膝に埋めたら嗚咽が漏れた。たまにある現象だが俺にはどうも理解出来なかった。
恐怖が勝る。
「那由多…、ごめん」
優しく抱き締めてくれようとするのを最早拒否する。
わかっているけど。
「やめろよ、」
それから落ち着くまでそのまましばらく雨祢はそこにいた。
「別に押し付ける気はない。
ただ、妻が浮気していたのがわかった、それだけだよ」
「なっ、」
顔を上げれば真剣だった。
「そんなわけ、」
「いや、互いに乗り越えられないかもしれない壁だった。君ならわかってくれるか、那由多」
「なにそれ」
ふと手を伸ばされ、髪をなぜられた。
冷たかった。
「まずはケアするから。はい、立って。雑談として」
そう言われれば、仕方がないじゃないか。
ある意味自分で蒔いた話題の種。気分も後味も悪い。仕方なく俺は雨祢に従い、乾きかけのわりには時間を掛けてブラッシングやらドライヤーやらアイロンやらをする雨祢の、結婚指輪のない指通りに髪を預け。
出来上がりは、ゆるふわの肩上くらい。これは女子っぽくて嫌だと前回出来を見て抗議したが、
「実は「お任せで」とか言った子の出来が凄く良くて。だからやってみたんだよ。
あ、前回から主役抜擢した子。思った以上に似合ったから那由多にもと思って」
「なにそれ」
それとさっきの話、関係ある?
もしかしてだけど。
ふとした傷み。どこか定かではないが左手がピリッと痛い。不自然に、しかしはっきりとした切り傷が、主に人差し指の第二関節あたりにあって。
その指の隣には痛々しく、歯形のようにタコまで出来ていて。
足の指先から自分の見える範囲を眺めてみたら、特に筋肉がついたわけでもない両足やら、浮いた胸骨やらが貧相で極まりないと感じた。あまり自慢できる身体ではない。
何かの拍子についた腹辺りの縦の小さな切り傷も嫌で仕方ない。腕までが最近、手首は掴めるくらい細い。
女みたいで好まない。もう少し、逞しくなりたいが、誰にどうこういうわけでもないし引きこもりだし、自己嫌悪で済む。まぁいいかとヤケになる。
生まれつき太りにくい体質だった。しかし自分の家族は、果たしてどうだったか。
思考を遮断した。そういうのは、わりと得意で。
カミソリを手にして驚愕した。あぁクセが治らないもんだとそれでも脛毛を無意識に剃っているあたりでどうかしていると余計に嫌になってさっさと身体を洗ってぼっとつっ立って。
寒いなぁと水滴をタオルで拭って寝巻きのパーカーと半ズボンを掃いたあたりでタイミングを見計らったかのように雨祢が顔を覗かせた。
「まだ声掛けてないけど」
そう言ったあたりで、少しの驚愕も見せずに、「遅いんだもん」と漏らした。
「君そういうタチだっけ。寒くないの?そのハーパン」
絶対異変に気付いてる。
「慣れだよ。あとハーパンって言わない。半ズボンだと思う」
「あそう。まぁいいや。はい、コーヒーでも飲む?見てて寒々する。てか、長袖にしようよ」
「何言ってるかよくわかんないっ、ある、うるさい」
女々しいと言いたいのかこいつは。
「まぁいいけど。ねぇ那由多、」
聞こえないフリをして睨むようにリビングのテーブルに座る。仕方なさそうな溜め息。肩に掛けたタオルで髪を乱暴になぜられた。それをぶっ叩くように払いのける。
「可愛くねぇ」
無視。
「ねぇ那由多、仕事の話したいんだけど」
無視。
「ねぇなにがそんなに機嫌悪くしたよ?あーヤダヤダ思春期の女子かよ。俺口効いてもらうまでここにいるから」
黙って立ち上がる。
待ってましたと言わんばかりに雨祢も立ち上がって後ろについてくる。
「てか俺お前と住むからね!」
流石に立ち止まった。
「はぁ?」
振り向けばしてやったりな表情。36歳、12歳も年上の男にしては何故か幼さ、いや、ガキっぽさ溢れるドヤ顔で見て来て左手を俺の前に突き出し、歩いてくるもんだから流石に後ずさった。
そのまま勢いで壁ドンされてしまった。
「なにっ、」
「見なよ俺離婚したんだよわかる!?」
「はぁぁ!?」
「だから君の面倒見ます」
「待ってわかんない勘弁して気持ち悪い」
「気持ち悪いとは人聞き悪いな、ハトコだろ!?
大体ねぇ、んな充電コードをカッターで切って連絡遮断して2日間ベットで失神してるような肉親、一人で置いておけるわけねぇよねぇ!?」
げっ。
「なんでそんなことしたかなんておおよその予想ついてますが言ったろーか、え?」
「ちょっと待ってちょっと待って!」
流石に怖い。逃げ場がない。
力が抜けて座り込んだ。しかしこれ、ある意味逃げ場だと考え、這って逃げようかなと考えるが、雨祢もしゃがみ込んだので考えるのをやめた。
所謂、思考遮断。
次の瞬間には優しいような切ないような雨祢の表情があって、頭痛と共に耳鳴りがしたような気がして動悸がしてしまい。
感情は決壊を恐れた。
「那由多、」
「ちょっ、ちょっと…、待っ…」
ダメだ。
勝手に涙が溢れた。最早生理現象のように。
しょうもなく、ただ、顔を膝に埋めたら嗚咽が漏れた。たまにある現象だが俺にはどうも理解出来なかった。
恐怖が勝る。
「那由多…、ごめん」
優しく抱き締めてくれようとするのを最早拒否する。
わかっているけど。
「やめろよ、」
それから落ち着くまでそのまましばらく雨祢はそこにいた。
「別に押し付ける気はない。
ただ、妻が浮気していたのがわかった、それだけだよ」
「なっ、」
顔を上げれば真剣だった。
「そんなわけ、」
「いや、互いに乗り越えられないかもしれない壁だった。君ならわかってくれるか、那由多」
「なにそれ」
ふと手を伸ばされ、髪をなぜられた。
冷たかった。
「まずはケアするから。はい、立って。雑談として」
そう言われれば、仕方がないじゃないか。
ある意味自分で蒔いた話題の種。気分も後味も悪い。仕方なく俺は雨祢に従い、乾きかけのわりには時間を掛けてブラッシングやらドライヤーやらアイロンやらをする雨祢の、結婚指輪のない指通りに髪を預け。
出来上がりは、ゆるふわの肩上くらい。これは女子っぽくて嫌だと前回出来を見て抗議したが、
「実は「お任せで」とか言った子の出来が凄く良くて。だからやってみたんだよ。
あ、前回から主役抜擢した子。思った以上に似合ったから那由多にもと思って」
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もしかしてだけど。
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