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「解散だな、」
腹が立って仕方がなかった。
メンバー内で浮気されただなんて。近すぎて気付かなかったとは言い訳にしかならない。
あぁ、と思い当たったのは「お前かなりソクバッキーらしいな、」という、ヨシキの茶化した雑談くらいだった。
解散はライブの、ハケてすぐの楽屋。出番前までギターもドラムもキメてしまっていてあやふやだった演奏が本気で気に入らなかったから。
「はぁ?」
「どしたぁ?竜二」
「うっせぇ歯ぁ溶けて死んじまえ」
バコっと一発殴ってヨシキの前歯がなくなってしまったし、自分の拳に血は滲んだし。
「ちょ、竜二、」
馬乗りになった竜二を止めたユミコが後ろから止めに入ったのも原因のひとつで、裏拳をかましたら簡単にぶっ飛んで、このハミングバードは木の色だった気がするのに赤いなぁ、と思った瞬間、完全に脱退が決まった。
前座のクセにやらかした。
「…もーいーわ」
大変だ。非常にめんどくさい。
世話になった先輩バンドにどの面下げようか、あの人に「解散」とか「脱退」とかホントに言い辛い。
でも、本当はこんな、モテ目的のような「イマドキ」、「希望」バンドなんて、趣味じゃなかったんだ。
一人で頑張るんだ、と柔らかな笑顔で言った先輩の顔が浮かぶと「もーいーわ」としか言えなくなってしまった。
その先輩バンド、「グラシア」は、リズムが訳ありで脱退し紆余曲折しても、一人で頑張るんだと、そんな人にこんなクソくだらねぇ理由でと思ったら居ても立ってもいられない。
唖然とアホ面を下げたメンバーの、その楽屋から自分のリードを持ち運び、わいわいガヤガヤとしている客席でテキーラコークを頼み、端で静かに先輩を眺めた。
現在、その先輩以外はサポートで、でもほぼメンバーとなっている。
どこかで脱退したSM嬢のベース姉ちゃんと、超有名なフェス出禁バンドから脱退したドラム。
それが楽しそうで、照明の青のせいかなんなのか、凄く泣きそうになったのを竜二は鮮明に覚えている。
かっけぇ、確かにイマドキの爽やかさなのにな、なんでこんなにかっけぇんだろうな、俺、趣味じゃないだろうに。青春のようで。
アンコールで一回ハケた頃、もしかすると先輩は気付いたかもしれないけど。俺はこっちで見ているよ。でも、今頃惨事だと、どこかで気付いて欲しくなくて。
バーカウンター真横、ふと、ハコにいるにしては大人しそうな女が、メニューを指して注文している。少し汗で広がったミディアム。本当にこの場にしては、大人しそうな女で。
酒を受け取るとバーテンダーにニコッと笑って「ありがとうございます」と読唇術と、頭をぺこっと下げた好印象。
きっとこの位置は見にくい端っこだったけど、控えめに動かず、だけどキラキラした瞳でステージを一人で見ている姿に、自分とはかけ離れていると竜二は思った。
アンコールにしてはヘビーな曲を二曲やって、手叩きをさせる間もなく照明は客席側に変わったのだけど、竜二はなんとなく、テキーラの熱さかじーんと来て、しゃがみ込んで目頭をこっそり押さえていたのだけど。
ふと、目の前に綺麗な、楽器とは無縁だろう細い手が伸ばされる。
見上げた先にはミディアムヘアの女がいた。だけどあの目のキラキラさはなく、無機質に手を出したのだから「あぁ、ダイジョブっす」と断ったのに。
女はまだ残っている竜二の、プラステック容器を指す。回収してくれるにしても、半分以上あるのになと、少しイラっとした。
「…何?ヤク入れちまったけど飲む?」
プラステックを持っていた自分の手は擦り切れている。
女はその傷を撫でてプラステックを奪い、一口飲んだのだから、竜二は驚いたのだ。
「あー、嘘。ただのコー…」
「テキーラ」
見つめ合って、間があって。
次には「ホテル行かない?」と竜二は女を誘っていた。
女は氷をパリパリ噛み、まだ残っているそれを「お願いします」とカウンターに返す、もう片手で竜二の手の傷を撫でていた。
あっさりとそれから二人で、ギターを持ってホテルでサイドギターのような激しい夜を過ごした。
その女が「真柴伊織」だった。
腹が立って仕方がなかった。
メンバー内で浮気されただなんて。近すぎて気付かなかったとは言い訳にしかならない。
あぁ、と思い当たったのは「お前かなりソクバッキーらしいな、」という、ヨシキの茶化した雑談くらいだった。
解散はライブの、ハケてすぐの楽屋。出番前までギターもドラムもキメてしまっていてあやふやだった演奏が本気で気に入らなかったから。
「はぁ?」
「どしたぁ?竜二」
「うっせぇ歯ぁ溶けて死んじまえ」
バコっと一発殴ってヨシキの前歯がなくなってしまったし、自分の拳に血は滲んだし。
「ちょ、竜二、」
馬乗りになった竜二を止めたユミコが後ろから止めに入ったのも原因のひとつで、裏拳をかましたら簡単にぶっ飛んで、このハミングバードは木の色だった気がするのに赤いなぁ、と思った瞬間、完全に脱退が決まった。
前座のクセにやらかした。
「…もーいーわ」
大変だ。非常にめんどくさい。
世話になった先輩バンドにどの面下げようか、あの人に「解散」とか「脱退」とかホントに言い辛い。
でも、本当はこんな、モテ目的のような「イマドキ」、「希望」バンドなんて、趣味じゃなかったんだ。
一人で頑張るんだ、と柔らかな笑顔で言った先輩の顔が浮かぶと「もーいーわ」としか言えなくなってしまった。
その先輩バンド、「グラシア」は、リズムが訳ありで脱退し紆余曲折しても、一人で頑張るんだと、そんな人にこんなクソくだらねぇ理由でと思ったら居ても立ってもいられない。
唖然とアホ面を下げたメンバーの、その楽屋から自分のリードを持ち運び、わいわいガヤガヤとしている客席でテキーラコークを頼み、端で静かに先輩を眺めた。
現在、その先輩以外はサポートで、でもほぼメンバーとなっている。
どこかで脱退したSM嬢のベース姉ちゃんと、超有名なフェス出禁バンドから脱退したドラム。
それが楽しそうで、照明の青のせいかなんなのか、凄く泣きそうになったのを竜二は鮮明に覚えている。
かっけぇ、確かにイマドキの爽やかさなのにな、なんでこんなにかっけぇんだろうな、俺、趣味じゃないだろうに。青春のようで。
アンコールで一回ハケた頃、もしかすると先輩は気付いたかもしれないけど。俺はこっちで見ているよ。でも、今頃惨事だと、どこかで気付いて欲しくなくて。
バーカウンター真横、ふと、ハコにいるにしては大人しそうな女が、メニューを指して注文している。少し汗で広がったミディアム。本当にこの場にしては、大人しそうな女で。
酒を受け取るとバーテンダーにニコッと笑って「ありがとうございます」と読唇術と、頭をぺこっと下げた好印象。
きっとこの位置は見にくい端っこだったけど、控えめに動かず、だけどキラキラした瞳でステージを一人で見ている姿に、自分とはかけ離れていると竜二は思った。
アンコールにしてはヘビーな曲を二曲やって、手叩きをさせる間もなく照明は客席側に変わったのだけど、竜二はなんとなく、テキーラの熱さかじーんと来て、しゃがみ込んで目頭をこっそり押さえていたのだけど。
ふと、目の前に綺麗な、楽器とは無縁だろう細い手が伸ばされる。
見上げた先にはミディアムヘアの女がいた。だけどあの目のキラキラさはなく、無機質に手を出したのだから「あぁ、ダイジョブっす」と断ったのに。
女はまだ残っている竜二の、プラステック容器を指す。回収してくれるにしても、半分以上あるのになと、少しイラっとした。
「…何?ヤク入れちまったけど飲む?」
プラステックを持っていた自分の手は擦り切れている。
女はその傷を撫でてプラステックを奪い、一口飲んだのだから、竜二は驚いたのだ。
「あー、嘘。ただのコー…」
「テキーラ」
見つめ合って、間があって。
次には「ホテル行かない?」と竜二は女を誘っていた。
女は氷をパリパリ噛み、まだ残っているそれを「お願いします」とカウンターに返す、もう片手で竜二の手の傷を撫でていた。
あっさりとそれから二人で、ギターを持ってホテルでサイドギターのような激しい夜を過ごした。
その女が「真柴伊織」だった。
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