アルカロイド

二色燕𠀋

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灰色と普遍の隠れ家

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「初めてにしては、難しく考えすぎじゃない?」

 俺は帰りにそう、その友人に言われた。

 友人が気楽に飲んでいるにも関わらず、俺はおっさんと話してから2時間くらい、一人しかめ面で終わってしまったのだ。

 たまに話しかけてくる人もいたし、なんなら「初めてなら試しにどう?」と言う人もいたが、どうにも、発展はなかった。

 思ったよりも楽しそうだしオープンでアットホームではあった。だから確かに「考えすぎ」だと思う。

「なんなら「あの人面は良いけどなんだかつまんなそうな男」と言われたぞ」
「あぁ多分そうだと思う」
「違かった?」
「うーん、なんというかアットホームだし、仲間も確実にいる、その空気感は居心地悪いもんじゃなかった。なんでだろうな、なんだか気に掛かる。俺は果たしてここにいていいのか、と」
「なんというか真麻は女と寝るときも子宮で物を考えそう」
「ん?」
「フェミニスト、ロマンチストって言ったら聞こえは良いけど現実見た方がいいというか。実際あんなのは確かに憂さ晴らしとかもあるけど、パーっと同族と飲んじゃえとか。けど極論「ヤれる人」を探す、てのは皆ある話だよ」
「うん…まぁそうだよね」
「実際出会い系とかで出会うんだから。あそこで待ち合わせ、てのも使われる手段で、あの場にいた何組が今頃ヤってて何人が穴兄弟かわかったもんじゃないけど、当然でしょ」
「あーそっか、それはそっか、」
「いまそれを自覚するのも「当然だから」ってくらい自然か「想像も出来なかった」ってくらい疎いかって話。少し引っ掛かるならそれも可能性だし、まぁロマンチストは「自分探しの旅」くらいで軽くいけばいいんじゃね?」

 あー、なるほど。「終わりなき旅」というよりは「世界の終わり」の方がしっくりくるような。

「…なるほどね」
「もう少しエグいところに行く粗探しもあるかもな。まぁ、軽くハンカチかなんかを落とす感じで、俺は二、三回行けばお前はいけちゃうと思う」

 ああそういえばいつの間にかこいつ、カマ口調じゃねぇな。

「…ところでお前はやっぱりカマ口調が自然体なのか?」
「あっ、まあそう…だよ」
「構えすぎじゃないか?普段」
「俺は普段と言うのが何を指してるか」
「あそうだよな。悪ぃ悪ぃ。話しやすい方はカマ口調なのかなと」
「うーんどっちもどっち。そーゆーのって多分切り替えスイッチ」
「なるほど」
「うーん、でもさぁ」

 これはどっちなのかな、いや、まぁどっちでもいいんだけど。切っ掛けとかってなんだったんだろ、とぼんやり思う。

「真麻はぶっちゃけ自分探しして何を見つけたいの?見つけなきゃならないもん?」
「ん?」
「もしかすると見つけたってあんまりよくないかもしれないとかさ、」
「…それは見つけて仕分けしちゃったやつの話じゃないか?理由なんて…」

 多分大してないし、たまたまそれが浮遊し溶けきらない、茶色と灰色の境界線なのだから仕方がないだろう。俺は人よりそれは少ない分、ハッキリしてる方だけど。

「…青が何色かなって考えるようなもんだろうよ」
「ん?」
「俺色弱なの。信号は青でも緑でもなく水色…なのかな、軽い方らしいけどね。赤にはうっすらバツがあるんだよ」
「そうなの?」
「そう、最近は」
「…なるほどなぁ、それは探したくなるのかもな。つかぬことを聞いてもいいかい」
「いいよ」
「あの店、照明とか少しエロい感じだったけど」
「うーん白か灰色か」
「ピンク」
「そうだったんだ」

 光というのはそうやって浮かんでくる。

「まぁ、これもマイノリティ?」
「若干言い方が悪かったね俺も」
「でも別に気にしてないし支障もない」
「あぁ、そうか。チカチカしなそうだよね」
「そうかもしれない」

 そういうもんかもしれないと、その友人に言われて少し気付いたのもあったのかもしれない。
 しかしこの友人の名前は大して覚えていない、元々俺はきっと、先天的にそういうやつだったと思っている。

 眼鏡を掛けるほど幸いにも視力は悪くない。
 慣れないコンタクトレンズを掛けた日、粗捜しとやらで、俺は完璧なるゲイバーに連れて行かれた。

 朝の光、それよりはもう少し暗くぼんやりとしている場所。

 俺の中に、耳鳴りに似たメロウでエレクトリックな衝撃が刻まれた、そんなように感じた出会いは曖昧で、すぐに溶けるようだった、気がした。
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