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The 21st episode
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マトリ部署の前を通るが、どうも活気は見当たらなかった。そりゃぁ、そうである。
「湿気てんなぁ…」
ぼんやりと潤が言った。
まぁ、我々も当事者だ。彼らはいま、副部長と同僚を亡くした、当然だ。
「ねぇ、あんたは知ってる人?」
潤が政宗に聞く。政宗は至極淡々と、「ああ」と答えた。
「…じゃ、謝っとく。多分俺が殺したようなもんだから」
「それは違うだろ」
政宗はそんな、飄々とはしているが気持ちの裏が読めるような潤の態度に、なんとか微笑み、ふと立ち止まってぎこちなくもバサバサと潤の頭を撫でた。
「柄にねぇな潤、面白いくらいにな。
…俺は今お前らがなんとか生きてんならそれが優先だ」
「あっ…そう」
「だってまぁ、死人に口無しだ。生きてねぇとお前の煩さもなくなるからな」
全く。
ヘタクソな先輩だなぁ。
「…政宗、それちょっと違くないですか」
「お前もだぞ流星」
「ふっ、」
潤はにやりと笑うが、目には漸く闘志が実った。
「洗いますかぁ、
司法解剖はいつ?俺か政宗だと思いますがぶちょー」
「あぁ、そうだなぁ。じゃ政宗で。でもその前にまず、入間さんとこ行くかね」
「あっ」
「え、俺も行くの?」
潤が若干嫌そうなので「当たり前だろ」と笑顔を作り、返してやる。
「なんせお前、現場監督だぞ」
「え、そこでそれ発揮するの」
「当たり前だ」
「俺性格破綻だよ」
「確かに、潤なら殴っちまいそうじゃないか、取り調べの時のもあるし。でもお前会ったことすらないし。
あの人流石にそろそろ嫌味言ってくるんじゃないか」
「政宗、至極全うですね。
いいか潤、頭を上げるなよ。だからと言って下げないとか小癪なことはすんな。たまには大人になってくれ」
「それお前が言うの?俺ら一番ダメなやつじゃね?」
「だからいるんですよね、フクブ」
「はぁぁ~、なんて手の掛かる後輩上司なの」
わざとらしく政宗が溜め息を吐くので、「最短精神なんで荷物置いてこの足で行きましょうか」と言ってみる。
「…タバコは」
「今吸ったからダメっすね」
「はぁぁ~辞めたいぃ」
「またかよ」
「ホントそれ。馬券あげますんで来てくださいねセンパイ」
「外れ馬券だったら殺すぞ」
「いや大丈夫でしょ、多分、やったことねぇけど」
「無理じゃん~」
ついでに競馬を教わりゃいいや。
いや少しくらい、買い方くらいは知っている。なんせ樹実は密かに馬主だったからな。
「…ウチの保護者の馬しか知らないんですけどね」
「ダメだなもう活躍してない」
「あちゃ~」
「しかもヤツは負けまくって昔から高田に借金してたぞ」
「最低だあいつ」
「あ、ウチの保護者も馬買ってたよ。あれって簡単に買えるんだね。俺引きこもり時代逐一報告だったよ。あと株」
「…俺のあの人への株上がった。そっちのが大分いいわ」
部署について話が終わる。
あぁそうか、そういやこんな話、あの頃からあまりしてなかったな。
ふとそう気付いた。
そのせいなのか何なのか、挨拶を面々にしてから各々デスクに荷物を置き、しかし案外、潤が先に出て俺が一番最後。
扉で政宗はにかっと笑い、「つか、酒でいいわ部長」と肩を叩いて言ってきた。
「一番嫌だ」
「なんで」
「流星ダメだよ。ゴリラには人間ほど知能がない」
「空気読めない引きこもりに言われたくねぇよ」
「つか被害者俺。行く意味ないもん」
「だから、」
「あるっつーの」が政宗と被る。潤が「あい、はーい」と流した。
「…お前ら本気でやめてよね。俺胃が痛くなってきた。昔教えたから大丈夫だよね、ね?」
「政宗だからなぁ」
「教わったっけ俺ら」
「捻り潰すぞお前らマジで」
あぁあ。
「いやー憂鬱になってきた。嫌だな入間さん」
「そんなにヤバイん?」
「ヤバくねぇけどほら、厚労省トップだし、部署引っ越し初日のこれだよ。下手すりゃ首飛ぶな俺」
「あ、首はヤバイね死んじゃうね」
「なー。お前ってこんなときマジでバカすぎて助かるわ」
だらだらしている。3人して凄く行きたくないのである。
なんせ今回は始末書じゃない。直々だ。マジで部署がなくなるかもしれない。だって、高田と連絡取れないし。
エレベーター、酷く憂鬱。というか乗り物酔いしたんじゃないか、気持ち悪くなってきた気がする。
「吐いたらどうしよ」
「お前でもダメなんだね~、お前も人生ナメろよ」
「いや二人してナメてんだろ。俺何回このエレベーター登ったか知らねぇだろ4回だぞバカ」
「え部署出来てから?」
「そうだよ暴れ馬!あぁやだ」
「ね、じゃんけんで誰が先入るか決めね?」
「お前ってなんでそんなに空気読めないの?それは俺だよ、部長だから!」
ちーん。
着いちゃった13階。
「いや待て流星。俺行く。俺のが慣れてる」
「マジ?さんきゅ」
「うわ、」
小癪な奴めと言った後、“厚労省大臣”の部屋につく。
ノックは政宗がした。後ろから俺が「失礼します、特本部です」と名乗ったら握力で叩かれた。
あい、だかはい、だかよくわからん返事の後、政宗が先頭切って扉を開けた。
「湿気てんなぁ…」
ぼんやりと潤が言った。
まぁ、我々も当事者だ。彼らはいま、副部長と同僚を亡くした、当然だ。
「ねぇ、あんたは知ってる人?」
潤が政宗に聞く。政宗は至極淡々と、「ああ」と答えた。
「…じゃ、謝っとく。多分俺が殺したようなもんだから」
「それは違うだろ」
政宗はそんな、飄々とはしているが気持ちの裏が読めるような潤の態度に、なんとか微笑み、ふと立ち止まってぎこちなくもバサバサと潤の頭を撫でた。
「柄にねぇな潤、面白いくらいにな。
…俺は今お前らがなんとか生きてんならそれが優先だ」
「あっ…そう」
「だってまぁ、死人に口無しだ。生きてねぇとお前の煩さもなくなるからな」
全く。
ヘタクソな先輩だなぁ。
「…政宗、それちょっと違くないですか」
「お前もだぞ流星」
「ふっ、」
潤はにやりと笑うが、目には漸く闘志が実った。
「洗いますかぁ、
司法解剖はいつ?俺か政宗だと思いますがぶちょー」
「あぁ、そうだなぁ。じゃ政宗で。でもその前にまず、入間さんとこ行くかね」
「あっ」
「え、俺も行くの?」
潤が若干嫌そうなので「当たり前だろ」と笑顔を作り、返してやる。
「なんせお前、現場監督だぞ」
「え、そこでそれ発揮するの」
「当たり前だ」
「俺性格破綻だよ」
「確かに、潤なら殴っちまいそうじゃないか、取り調べの時のもあるし。でもお前会ったことすらないし。
あの人流石にそろそろ嫌味言ってくるんじゃないか」
「政宗、至極全うですね。
いいか潤、頭を上げるなよ。だからと言って下げないとか小癪なことはすんな。たまには大人になってくれ」
「それお前が言うの?俺ら一番ダメなやつじゃね?」
「だからいるんですよね、フクブ」
「はぁぁ~、なんて手の掛かる後輩上司なの」
わざとらしく政宗が溜め息を吐くので、「最短精神なんで荷物置いてこの足で行きましょうか」と言ってみる。
「…タバコは」
「今吸ったからダメっすね」
「はぁぁ~辞めたいぃ」
「またかよ」
「ホントそれ。馬券あげますんで来てくださいねセンパイ」
「外れ馬券だったら殺すぞ」
「いや大丈夫でしょ、多分、やったことねぇけど」
「無理じゃん~」
ついでに競馬を教わりゃいいや。
いや少しくらい、買い方くらいは知っている。なんせ樹実は密かに馬主だったからな。
「…ウチの保護者の馬しか知らないんですけどね」
「ダメだなもう活躍してない」
「あちゃ~」
「しかもヤツは負けまくって昔から高田に借金してたぞ」
「最低だあいつ」
「あ、ウチの保護者も馬買ってたよ。あれって簡単に買えるんだね。俺引きこもり時代逐一報告だったよ。あと株」
「…俺のあの人への株上がった。そっちのが大分いいわ」
部署について話が終わる。
あぁそうか、そういやこんな話、あの頃からあまりしてなかったな。
ふとそう気付いた。
そのせいなのか何なのか、挨拶を面々にしてから各々デスクに荷物を置き、しかし案外、潤が先に出て俺が一番最後。
扉で政宗はにかっと笑い、「つか、酒でいいわ部長」と肩を叩いて言ってきた。
「一番嫌だ」
「なんで」
「流星ダメだよ。ゴリラには人間ほど知能がない」
「空気読めない引きこもりに言われたくねぇよ」
「つか被害者俺。行く意味ないもん」
「だから、」
「あるっつーの」が政宗と被る。潤が「あい、はーい」と流した。
「…お前ら本気でやめてよね。俺胃が痛くなってきた。昔教えたから大丈夫だよね、ね?」
「政宗だからなぁ」
「教わったっけ俺ら」
「捻り潰すぞお前らマジで」
あぁあ。
「いやー憂鬱になってきた。嫌だな入間さん」
「そんなにヤバイん?」
「ヤバくねぇけどほら、厚労省トップだし、部署引っ越し初日のこれだよ。下手すりゃ首飛ぶな俺」
「あ、首はヤバイね死んじゃうね」
「なー。お前ってこんなときマジでバカすぎて助かるわ」
だらだらしている。3人して凄く行きたくないのである。
なんせ今回は始末書じゃない。直々だ。マジで部署がなくなるかもしれない。だって、高田と連絡取れないし。
エレベーター、酷く憂鬱。というか乗り物酔いしたんじゃないか、気持ち悪くなってきた気がする。
「吐いたらどうしよ」
「お前でもダメなんだね~、お前も人生ナメろよ」
「いや二人してナメてんだろ。俺何回このエレベーター登ったか知らねぇだろ4回だぞバカ」
「え部署出来てから?」
「そうだよ暴れ馬!あぁやだ」
「ね、じゃんけんで誰が先入るか決めね?」
「お前ってなんでそんなに空気読めないの?それは俺だよ、部長だから!」
ちーん。
着いちゃった13階。
「いや待て流星。俺行く。俺のが慣れてる」
「マジ?さんきゅ」
「うわ、」
小癪な奴めと言った後、“厚労省大臣”の部屋につく。
ノックは政宗がした。後ろから俺が「失礼します、特本部です」と名乗ったら握力で叩かれた。
あい、だかはい、だかよくわからん返事の後、政宗が先頭切って扉を開けた。
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