水に澄む色

二色燕𠀋

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「俺と君もそんなもんか、出会って」
「うーんと…前の職場を辞めたのが…28とかだったんで…そうかも」
「出た、5年か3年か単位なやつ」
「あ、確かに。前の前が22から25でしたそう言えば」
「それ来年辞めるやつだね…。ちなみに前とかは何故?聞いて良いのかこれ?」
「前の前はなんだっけ、パワハラとかありきたりなやつかも…前はお局さんが、使えないから辞めてくれって」
「…うちは大丈夫そうだな。安西さんは良いお局だもんな、多分…。てか劣悪じゃんどっちも!君のことだから絶対予想以上の超絶ブラックだろうね。あ~、よかったねえ伊織ちゃん~」

 エレベーターは3階に付き、「前の5号室です」と伊織は前回と同じ事を言った。

 家からはカレーの臭いがした。

「ただいまリュージ」

 リビングは開けっ放しだが、何故だか返事はない。

「お邪魔します~」

 にも返事がない。

 「あれ?」と言う吉田に伊織は慣れたようにスリッパを出し「どうぞ」と促すのに吉田は迷ったが、伊織はすたすたとリビングに向かってしまう。

 微かにじゃらじゃらと音がして、やはりなと伊織が思いリビングを覗けば、リュージはヘッドホンをしてベットの上で楽譜を広げ、ギターを弾いていた。

 「おっ!」と言う吉田に「しー」と伊織は鼻の前で指を立ててから、勢いよく楽しそうにリュージのヘッドホンを外した。

 一瞬ぽかんとして振り向いた竜二は次に驚いたような、混乱したような表情で「吉田さんっ!?」と言った。

「お邪魔しました、竜二くん」
「あっ、いやどうもってなんでいるんすか?」
「お帰りリュージ」
「ただいま、なんだお前一体」

 不機嫌そうに言ったリュージに構わず伊織はしゃがんで水槽を眺め、「お帰り」と言った。

「いや、俺は伊織ちゃんをマジで送りに来ただ」
「先輩とちゅーしました」

 不機嫌そうに眉を寄せて吉田をジロッと見る竜二と「言うか普通っ!?」と言う吉田。しかし伊織はすぐ、「桝くんを撃退しました」と告げる。

「は?」
「いやあのそのめちゃ追いかけられまして」
「はっ、」
「やましいことじゃな」
「ふっははははマジで言ってんの吉田さんっ!ウケる方法が臭すぎんだけどっ、」
「………あぁあだから言うなっつったのにもぅうう!わかってるよんなこと!」
「俺でもやんねーよマジで、はっ、その非正規ルートはそりゃぁサイコ野郎もビビるわ確かにっ!そー来たかぁ、マジかって方法で撃退したんだな」
「あぁああ」
「クッソてめぇ伊織っ!バカかお前はっ!」

 そう言って竜二は伊織の頭をがつっと掴み「痛っ」と言うのにゆらゆら揺らし、「バカ女コラ、カレー持って来いよ先輩だろ?」と、しかしそれから物凄く優しく頭を撫でた。

 うーんこれはこれで全体的にひやっとするなと吉田は苦笑いをしていたが、「あどーぞ狭いっすけど」と竜二は吉田を促した。
 最早ビクビクしながら座るしかない。

 伊織は台所に立ち、「食べる?」と竜二に聞くが「あーいや食ってていーよちょっと詰めるわ」と言うのでどこから突っ込んで良いのか。

「あの~、初彼カレーだそうですがそういったものは二人で食うべきではないかと」
「あー大丈夫っす吉田さんはこの際なら毒味なんで」
「…うわぁ」
「なんてね、旨いっすよ多分。てかカレー不味くするやつなかなかいないと思うんで。あ、人ん家のカレー食える派ですか吉田さん」
「うん、まぁ…」

 ごく普通にリュージはそれからまた楽譜を眺めるのだし、話を聞いていなかったのか伊織は3人分のカレーを持ってくるのだし。

「お前人の話聞いてなくね、まぁいーわ食うか」

 ギターをベッドにひょいっと置いたリュージは降りてきて、伊織は二人に挟まれながらマイペースに「いただきます」と手を合わせた。各々それからいただきますをして、カレーを食べ始めた。普通のカレーだった。

「あー、であれっすか、桝くん来ちゃった系ですか」
「あーうん。ホントにサイコパスだった」
「リュージそれは何?」
「あーあれ。グラシアの楽譜。4本目アレンジと新曲考えてた」
「そうなんだ」
「あ、吉田さん大丈夫ですよ殴らないんで。なんなら明日伊織貸しますわ。マジ俺じゃこの性欲対処できねぇしホントに」
「いやいやいや何言っちゃってんの、束縛系、縄緩いなぁ~…」
「いやマジで朝から盛ってましたからねこいつ。俺は意思固いんで数日待とうかなって決心したんですけど。
 まー吉田さんならしゃーないっすよね。俺ならこんなクソバンド野郎か吉田さん選べって言われたら吉田さんですもん」
「はははなんかありがとうでも良い大丈夫。俺らもそれ誓い合ったから」
「リュージの方が気持ちいけど吉田さんの方が優しいよ」
「うわっ、それ言うなよ伊織ちゃん」
「男の股間に関わる問題じゃん。バカだねお前ホントに。桝くん一回刺していいわマジで」

 場は非常にカオスだった。
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