Never Rock

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
1 / 4

1

しおりを挟む
 スローに変わるエレキの鋭い音階、ドラムもゆっくりし始めて。
 大体は、ここで漸く音が耳に入ってくる。

 少し、やっぱり違うんだけど。どこでも大体そう、三者目を合わせてから最後にジャーンと一発やって、だらだら長く伸ばし曲が終わった。

 今日はマシ、前座だから。アンコールもなくささっとハケて出番が終わる。
 楽屋でふぅ、と一息を吐くと、今夜限りの銀髪ドラムから缶ビールを渡された。

 申し訳程度に乾杯をし、「いいね栗村くりむらさん~」と、たった一回のステージなのに何がわかるんだかと、「はぁ、どうも」とついつい塩対応。

 今回はこちらが必死に合わせに行った。
 少し有名だけど前座程度のバンドという微妙さに、食っちまわねぇようにだのバランスだのと、変な緊張があったのだ、ビールを一口飲む。

 …このお高い黒ビール、あまり好きじゃないんだよな。売店になかったのに、わざわざ奮発して買ってきたんだろうか。それとも、バイト先からパクってきたんだろうか。

「いやー、なんか久々にしっくり来たなー、俺ら最近、メンバー固定しなくて。初めてだよな、スリーピース」

 サボれねーなぁギター…と、ギタボが笑う。

 あんた、元がリードだから気を使ったもんだよ。実際正直、多分観客だったらつまらんバンドに成り下がっただろう。

 名前は聞いたことがある。ミスターサンシャイン。
 少し前にサイドギターが抜け、その場その場で対バンの先輩にオファーを掛けなんとか凌いでいたらしいが、そんな最中、ベースが盲腸で入院したらしい。

 元ミスターサンシャインのメンバーと面識があった、それは女だ。なんとなく感じた、多分こちら側・・・・の子だと。
 別のバンドへ加入したがそれも上手くいかず引退したっぽいが、その女がめんどくさそうに電話を寄越してきたのが1週間ほど前だった。

 本家もそろそろ動くかなという頃合いだったが、まぁ俺たちは10年以上もやってきているし、どうとでも出来る。

 何よりリーダーが「あー、行ってきなよ。まなぶの頼みでしょ?」と、いや、学は頼んできた女の、子供の名前だよと突っ込む前に、「ついでに様子見てきてよ」と言われ、今に至る。

 当の、めんどくさそうに頼んできた初期のサイドギターが辞めた理由も体感した気がする。インディーズ枠ですぐ散りそうな、纏まりがないバンドだった。

 しかし、主張の強さは却ってベースとしては纏めやすかったかもしれない。これは恐らくリズム隊がどうにかせねば死んでいるバンドだと、一週間でそう思った。

 流石に今回はサイドギターを借りられなかったらしい。というか、貸してくれなかったようだ。
 その分こちらが大幅にアレンジを加えた。物販でEPを買って聞いた客は、多分驚くだろう。

 俺、すげくね?と調子に乗るリーダー兼ギタボがふと悪ノリのように俺の肩に手を回し、「なんかぁ、あんたとならもっとよくなる気がするんすよねー」と、顔を近付けてくる。

 ……ぜんっぜんタイプじゃねぇしムカつくな、この距離感。裏拳かキッッスかましたろかと思ったが顔を伏せビールの縁を覗き、「いや、機材最悪っしょ…」と、やっぱり悪態しか出て来なかった。

 黙り込ませてしまった空気に、「まぁ、俺たちもぼちぼちちょっと、ツアー的なものがあるんで」と、確定もしてない嘘を吐いた。

「えっ!?」
「でんにじ、休止中って言ってなかった!?」

 …うっわ~、そうだったわ…。
 てゆうか、お前な、こっちの方が歴長いんだけど。馴れ馴れしいな、気安く愛称で呼ぶなっつーの。

「ぼちぼち始めてます」
「まぁ、そっか…お宅ら一気にやって一気に休むもんなぁ、次はどこ?」

 …全員と気が合わないバンドとか、どういうこっちゃねん。

「……地元のzeppeが潰れるんでぇ、」
「地元?zeppeってダイバーとあとどこ?」
「福岡」
「福岡だったの!?そうなんだ」

 ラーメン!ラーメン!と盛り上がる低級バンドにアーメンと、ナトリの顔を思い出し、「じゃ、そんなわけで帰ります」と、テキトーに缶を置いてベースを片付ける。

 ビールなんて半分以上残した、つまり、そーゆーことですよっと。

 あぁ、トリの曽根原そねはらさん、いねぇな。客席かなと気には掛かったが、まぁわかるだろうし、後であの女にでも挨拶頼んどこ。

 「お疲れ様です」とドアを出れば、丁度そうだ、いま二番手演奏中だ、曽根原さんと落ち合った。

「あっ、」

 扉を開ければ爆音、肩を叩かれ多分、「お疲れ~」と言われた気がするので、頭を下げて帰路に着いた。

 下北沢の喫煙所、ホントに減った。なんせ一ヶ所だ。

 ギターを担ぐやつはまぁ、いないが、若者は大体バンドの話しをしている。
 そんなものをぼんやり聞いて「若いなぁ」と思う歳になった。平成元年も、もう30を越えてしまった。

 こんな歳でも忙しい方がいい。まだまだ若手ではあるが俺やナトリは漸く…乗ってきたのにな。
 サイドの源ちゃんなんかは、トリッキー大御所のサブバンドと掛け持ちをしている現状。源ちゃんがウチに加入したのも、大御所からの移動だし、元のポテンシャルが高いんだよなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

back beat 完全版

テネシ
青春
短編の自主制作映画化を前提に戯曲形式で書いていた「back beat」シリーズを一本の長編映画戯曲化し、加筆修正を加えて一つに纏めました。 加筆修正エピソード 2章 ~Colors~ 3章 ~プロポーズ~ 4章~mental health+er~ 作中に登場する「玲奈」のセリフに修正が御座います。 大幅な加筆が御座います。 この作品は自主制作映画化を前提として戯曲形式で書かれております。 宮城県仙台市に本社を構えるとある芸能プロダクション そこには夢を目指す若者達が日々レッスンに励んでいる 地方と東京とのギャップ 現代の若者の常識と地方ゆえの古い考え方とのギャップ それでも自分自身を表現し、世に飛び出したいと願う若者達が日々レッスンに通っている そのプロダクションで映像演技の講師を担当する荏原 荏原はかつて東京で俳優を目指していたが「ある出来事以来」地元の仙台で演技講師をしていた そのプロダクションで起こる出来事と出会った人々によって、本当は何がしたいのかを考えるようになる荏原 物語は宮城県仙台市のレッスン場を中心に繰り広げられていく… この物語はフィクションであり、作中に登場する人物や会社は実在しておりません。 通常はト書には書かず絵コンテで表現する場面も、読んで頂くことを考えト書として記載し表現しております。 この作品は「アルファポリス」「小説家になろう」「ノベルアップ+」「エブリスタ」「カクヨム」において投稿された短編「back beat」シリーズを加筆修正を加えて長編作品として新たに投稿しております。 この物語はフィクションであり、作中に登場する人物や会社は実在しておりません。

早春の向日葵

千年砂漠
青春
 中学三年生の高野美咲は父の不倫とそれを苦に自殺を計った母に悩み精神的に荒れて、通っていた中学校で友人との喧嘩による騒ぎを起こし、受験まで後三カ月に迫った一月に隣町に住む伯母の家に引き取られ転校した。 その中学で美咲は篠原太陽という、同じクラスの少し不思議な男子と出会う。彼は誰かがいる所では美咲に話しかけて来なかったが何かと助けてくれ、美咲は好意以上の思いを抱いた。が、彼には好きな子がいると彼自身の口から聞き、思いを告げられないでいた。  自分ではどうしようもない家庭の不和に傷ついた多感な少女に起こるファンタジー。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

ムーンライト

甘夏☆レモン
青春
小6のアキトは、父子家庭に育ち、わがままでちょっと乱暴な小学生。 ある日、幼馴染のリンに、転校生を助けてほしい、と依頼される。 その転校生はソラという、不思議な雰囲気を持った美少年だった。 刻々と変化する家庭環境に翻弄されながら、いじめや親の虐待にも無抵抗なソラに、アキトはイライラするが、次第に純粋なソラに惹かれ、彼を救おうと決意する。

Slow Down

二色燕𠀋
青春
バンドさんたちの高校時代。 「Eccentric Late Show」より。 ※別編。「Eccentric Late Show」なくても読める。

アッチの話!

初田ハツ
青春
大学生の会話の九割は下ネタである──と波多野愛実は思っている。 工学部機械工学科の仲良し3人組愛実、檸檬、冬人に加え、冬人の幼馴染みの大地、大地と同じ国際学部情報グローバル学科の映見、檸檬の憧れの先輩直哉……さまざまなセクシャリティに、さまざまな恋愛模様。 愛実が勧誘された学科のある「係」をめぐり、彼らは旧体制を変えようと動き出す。 そんな中、映見がネット上で中傷を受ける事件が起こる。 恋愛、セックス、ジェンダー、性差別、下ネタ……大学生活の「アッチの話」は尽きない。

処理中です...