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The 17th episode
6
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「はい、」
『でたか。どうだそっちは』
「んー、ワケわからん事態」
『…まぁ生きてんな。俺らそっち向かう。こっちは、なんとか』
「随分早いですね」
『まぁ、フェイクだからな』
「はぁ、」
『…機捜隊もご一緒だ』
「…機捜隊?」
なに?
『お前、こっちを大筋というのは』
「まぁ、つまり。我々の案件はそちらだと」
『なるほどな。
やられたなこりゃ』
「は?」
『…山下祥真が数名引き連れて現場に残ってる。俺はまだ現場だ』
「…祥真が?」
その一言に。
腕を組んで手すりに腰かけた潤が流星を睨むように見る。だが、流星は気付かない。
「…政宗。
それは、どうして」
『…俺もそれが聞きたい』
「…わかりました。
そちらにユミルを派遣します。あんたはそこに、残ってください」
『…いいのか』
「…その代わり早く済ませて来てください。あいつは、ユミルとなら、死なずに済む」
『…そう、なのか』
「…俺のことを、なんと言ったかは、わかりません。ですがあいつにはまた、恨まれるかもしれませんね。
ユミルは、あいつを一度戦地で、殺してやろうとしたことがあります」
『…流星、』
「だから、あいつはユミルと自殺をするような真似はしません。俺ならきっと、殺し合いになる。だから、ユミルなんで…すよ、」
『…なんで、』
「あんたを殺すのもふざけている。だから早く、済ませて来てください」
『…わかってねぇな。
多分、山下も…。よくわからんが、お前が思っているそれとは、違うと思う』
「話は以上でしょうか」
『あぁ』
電話を切った。そして無線を繋ぐ。
「ユミル、悪いが今からテイトへいけ。
ケルベロスを止めてこい」
『…はぁ?』
「大丈夫か?
まぁ話はあとだ。政宗もいる。
早くしねぇとあいつ、“シベリア”の二の舞になる。それだけは避けたい」
『…来てるの、ショウ』
「あぁ」
『仕方ないねぇ。君たち、仲直り、した方がイイヨ。ホント。じゃないと俺…
あと何人仲間ぶっ殺せっつーんだよ、このクソ隊長が』
切れた。
ドスの利いたユミルの流暢な日本語。
久しぶりに本気で怒らせたらしい。
「潤、」
ケータイを手に持ち、ぶら下げたまま言う流星はどうも、覇気がない。
「なに」
だが、ふと潤と見つめ合った目は。
潤は潤で変わりなく飄々としている。
恐らく、動揺したのは自分だけだろう。
しかしなんだか、互いに含みはありそうで。
「…政宗やユミルに大方こってり言われたんだろてめえ」
「あぁ、まぁな」
「湿気た面しやがって気色悪ぃ」
そう言うわりに潤は、くすっと笑った。
「なんだか知らねぇがさっさと殺ってさっさと帰る。まず煙いんだよ葬式かてめぇ。タバコ係りも漸くお出ましだ。さくっと…解散しよ」
確かに。
「まぁ、そうだな」
それが一番いいのかもしれない。
学生の手錠は解いた。
階段を降りる。少しゆっくり。やはりさっきの連発は腹にきたらしい潤の動きがいささか年老いている。
「お前さ」
「あ?…なんだよ、」
「解散したら次は?」
「あー、うんやめっかな高田んとこ。なんか長生き出来なそうだし」
「まぁそりゃ間違いねぇけど
お前社会不適合じゃねぇか?」
「失礼な。
探偵事務所とかどー?よくね?」
「より刺されそうだけど」
「マジか。スナイパー雇うか」
「うわ、即効逮捕だ」
「大丈夫だよ多分」
「ダメだよ多分」
でもまずは。
「まぁ、解散の前に生き残んなきゃな。痛えし」
「だよな。お前階段がジジイ歩きだもんな、バーカ」
「ちと調子こいたな、人間の限界見たわ」
「まだまだ。なんせ捕まえてねぇよ」
「ねぇあのさ」
ふと、潤が真剣に言うもんだから。
思わず先を歩く流星は振り向く。やはり、腹を少し押さえていた潤は、痛さなのか、なんなのか、意外と顔は真剣で。
「お前はどうすんの?」
「どうって?」
「全部終わったら」
くだらねぇな。
くだらなすぎて。
また歩き始めた。
「考えてねえな」
「じゃぁさ。なんでここまで、来たわけ?」
「んー、そうねぇ」
それも野暮ったいけど。
「なんでだろうね」
「はぁ?」
「自我がねぇか?」
「…いや、」
それを言っちまったら。
「俺もそうかもね」
「あっそう」
「まぁあれかね。
『私に拾われてしまったのが運の尽きですよ』じゃね?」
「は?」
「かっこよくね?恩師の言葉らしいよ」
誰の、とは潤は言わなかった。しかし、そうか。
「はぁ、なるほどなぁ」
あの人らしいや。
「ここに来て思い出すとか、お前縁起でもねぇなバカ」
「なにそれ、人がさぁ、」
「殺さねぇっつってんだよ。
ムカついてきたなユミルの野郎。
政宗も、みんなも、ムカついてきたな。
第一誰が死体処理すると思ってんだふざけんな、ムリだし」
「いや大体俺じゃん」
「うるせぇ死ね」
「どっちだよ」
「バカ、もういい」
黙ってついて来いだなんて昔からそんなことは言えないで来た。
今だって言えない。多分これからも、言えることはない。
だけど。
「うるさくていいから取り敢えず来いよ…」
これだけだ。
あいつとは、やっぱり違う。
「…はいはい、どこ行くんだ単細胞」
わかんねぇよ。
「地下」
「は?」
「勘」
「前回と一緒なの?」
「そう」
「あっそ。違かったら切腹しろよタコ」
「ピストル脳天でい?」
「ダメ。日本人だから」
なんだそれは。
まぁいい。
死ななければいい。結局そこなんだ。
『でたか。どうだそっちは』
「んー、ワケわからん事態」
『…まぁ生きてんな。俺らそっち向かう。こっちは、なんとか』
「随分早いですね」
『まぁ、フェイクだからな』
「はぁ、」
『…機捜隊もご一緒だ』
「…機捜隊?」
なに?
『お前、こっちを大筋というのは』
「まぁ、つまり。我々の案件はそちらだと」
『なるほどな。
やられたなこりゃ』
「は?」
『…山下祥真が数名引き連れて現場に残ってる。俺はまだ現場だ』
「…祥真が?」
その一言に。
腕を組んで手すりに腰かけた潤が流星を睨むように見る。だが、流星は気付かない。
「…政宗。
それは、どうして」
『…俺もそれが聞きたい』
「…わかりました。
そちらにユミルを派遣します。あんたはそこに、残ってください」
『…いいのか』
「…その代わり早く済ませて来てください。あいつは、ユミルとなら、死なずに済む」
『…そう、なのか』
「…俺のことを、なんと言ったかは、わかりません。ですがあいつにはまた、恨まれるかもしれませんね。
ユミルは、あいつを一度戦地で、殺してやろうとしたことがあります」
『…流星、』
「だから、あいつはユミルと自殺をするような真似はしません。俺ならきっと、殺し合いになる。だから、ユミルなんで…すよ、」
『…なんで、』
「あんたを殺すのもふざけている。だから早く、済ませて来てください」
『…わかってねぇな。
多分、山下も…。よくわからんが、お前が思っているそれとは、違うと思う』
「話は以上でしょうか」
『あぁ』
電話を切った。そして無線を繋ぐ。
「ユミル、悪いが今からテイトへいけ。
ケルベロスを止めてこい」
『…はぁ?』
「大丈夫か?
まぁ話はあとだ。政宗もいる。
早くしねぇとあいつ、“シベリア”の二の舞になる。それだけは避けたい」
『…来てるの、ショウ』
「あぁ」
『仕方ないねぇ。君たち、仲直り、した方がイイヨ。ホント。じゃないと俺…
あと何人仲間ぶっ殺せっつーんだよ、このクソ隊長が』
切れた。
ドスの利いたユミルの流暢な日本語。
久しぶりに本気で怒らせたらしい。
「潤、」
ケータイを手に持ち、ぶら下げたまま言う流星はどうも、覇気がない。
「なに」
だが、ふと潤と見つめ合った目は。
潤は潤で変わりなく飄々としている。
恐らく、動揺したのは自分だけだろう。
しかしなんだか、互いに含みはありそうで。
「…政宗やユミルに大方こってり言われたんだろてめえ」
「あぁ、まぁな」
「湿気た面しやがって気色悪ぃ」
そう言うわりに潤は、くすっと笑った。
「なんだか知らねぇがさっさと殺ってさっさと帰る。まず煙いんだよ葬式かてめぇ。タバコ係りも漸くお出ましだ。さくっと…解散しよ」
確かに。
「まぁ、そうだな」
それが一番いいのかもしれない。
学生の手錠は解いた。
階段を降りる。少しゆっくり。やはりさっきの連発は腹にきたらしい潤の動きがいささか年老いている。
「お前さ」
「あ?…なんだよ、」
「解散したら次は?」
「あー、うんやめっかな高田んとこ。なんか長生き出来なそうだし」
「まぁそりゃ間違いねぇけど
お前社会不適合じゃねぇか?」
「失礼な。
探偵事務所とかどー?よくね?」
「より刺されそうだけど」
「マジか。スナイパー雇うか」
「うわ、即効逮捕だ」
「大丈夫だよ多分」
「ダメだよ多分」
でもまずは。
「まぁ、解散の前に生き残んなきゃな。痛えし」
「だよな。お前階段がジジイ歩きだもんな、バーカ」
「ちと調子こいたな、人間の限界見たわ」
「まだまだ。なんせ捕まえてねぇよ」
「ねぇあのさ」
ふと、潤が真剣に言うもんだから。
思わず先を歩く流星は振り向く。やはり、腹を少し押さえていた潤は、痛さなのか、なんなのか、意外と顔は真剣で。
「お前はどうすんの?」
「どうって?」
「全部終わったら」
くだらねぇな。
くだらなすぎて。
また歩き始めた。
「考えてねえな」
「じゃぁさ。なんでここまで、来たわけ?」
「んー、そうねぇ」
それも野暮ったいけど。
「なんでだろうね」
「はぁ?」
「自我がねぇか?」
「…いや、」
それを言っちまったら。
「俺もそうかもね」
「あっそう」
「まぁあれかね。
『私に拾われてしまったのが運の尽きですよ』じゃね?」
「は?」
「かっこよくね?恩師の言葉らしいよ」
誰の、とは潤は言わなかった。しかし、そうか。
「はぁ、なるほどなぁ」
あの人らしいや。
「ここに来て思い出すとか、お前縁起でもねぇなバカ」
「なにそれ、人がさぁ、」
「殺さねぇっつってんだよ。
ムカついてきたなユミルの野郎。
政宗も、みんなも、ムカついてきたな。
第一誰が死体処理すると思ってんだふざけんな、ムリだし」
「いや大体俺じゃん」
「うるせぇ死ね」
「どっちだよ」
「バカ、もういい」
黙ってついて来いだなんて昔からそんなことは言えないで来た。
今だって言えない。多分これからも、言えることはない。
だけど。
「うるさくていいから取り敢えず来いよ…」
これだけだ。
あいつとは、やっぱり違う。
「…はいはい、どこ行くんだ単細胞」
わかんねぇよ。
「地下」
「は?」
「勘」
「前回と一緒なの?」
「そう」
「あっそ。違かったら切腹しろよタコ」
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