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「ノート取ってあるのに」
「え、まぁ…だって、」
「俺のノート見る?真っ白だよ」
「え」
石丸はそう言って取り巻きを邪魔そうにし、自分の椅子をぐいぐい、と俺の前に持ってくる。
にかっと笑い、「実は超話してみたかったんだ」と言った。
「前のクラスでさ、イケメン転入生って言われてたから」
「…へ?」
「あー、やっぱり興味なかったんだね。じゃあ俺のことも微妙か…つっても俺一年の最初坊主スタートだからなぁ。中学のとき野球部だったんだよね」
「…同じ…クラスでは、ない?」
「まぁ…」
「え、てゆうかいま髪」
「そうそう、高校から伸ばし始めた」
全然坊主っぽくない。横だけ確かに少し短いけれども。
「彼女とどう?それで」
「え?」
「え?ホンザワヨシコだよ?」
「いや、誰!?」
違う人じゃない!?
「え?じゃあホンザワヨシコはなんだったの?」
「…ごめんホントに誰それ…」
「マジかよー!俺超狙ってた子でさぁ、え?結構一緒に…あれっていたんじゃないの?」
「いやいやいやいや、え!?多分違う人じゃないかな!?」
「いや、加賀谷慧くんだよね?君」
「え、うん」
「え何あいつ、めっちゃ君の話してたのに?え?二組だったよね。ちなみに俺は一組だった」
「…うん、二組だったけど…ちょっと越したばかりで、しかも…そう、家…農家で覚えること多くて、実はあまり学校のこと、覚えてないんだ…言葉も大変だし…」
「……マジか!怖!え、何あの女マジかよ」
「…いつかな…。あ、もしかして、髪の毛巻いてる…子?」
そういえば派手な感じの子が隣の席になったこと、あったかも…。
「そうそう、いま三組のラッキースケベ丈スカートのヤツ!」
「わかったぁ!」
思いの外盛り上がれば、まわりが「あれ?」という雰囲気になり、石丸はそれも見回しまるで「どうだ?」と言わんばかりだった。
「あ…、えっと…」
「なんだなんだ、俺てっきりプレイボーイなのかと思ってたよあの女マジ怖~。わぁ鳥肌が…マジで知らないの?めっちゃ付き合ってる風に大声でペラペラ喋ってたけど」
「…え、どんな…」
「今日も仲良く喋っちゃった☆とか、手ぇ繋いじゃった☆とか、ほぉんとイケメンなの☆とか…え…なんならヤっちゃった的な」
「ないないないない!
いや多分…話したことはあるんだろうし…えー手も繋いだ記憶ないけど…言われてみればなんか…わりと視界にいた気がしなくもないかも…」
「ひぇ~っ!いやマジでイケメン転入生には敵わねーよな俺坊主だし…て諦めたけど、うわ、なんか引いてよかったな…マジで?本当に?」
「うん…だって俺まず」
あ、危な。
言いそうになっちゃった。俺あれから性的なこととか無理になっててぇ…て。危ない危ない。中三あたりが最後だよとか、死んでも言えない…。
それなりに確かに早かった。女の子と付き合った時期もなくはない。が…。
「…モテるのも大変だなぁ、俺泣けてきたよ…。
で?えっと、あんべ………具合はどうだ?」
「へ?」
あ、そう言えば…。
チャイムが鳴った。
取り巻きはとっくに席に着いていたし、まわりも大人しくなっていた。
ただ、ふとチャイムに被り「ホントに大変だったな」と石丸くんは言った。
「…………」
「改めてな。石丸大樹。俺も前は神奈川にいたんだ」
…“も”って違くないか?
とは思ったが、確かに。別のところから来ると…そうなのかもしれないな。
この、石丸大樹くんはそれから…友達になった。
次の休み時間から、俺は急に人付き合いで忙しくなることになったのだ。
たまにそれで…人生初、“人酔い”というものも体験したりした。
けれどやっぱり、石丸くんが言いたくて、でも難しかったことはよくわかった。
確かにこういうの、好きじゃない。
福島は当時、風評被害が酷かった。
皆は俺をバイ菌か何かだと思っていたんだろうし、単純にエゴのようなもので「可哀想な人」にしたかったのだ。
それは相反しているようで、全く同じものだ、と思った。
申し訳ない、というわけでもなく、いたからどうだというのも、俺の中では正直、何もなくなってしまっていた。
それは、呆然だ。あのテレビ越しの景色でも充分そうだった。
ただ、これがきっかけで、フロイトやユングやらとも出会ったのだ。
いや…多分、精神学を読まなかったとしてもそうだった、誰でもきっと一生答えが出ず、ただ、気持ちをたくさん持ち寄るのは当たり前なのだと身をもって感じた。
来るものも去るものも関係がない。なんせ、星は誰にでも輝いて、風も綺麗に流れて行くのだから。
だから等しく、小学校の頃の友人やらがどうだというのは、いまでも触れないようにしている。
多分途端に、何より自分を嫌いになりそうだからだ。俺はその程度の、小さな人間でしかない。
丁度その頃、少し昔のJ-Rockに出会った。
「外国で飛行機が堕ちました
乗客に日本人はいませんでした
僕は何を思えば良いんだろう」
というヒット曲。世代は違えど、これは忘れられない青春の一曲になった。
「え、まぁ…だって、」
「俺のノート見る?真っ白だよ」
「え」
石丸はそう言って取り巻きを邪魔そうにし、自分の椅子をぐいぐい、と俺の前に持ってくる。
にかっと笑い、「実は超話してみたかったんだ」と言った。
「前のクラスでさ、イケメン転入生って言われてたから」
「…へ?」
「あー、やっぱり興味なかったんだね。じゃあ俺のことも微妙か…つっても俺一年の最初坊主スタートだからなぁ。中学のとき野球部だったんだよね」
「…同じ…クラスでは、ない?」
「まぁ…」
「え、てゆうかいま髪」
「そうそう、高校から伸ばし始めた」
全然坊主っぽくない。横だけ確かに少し短いけれども。
「彼女とどう?それで」
「え?」
「え?ホンザワヨシコだよ?」
「いや、誰!?」
違う人じゃない!?
「え?じゃあホンザワヨシコはなんだったの?」
「…ごめんホントに誰それ…」
「マジかよー!俺超狙ってた子でさぁ、え?結構一緒に…あれっていたんじゃないの?」
「いやいやいやいや、え!?多分違う人じゃないかな!?」
「いや、加賀谷慧くんだよね?君」
「え、うん」
「え何あいつ、めっちゃ君の話してたのに?え?二組だったよね。ちなみに俺は一組だった」
「…うん、二組だったけど…ちょっと越したばかりで、しかも…そう、家…農家で覚えること多くて、実はあまり学校のこと、覚えてないんだ…言葉も大変だし…」
「……マジか!怖!え、何あの女マジかよ」
「…いつかな…。あ、もしかして、髪の毛巻いてる…子?」
そういえば派手な感じの子が隣の席になったこと、あったかも…。
「そうそう、いま三組のラッキースケベ丈スカートのヤツ!」
「わかったぁ!」
思いの外盛り上がれば、まわりが「あれ?」という雰囲気になり、石丸はそれも見回しまるで「どうだ?」と言わんばかりだった。
「あ…、えっと…」
「なんだなんだ、俺てっきりプレイボーイなのかと思ってたよあの女マジ怖~。わぁ鳥肌が…マジで知らないの?めっちゃ付き合ってる風に大声でペラペラ喋ってたけど」
「…え、どんな…」
「今日も仲良く喋っちゃった☆とか、手ぇ繋いじゃった☆とか、ほぉんとイケメンなの☆とか…え…なんならヤっちゃった的な」
「ないないないない!
いや多分…話したことはあるんだろうし…えー手も繋いだ記憶ないけど…言われてみればなんか…わりと視界にいた気がしなくもないかも…」
「ひぇ~っ!いやマジでイケメン転入生には敵わねーよな俺坊主だし…て諦めたけど、うわ、なんか引いてよかったな…マジで?本当に?」
「うん…だって俺まず」
あ、危な。
言いそうになっちゃった。俺あれから性的なこととか無理になっててぇ…て。危ない危ない。中三あたりが最後だよとか、死んでも言えない…。
それなりに確かに早かった。女の子と付き合った時期もなくはない。が…。
「…モテるのも大変だなぁ、俺泣けてきたよ…。
で?えっと、あんべ………具合はどうだ?」
「へ?」
あ、そう言えば…。
チャイムが鳴った。
取り巻きはとっくに席に着いていたし、まわりも大人しくなっていた。
ただ、ふとチャイムに被り「ホントに大変だったな」と石丸くんは言った。
「…………」
「改めてな。石丸大樹。俺も前は神奈川にいたんだ」
…“も”って違くないか?
とは思ったが、確かに。別のところから来ると…そうなのかもしれないな。
この、石丸大樹くんはそれから…友達になった。
次の休み時間から、俺は急に人付き合いで忙しくなることになったのだ。
たまにそれで…人生初、“人酔い”というものも体験したりした。
けれどやっぱり、石丸くんが言いたくて、でも難しかったことはよくわかった。
確かにこういうの、好きじゃない。
福島は当時、風評被害が酷かった。
皆は俺をバイ菌か何かだと思っていたんだろうし、単純にエゴのようなもので「可哀想な人」にしたかったのだ。
それは相反しているようで、全く同じものだ、と思った。
申し訳ない、というわけでもなく、いたからどうだというのも、俺の中では正直、何もなくなってしまっていた。
それは、呆然だ。あのテレビ越しの景色でも充分そうだった。
ただ、これがきっかけで、フロイトやユングやらとも出会ったのだ。
いや…多分、精神学を読まなかったとしてもそうだった、誰でもきっと一生答えが出ず、ただ、気持ちをたくさん持ち寄るのは当たり前なのだと身をもって感じた。
来るものも去るものも関係がない。なんせ、星は誰にでも輝いて、風も綺麗に流れて行くのだから。
だから等しく、小学校の頃の友人やらがどうだというのは、いまでも触れないようにしている。
多分途端に、何より自分を嫌いになりそうだからだ。俺はその程度の、小さな人間でしかない。
丁度その頃、少し昔のJ-Rockに出会った。
「外国で飛行機が堕ちました
乗客に日本人はいませんでした
僕は何を思えば良いんだろう」
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