水に澄む色

二色燕𠀋

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 顔なんて見れなかったが、リュージは無理矢理ぐいっと伊織の顔をあげ、わりと濃厚でけれどゆっくりなキスをかましてくるので唖然としてしまったが。

 大人な顔をしてしてくるそれに、なんだか力が抜けてしまった。
 けど、………なんだか優しく全部、なぜられた、ような気分で。

 離れてすぐに「…後悔するところだった、」とリュージは伊織に言った。

「…全部、何もかも、焦るのになんも出てこなくて、詰まって息苦しくてっ、」

 あぁ。

「…そうだったの、」
「あぁそうだよっ、悔しいことに吉田さんに言われて…やべぇな後悔しまくりじゃんって気付いたら本気でお前を殺したくなったねっ、」
「そう、」
「なんなの、一体。結局もうしょうがな」
「好きだよリュージ」

 間があって。
 「はぁ?」とリュージはポカンとしていた。

「うん、ああぁ…そうだ、リュージ、好きかも、いや、うん、好きだよ、ああぁ、うん、もう、」
「…なっ、」

 泣いてしまった、案外あっさりと、今度も。

 「げっ、なにそれ、」と引いているリュージに「うぅうう…」と、最早鼻水も涙も拭いてやった。

「…は、」
「うぅぅずぎだぉ」
「なに言ってっかわかんねっ、はぁ?」

 俯いたのにまた顔を上げ「おいコラ、」と言われたが即座にリュージは「ふっ、ははははは!」と、ドン引くくらいに爆笑した。

「ぶっ…ブス~ぅ、めっちゃブ、ブスぅ、やっ…ふははははヤバいヤバい、ちょっ、写メ」
「やめでぇぇ、」
「おまっ、はははちょっ、見よ、見よーぜヤバいブス過ぎて明日いずれにしても外出れないぞそれぇ、」
「そ、そんな、」
「ははははは!」

 リュージはまたキスをして、
 それから出来るだけ顔を見ないように自分の胸に伊織の顔を埋めるが「はいはい、」と、頭を撫でる手は優しくて。

「もう一回言ってやるよ。好きだよ、伊織」

 耳元で言われた声に「ふん、」と鼻が詰まる。

 「あー汚ねぇけどまーいーや今更だ拭け拭けこのブス。好きだよ」そう言ってリュージは笑った。

「あぁ、あといー知らせね。俺グラシアのサポートやるわ。ワンチャンメンバーポジ狙うわ、今決めた」
「へ?」

 伊織がリュージの顔を見た瞬間「うっひゃっひゃちょっ、見んなよブスッ!」どうやらツボを押したらしい、泣いたブス顔が。

「たまにはいいかってね。ちょっとこりごりだったんだけど、グループって」
「………そうなの?」
「うん、前バンド解散に追い込んだの俺だし。女寝取られたんだよ。殺す気で殴っちまって」
「えっ、」
「あの日はまー、そんな感じだったの、付き合うか俺ら」
「…ノリおかしいけど」
「うるせぇ」
「付き合う。初彼」
「えっ、」
「実は」
「…マジで?
 え、なにそれ、思ったより萌えるんだけど」
「うん」
「あぁそう。でも俺、実は束縛系だから暫くヤらん。オロナイン係やるわ」
「え?」
「オロナインでいいのかわかんねーけど。ははっ、吉田さんにやっぱ連絡するわ」
「…あっそ」
「ビッチ終了。セフレ脱却。浮気したらマジで殺すからな伊織」
「…わかった、殺される」

 だからすんじゃねぇよと言うのにしないよ?と伊織が返せば、リュージはまた笑ってくれた。

 …わからない人。
 でも、本当に優しくて、どーしょもない。

 伊織はそれからすぐに、目を閉じた。
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