白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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小鳥網

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「ただいま」

 と小さく言うと、暗いリビングから母親のヒステリックな、「どこ行ってたのよ!」と言う声が聞こえた。

「ごめん。ちょっと、友達の家で勉強してた」
「連絡くらいしてよ!何回電話しても圏外だし…」

 ケータイの電源を入れると、不在着信が5件とメールが3通。

「メールしたよ?少し遅くなるよって」
「少しって…いま19時半じゃない!」

 どうやら19時を過ぎると俺の母親は落ち着かないらしい。着信履歴が19時ジャストから3分置きくらいに入っていた。
 これを予想して電源を切っていたが、それはそれで面倒なようだ。

「ごめんね」

 まだ何かを母親はヒステリックに叫んでいるがもういい。黙って二階の自室に向かう。

 理穂の部屋の電気が、今日は珍しくついていた。
 いるんだ。久しぶりに話してみようかな。

「理穂?」

 ノックをして声を掛けると、間延びしたような声で、「なぁに?」と、理穂の声が聞こえた。

「ただいま。入っていい?」
「…別にいいけど」

 ドアを開けて久しぶりに見てみると、理穂はつまらなそうに長い金髪の毛先をぶちぶちと千切っては捨てていた。

 久しぶりに会った。金髪にしたのか、いつの間に。

「何してんの?」
「枝毛抜いてんの」

 見れば、理穂の右側のティッシュの上には、凄い量の髪の毛があった。
 俺も理穂の左隣に、真似するように足を伸ばして座ってみて、髪の毛を抜いてみた。一本でも、結構痛い。

「何してんの?」
「俺もやってみようかなって。枝毛ってどれ?」
「バッカじゃないの!? ほら、これ!」

 理穂が自分の髪の先を俺に見せてきた。
 なるほど、毛先が二股になってるやつか。

「これあるとなんかあんの?」
「…わかんない。けどよくない」
「へぇー。女の子って大変だな」
「まぁ男よりはね」

 ちらっと理穂の手首が見えた。生々しい切り傷が見える。
 視線が合うと理穂は、ばつが悪そうに手首を袖に隠す。

「今日さ、みんなに会ったんだ」

 俺は気にしない体を装って視線を、目の前のドアに移した。

「…みんな?」
「隆平と歩と深景」
「…へぇ。
 あのさ、用がないなら」
「また交換日記やろうってさ、深景が」
「…は?」
「今日は歩。明日は…きっと深景かな」
「…出てって」
「なんで?」
「用がないなら出てって」
「あるよ。言っていい?」
「嫌だ」
「じゃぁ俺も嫌だね」
「なんなの!?」
「理穂、」
「うるさい!」
「お前最近、何してんの?」
 
 その質問に理穂は答えない。一瞬動きが止まり、睨み付けてくる。

「関係ないでしょ」
「関係なくない」
「なんで」
「兄貴だから」
「こんな時だけ兄貴面?ふざけないでよ」
「そっちこそふざけんなよ」

 どうしてこう、伝わらないかな。

「俺はお前の味方になりたい」
「は?」
「わかってくれねぇな」

 じゃぁいいよ。

 立ち上がって理穂の机の上にあったカッターを手にする。「何?」と言って止めようとする理穂を払い除けて自分の手首に押しあて、引いた。
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