上 下
191 / 376
The 12nd episode

11

しおりを挟む
 朝、「あんたら昨夜なにしてたの…」と驚愕の表情で伊緒に起こされたときは状況判断に遅れてしまった。

「おはよう…ん?」

 まず景色が若干違う。ソファ付近にはなかった電気スタンドとかが目について妙に身体が生暖かいし寝心地がいいしまぁ、どう見てもベットなわけで。
 視界に忍び込む朝日に目を細めつつ、頭痛がして反射的に額を覆おうとしてそれが敵わない。
 なんか自分の左手が何かの力によって妨げられてる。

 左を見れば政宗が同じベットで俺の左腕をガッツリ掴んでいた。思わず目ぇぱっちり。よくみりゃ生暖かい理由は、頭上の、政宗の右腕。

なにこれ。どなってんの?

「はっ…」
「…起こすのもどうかと思ったんですが」
「え、は?」

 一気に覚醒したがなんだこれ。気持ち悪っ。まさしく俺は、政宗の半抱き枕状態だったわけで。

「おい…」

 しかも、政宗の握力というか力が寝ててもゴリラ。タチが悪い。

てか俺あのままブラックアウトしたはずなのになんでこいつのベットに運ばれてんだよこの野郎。

「起きろ、っうぇっ、」

 咳き込んだ。朝は喋れない。怒りも相まってドスの聞いた声が出ちゃったせいで気管支がちょっと弱った。

「ちょ、流星さん、大丈夫ですか?」
「んー?朝…?」

 そんな中、ゴリラ野郎は呑気に起きやがって、しかし俺が喋れない。
 伊緒が政宗を獣を見るような冷たい目で見下して「おはようございます」と挨拶したのち、「最低っすね」と罵った。

なんか彼の頭の中の想像では取り敢えず俺はなんか擁護されているが、多分それは俺が求めていない嫌な擁護な気がする。

「え?は?おは…、え、お前死ぬ?」
「るさっ、まっ、ちょ、どうなってんすかこれ。つか気色悪いわ何してん?」
「え?お前をベットに移動したんだよ?おはよう流星」
「おはよう。数々の誤解を生んでくれてありがとう。服着ろゴリラ。あんたが風邪引け。離せよ誤解を解けよ頭痛ぇな」
「え、なにどうしたの」

 政宗もわかっていない様子。知るか。俺は不機嫌だ。

 乱暴に左腕を政宗から引っこ抜いて逃げた。タバコを吸おう。伊緒はソファへ逃げた俺をまだ疑いの目で見ている。

 あのなぁ、世の中そんな薄汚れてねぇよ、俺は潤じゃねぇよと言うのもアホらしいので、弁明は先輩にぶん投げることにした。
 伊緒はそんな俺を見て政宗を睨み、仁王立ちをしている。

「あんた、無理させましたね」

そっちか。そもそも前提か。まぁ無理もないよね。だって俺と政宗二人の構図がキモかったもん今。

「はぁ?いやまぁ飲ませたけど」
「は?」
「俺も酔ってたけどさ」

待て待て待て。
伊緒はそういった意味では純粋じゃないぞある意味。それ助長するぞ。やめてくれないかな。

「最っっ低」

 最上級の嫌悪感で政宗に言い捨てる伊緒くん。

あぁぁ。
でもめんどいからもーいいや。

「朝飯は何がいいですか野郎共。俺作るんで喧嘩しててください」

こうなってしまえばヤケである。あとはとことんやらせておこう。

 朝飯が出来る頃にはあっさり誤解は解けたらしい。だが伊緒は政宗に謝らなかった。
 何故なら政宗が全面的に悪いという決断に至ったからだ。それは政宗本人も、「確かにあれはちょっと…」と、寝ぼけ終わった頭で冷静に判断したみたいだ。

ですよね。お前が悪いですよ。

「俺たまになんかこうさ、人肌恋しくなっちまうときってのが」
「誤解をまた呼びますよね」
「まぁ一緒に住んでて俺もたまに抱き枕状態はありましたけど」
「あったの!?」
「はい。この人でもなんか色々仕方ないかなと思って俺は甘んじて受け入れましたよ」
「じゃぁなんで誤解すんだよ」
「いやぁ、流石に腕枕チックはなかったなと。あと流星さんヤケに動揺してるし」
「仕方ねぇよ。流星そーゆーとこあるから」

うるせぇな誰が童貞だ。

「アブノーマルを最近見たもんでな。身近でな。からかうな」

 朝飯(政宗宅には味噌汁とパンと卵くらいしかなかった)の会話がこんなんだった。ちょっとクズすぎる。

「てかお前うまっ」
「そうなんですよー。流星さん何気にそーゆーとこあるんですよー」
「あの冷蔵庫からよく作ったなお前」
「元家政婦だからね」

 樹実との二人暮らしのときそれはもう、料理には難癖つけられまくった。なんなら俺はあいつと喧嘩して一回家を出て行ったことがあった。

「あいつと飯食いに行くとやたら高い店だったからなー」
「あいつ?」
「こいつの元飼い主だよ」
「そうそう。何度料理で喧嘩したか」
「そんな?」
「うん。出てったこともあるし何ならぶっ殺してやろうとしたこともあったよ。頭来て納豆だけ置いてったらあいつ泣きそうになってたわ」
「あー、あいつ嫌いだったもんな。あいつの欠点納豆だったな」

懐かしいな。あいつ、本気で追いかけてきていきなり後ろから抱きつくから、マジで殺されるかと思ったわ。

「まぁ、今となっては昔の話だ」

俺はあれから納豆食えなくなったよ、樹実。クソ野郎め。折角の日本食だというのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転ばぬ先のハイテク医療検査

ハリマオ65
現代文学
 日本の現代医療技術が進み、世界トップクラス。CT,MRIも人口比で世界一。しかし首都圏でも大型病院で、検査するのに1日がかりで、厳しいのが現状、地方では、先端医療機械が不足し、さらに困難。  泉田誠一は専門施設を卒業、臨床放射線技師になり現状を改善するため医療機関から独立した高度医療検査のみのセンターを開設を仲間達と考えた。しかし調べて見ると、あまり公にされず首都圏には、すでに数施設できていた。その事実を知り、この施設をもっと多くの人の役立つように新設しようと挑戦する物語。 この問題は皆様方に真剣に考えて欲しいと書きましたので是非、ご覧下さい この作品は、小説家になろう、noveldaysに重複投稿しています。

天まで届け! この想い!

ゆる弥
現代文学
天へと昇って逝った知人と父に届きますように。 そう願ったホッコリするお話。

私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~

あらお☆ひろ
現代文学
白血病の診断を受けた20歳の大学生「本田望《ほんだ・のぞみ》」と偶然出会ったちょっと変わった太ったおじさん「備里健《そなえざと・けん」》の1週間の物語です。 「劇脚本」用に大人の絵本(※「H」なものではありません)的に準備したものです。 マニアな読者(笑)を抱えてる「赤井翼」氏の原案をもとに加筆しました。 「病気」を取り扱っていますが、重くならないようにしています。 希と健が「B級グルメ」を楽しみながら、「病気平癒」の神様(※諸説あり)をめぐる話です。 わかりやすいように、極力写真を入れるようにしていますが、撮り忘れやピンボケでアップできないところもあるのはご愛敬としてください。 基本的には、「ハッピーエンド」なので「ゆるーく」お読みください。 全31チャプターなのでひと月くらいお付き合いいただきたいと思います。 よろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

シニカルな話はいかが

小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。

熱血科学者の子が環境問題に挑戦

ハリマオ65
現代文学
*父は、反骨の科学者、息子は、太陽光発電で貢献したが挫折、でも子孫に良い環境を残すんだ! 薄井淳一は、小さい時から神童と言われた。その後、東大大学院応用化学専攻博士課程を修了し大手化学メーカーに就職。  しかし、生来、正義感が強く水俣病の有機水銀説に衝撃を受け、学生時代から水俣に足を運び調査。水俣病の問題を取りあげ、黙っていられず、公害企業や行政側に立った「御用学者」を猛烈に批判。  自分の実名を出し水俣病告発。そのため東大での出世の道は閉ざされた。それを不憫に思う大学の先輩が、沖縄大学に呼んでくれた。  その息子の薄井富一も父譲りの性格で、熱い男。その後、働きながら株投資で、金を作り、環境問題に投資しようと考え・・・。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

M00N!!

望月来夢
キャラ文芸
悪魔たちの世界で栄華を誇る都市、アメジスト。さる大手ゲーム会社のおかげで発展したこの街は、影で暗躍する独立諜報機関によって、長きに渡り守られてきた。 主人公のムーンは、機関で働く特級エージェントにして、抜群の狙撃能力を持つスナイパー。気まぐれで怠惰な性格から、常に周囲を振り回し、大いに迷惑をかけている。 そんな彼に、特別な任務が下された。街の平和を保つため、彼は破滅の歌声を持つ少女と共に、狂気の天才ピアニスト・メレフと対決する……。 ※『インペリアル・トワイライト』と世界観を同じくする、いわばスピンオフ的な作品です。ですが、そちらを読んでいなくても、分かるよう工夫していますのでご安心を。もしご興味があれば、イントワの方もよろしくお願いします。

処理中です...