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The 31st episode

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 ターミナルから少しだけバスに乗り、降りてタクシーを拾い、また少しだけ行った都心で祥ちゃんが電話をしながら車を拾った。多分、関係者なんだろう。追跡避けというわけだ。

 映画のような街だった。日本の有楽町より規模のある、道路が広くて建物は広く多いニューオリンズの街。人々はきっと多いのだけど、広さでそれも邪魔ではない。

 黒くて大きな外車に乗った。昼の13時。10時間くらい誤差があるようだな。

 正直それくらいしか覚えてない。運転手がどうとか、それすらも。すぐに頭痛で寝てしまったようだ。

「着いたよ潤」

 祥ちゃんの声が右の真横で聞こえて起きた。その時には運転手は不自然にも、もういなかった。

 あたりは少し暗かった。17時37分。そんなに掛かったのか。

「大丈夫か潤」

 と流星が前の席から振り向いた。流星もどうやら、寝ていたような雰囲気だ。

「二人とも時差ボケかな」

 耳元に聞こえる祥ちゃんの声はいつものように穏やかで。動く左手は回して俺の左腕をやんわり、しかし掴まれていた。

「ショウって優しいんだネ」

そうか。
ユミルの中では祥ちゃんの印象、悪いのかもしれないな。なんとなくは予想が付くような気がした、あの海軍訓練所の祥ちゃん。冷たかったなぁ、怖かったなぁ。

「祥ちゃんは俺には優しいよ、ユミル」
「ははっ、まぁ、ワカル。潤ちゃんってそーゆーヤツ」
「大丈夫そうだな。降りようか」

 流星が促して俺たちは車を降りる。

 そこは、海軍訓練所の閉鎖感とも、エレボスの、どこか古ぼけていた、と言うより外観が研究施設のような物とも違う、十字架が立っている教会だった。

 降りてすぐに流星はまず車に寄りかかり、一瞬躊躇ったようだが無言でユミルに環ちゃんのお骨を預けてタバコに火をつけた。それをチラ見した祥ちゃんも、左手でその作業をして煙を吐く。
 俺も正面からぼんやり、寝起きの頭でタバコを咥えるが、ぼんやりして100円ライターが擦れなかった。無言で目が合った流星のタバコの火を貰う。

 顔が近いと気付く。お前も寝不足、と言うより目が血走っているなぁ。寝てねぇのか、寝れてねえのか。

「言やぁ貸すわ火くらい!」

 その目が開かれて何を言われるかと思えば。

「いや、借りたじゃん今」
「ライターだよ。最早部長命令で擦るタイプ禁止したいなお前」
「僕今潤ちゃんがリュウにキスすると思ったよホンキに」
「あぇ?」

 背後を振り向けば「やめー、No smoking!」とユミルは嫌そうだ。そうだ、ユミル嫌煙家だったわ。

「ははは、タラシはホント自然にやるね。思わず照れたんじゃないの流星」
「…うーん、初めてな気がするがなんか慣れてる俺がいるわ」
「シガーキスくらいでなんなのお前ら」
「うわっ」

 祥ちゃんは苦笑いして「くらいなんだ君たち…」と少し呆れられた気がする。

「旦那にやって貰えよクソ潤」
「はぁ?」
「その方がリアリティーがあるじゃん、俺じゃ嫌かい?」
「別に」
「相変わらずのツンデレだねぇ潤」

 喉が乾いたように笑う祥ちゃんに却ってこちらが照れたようなむず痒さを感じる。なんだよこの野郎。最近のセンチメンタルがなんだか晴れていくよ。

「政宗から聞いたけどお前らなんか、1年くらいなんだって?あの祥真クーデターからの」
「あ、そうそう。拾ったんだよね死にそうだったから、そいつ」
「そいつて…誰のせいだよ…俺だけど!」
「うわぁ、本気で祥真、性格悪いな~。なんで隠してたんだよ、お前どんな気持ちだったんだマジで」

 確かに!
 そうじゃん、こいつ俺の流星への愚痴とかどんな気持ちで聞いてたんだ1年。

「んー。いや…うーん…。ちゃんと国勢調査までは気付いていなかったことにしてるよ」
「国勢調査ぁ?」
「あ、そうそう。潤がへばってる間、俺お宅の部署に殴り込みに行ったんだよ」
「それ僕も知らないケド!」

えっ。
何こいつ。
大分掻き回してねぇか実は。

「あー、お前自主休暇取りやがったもんな」
「いや、多分選挙でしょ?」
「あぁ!あのアタリね!なんで今更リュウと喧嘩しに行ったノ?」
「いや、言わないであげてユミル。リュウの本気の洗い出」
「部下が死んだやつだよ」

 静かに流星は言う。祥ちゃんも俺も苦笑いでタバコを捨てた。だがユミルは「で?」と無邪気だ。

「軍隊と違うからな。日本警察はどうやらそーゆーの、うるさいんだよ」
「さくっと俺に皮肉を言うあたりどーなの…京都の人みたいだねー…」
「ホントに仲悪いんだね、極悪だねお前ら」

 お前ら若干タイプ似てるんだな。いや、ちょっとわかる気はするな。このチームあとユミルじゃなかったら多分ストレス性胃炎で潰れるよな、日本人なら。

 気まずそうにタバコを捨てた流星は「早く行く…かぁ?」と若干考え直し言い直す。最短精神単細胞の初めてなやつ。おまえがそんなにビビるの、ケリー氏。

「あーはは…。右腕に追悼をささげよっと…」
「僕ハ指が今組める幸せを噛み締めるヨ」
「俺マジどうしよ、貞操はもういい気がしてきた…。精巣片方損失しませんように…」
「そんなに頭おかしいのケ」

 喋ってる最中に祥ちゃんが突然俺の後頭部をがしっと掴んできたので舌を噛んだ、少し。

「いはっ、なっ、」
「はい先頭切ってくよ~…」

 左腕大分強っ。そのまま歩かれるけど一回頭は上げた。めちゃ笑顔ひきつってやがる。そんなか、俺生きて帰れるのかな。
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