水に澄む色

二色燕𠀋

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 どうしてなのかそんな日に限ってこそ、上がろうとした17時30分には突然客が押し寄せアニメ映画がなくなって行き、18時で「会員証作りたいです」とか言われてしまい結局18時15分に上がる羽目になる。

 最早めんどくさいから帰ってしまおうかな、と思うのに15分の遅刻では吉田が向かいからやって来て店前の仕切りに座って待っているのに丁度良い時間だったようで。

 竜二はあっさりと両手を上げて降参のポーズで「負けました」と吉田に白旗状態だった。

「…どうします?ギター邪魔なんで宅飲みでいいっすか、折角来たんだし。まぁ吉田さんとしては「このベットで伊織ちゃんとレンタルバンド野郎はあんなことやこんなイケナイことをしているのか」という怨念ある場所だとは思うんですが」
「…思ったより陰険だな君、そんな感じで俺を見ていたのか。ちょっと予想でしかないが君は束縛タイプじゃないのか実は」
「よく言われます。いいっすか家で」

 「もういいよそれで」と言う吉田にやっぱ優しいもんだなこいつは、だからじゃないのかとお節介が湧いた。俺なら絶対刺し殺したくなるから行かないのに。

 コンビニに寄れば「奢るから好きに買って」と吉田に言われたので、絶対飲まないであろう名前もわからないワインやら小さい山崎と白州はくしゅうを1本ずつやら、ついでに大体は使わないし家にもあるが0.02ミリコンドームやらウェットティッシュやら、ハーゲンダッツやら、兎に角思い付く高い物を篭に入れてやった。普通にジャックダニエルも、ビールも、おでんも。
 それでも吉田は何も言わず、いや、「ははは」と笑うのが大人の余裕かと思うと若干、イラつく。

「なんかなぁ…、」
「ははは金曜の俺の気持ちだな」
「まぁ、でしょうけどね…」

 まぁ、いくつだろうとなんだろうと、残念ながら立場は変わらないかと思えば少し落ち着くし、だからこそより疑問だった。

 家の外観を見て「そう、何気に綺麗だよね」だとか、吉田はそんなことまで言ってくる。

 …少し、伊織の気持ちがわかる気がした。この男、まともで、だからこそパーソナルスペースにド直球で来るのかもしれない。それじゃぁ確かにあの伊織では、セフレで終わってしまう。
 多分、少し怖いんだ。

「…正直あんた、少し背伸びして気取ってたからセフレやれてたんだと思いますよ」
「まぁ、そうだよね。やっぱり金曜は、なんというか焼いて持ってきてくれるタイプのお好み焼き屋の方が」
「そうすね。ついでに言えばお好み焼きというアットホームさも悪かったかもしれないですね」
「伊織ちゃんが食べたいって言って、伊織ちゃんが店選んだんだよ?」
「あー脈なし。に、なったかなあそれ。
 でも、まぁ…」

 竜二はふと笑い、「だからどうしろっつーんだよって話なんですよ、きっとね。どうにも出来ないんですよ、俺たちにはね」と言った。

「好きなら当たり前だし、そのうち合わなくなっちゃうってやつ。吉田さんみたいな人は。多分より虚しく、寂しくなっちゃう。それはあんたじゃなくて伊織が悪い」
「…それを聞こうと、今日は来たんだけどなぁ。正規ルートじゃダメって言ってたから」
「ははっ、敵に手の内聞きに来るとかホント凄え。けど余程っすね」

 部屋に入り一通り物を広げて乾杯をした。吉田は安いビールを開け、竜二はコップにジャックダニエルを割っている。

 「やっぱ教えてくんない?」という吉田に「そうだ」と、竜二はビデオショップの袋を出した。

「吉田さんに渡し忘れたしスッキリしませんか」
「えっ」
「社内情事、イケナイ関係」
「は?」
「ははっ、でもまぁ、」

 しかし、まずはPS2に入っていた座頭市のデスクを見せ、「ちなみに伊織はこれで盛る」と竜二が言えば吉田は「はぁ!?」と、そんな反応だったので気分を換え、もう一枚の方を入れ再生する。

「まぁ俺の秘蔵から行きますか」
「え、何嫌…」

 映像はフリフリの洋服を着た女、ハンドルを握るおっさんの腕。窓から見える晴れた海。

「…うっわぁすっげぇ…予想してなかったやつ来たー…」
「灼熱のドライブイン~密着の車内~」
「えぇぇ~…」

 しかし竜二は即ミュートにし何事もなく、と言ったように「吉田さん、やっぱ顔っすか」と訪ねてウィスキーを飲んだ。

「えっ、」
「まぁ顔第一として。身体は後からついてくるじゃないですか」
「いや、え~…、いきなりそうくる?」
「いやぁ性格はあり得ないだろうし」
「君たちなんなのホントに…」

 ドライブの車内でロングヘアーの女が恥じらい、男が下に手を伸ばし始める。竜二はぼんやりとそれを眺めた。

「…竜二くんはもしかしてロング派?」

 吉田から意外な質問、その質問に芯を突かれつい、「いや…」と微妙な返答になる。

「…でもって面食いなわけだ」
「…まぁまぁ、」
「ちなみに俺もロング派」
「…面食いなんですよね?」
「いや。確かに伊織ちゃんは美人かもしれないしこの女優より俺のタイプだけど、もっと美人はたくさんいる」
「…まぁ、」

 イラつくかイラつかないか微妙なラインなのは多分、「確かに」と思う面があるからだろう。
 流石、同じ女と寝るだけある。

 女の顔がしかめられてきたところで「俺は性格…より最初は仕草とかだったよ、身体から始めるだけあって」と吉田は少し開けっ広げたようだった。
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